第四十三章
遠くから、馬車に取り付けてある、鈴の連なりの音が聞こえてくる。
「こんな時間にかい?」
ブリスが怪訝がり、ルナは緊張する。
まともな人間が、この時間には出歩かない。
自分を棚に上げ、ルナは考える。
──何者だ?
やがて強烈な光を放つ馬車ランプが見え、一台の二頭立てのクーペ、四輪箱型馬車がゴミ集積所の前で止まる。
誰かが馬車から降りてきた。
その人物はランタンを持ち、ゴミの山に少し驚いた様子を動きに表しながら、彼女たちに近づいて来た。
「…………っ!」
ルナは驚きつつ、呆れた。
ランタンの灯で辛うじて判断できるが、ウィルだったのだ。
ルナは彼に向かってゴミの山から跳ぶ。
「うわっ」とウィルはかなり驚いたように、数歩下がった。
「どうしてこんな場所にいるんです? ウィル様」
「ル、ルナか……驚かすなよ。て、それはこっちの台詞だ! 何で君はここにいる? ここのところ毎夜出かけていたのは、ここに来ていたからなのか?」
「どうしてここにいると思われたんですか?」
「御者のゴーチエからロドリン地区へ出かけると聞いた……けれど、彼は君が心配だったんだ。それでロドリン地区にあるのはここくらいだと思ったんだよ」
「仕方ありませんね……そうです。ずっとここに来ていました」
「どうして……」
ウィルは信じられない、と言った風に周囲を何度も見回した。
「捜し物があるんです」
「うん? 間違えて何か大事な物でも捨てたのか?」
「そうなります」
はあ、とウィルは息をついた。
「なら帰ろう。君の大事なものは僕が代わりに買ってあげるよ。こんな所に毎日来ては危ない」
「いいえ」とルナは首を振った。
「お金では買えないものなんです」
「……買えない? いったい何を探しているんだい?」
「ウィル様にはどうでもいいことです」
「これだ」とウィルは夜空を仰ぐ。
「ウィル様、ここは危険な場所です。どうかお帰りください」
「君が言うかい? 大丈夫。僕は君みたいなあほじゃないから、ちゃんと護衛を連れている」
「……あほ?」
かちんとくるルナだが、視線を停車している馬車に移した。




