第三十五章
「ぐへへへへ」コリー何がおかしいのか、哄笑した。
「じつはら、あれは頼まれたんらぜ」
「頼まれた?」
ルナの眼鏡に隠された目が細くなる。
「そうら……そうすれば、市民が喜ぶってら」
「……誰にですか?」
うへへへへ、とコリーはまた肩を震わした。
「あの外国の英雄気取りを殺ったときには、すかっとしたなあ。オレはああいう取り澄ました奴が一番きらいら。ざまぁみろ!」
ルナの息が浅くなる。
今すぐにでもこの男を永遠に黙らせたかった。
だが『あの時』の真相が聞きたい。
「どうして、一度で首を狙わなかったのですか?」
「フィリッポさんの考えさ」
「フィリッポ? それはどなたですか?」
あるいは平時なら口を割らなかっただろう。だが今のコリーは酒で判断能力が鈍っていた。
「ラパロ商会のフィリッポさんだ。オレもそこで少し世話になっている……フィリッポさんはな、他のバカどもと違って、オレの大変さを分かってくれるんだ」
ルナはエールを追加し、コリーはそれをすぐに干す。
「どいつもこいつもオレを蔑みやがって。ならてめえでやってみろってんだ!」
「そうです、私もそう思います。私はコリーさんがすごいと思います。それで、フィリッポさんに、なんて指示されたんですか?」
コリーはふと真面目な眼差しになり、じっとルナを見つめた。
まだ酒が足りないのか、と彼女は疑ったが、そのまま彼は口を開く。
「英雄……英雄様に残酷な最後を与えろ、そうフィリッポさんに言われた。斧の一撃目は背中にしろって……全く素晴らしい思いつきだった。オレがそうすると集まった奴らが大笑いをして、アレクシスの奴は苦しみ、血がたっぷりと……」
がたん、とルナは椅子から立ち上がり、その場を後にした。
限界だった。
これ以上は聞けない。
彼女は幾つもの奇異な目で追われることを自覚しながら、駆けるように扉から外に出る。
涼やかな夜風が、熱した頭の芯を撫でて、彼女を冷静にしてくれる。
だがすぐに胸の奥から這い上がる不快感に気づき、ルナは店の横手に慌てて移動した。
そこで身を折って、食べていたオレンジピールを、胃液と吐き出す。
今更だが、オレンジの風味と苦さ、えぐみが溜まらなく気持ち悪かった。
幾度か喉を震わせたルナは、視線を上げた。
その瞳は闇に塗り込まれ、彼女の魂が殺人衝動に冷え固まってると、誰でも一瞥すれば見破れるだろう。
「……ラパロ商会のフィリッポ、処刑人コリー。お前たちの運命は決まった」
呟くと口を拭い、ルナは歩き出す。
ゴミ集積所に戻るのだ。
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