第二十二章
ルナは改めて辺りを見回した。
確かにまだ食べられるところが残っている肉やら、歯形も付いていないパン、ほとんど分からない傷しかついていない食器、壊れてもいないソファやらが、見える範囲にも埋まっていた。
「おれたちはそれらを回収する仕事をしているんだ。結構、金になるんだぜ」
今や周囲の気配がはっきりと感じられる。
ダン以外にも、同様の仕事に従事するものがいるようだ。
「あのダンさん、周りの人はお友達ですか?」
よくよく観察すると、子どもだけではなく女性や、老人たちも混ざっていた。
「あ、まあ意外とこの地区では、これは普通の仕事なんだよ、みんな生きるので精一杯なのさ」
「そうですか……ダンさん」
「うん? なに」
「あなたのお友達にも縫いぐるみの件、話して欲しいんですけれど」
「ああそれか」ダンの表情が曇った。
「でもなあ、そんなにみんな顔見知りじゃないし……」
「お願いします。どうしても必要なんです」
はあ、とダンは肩を下げる。
「分かった、やってみる。でも、あまり期待しないでくれよ」
ダンは立ち上がると、数歩進み声を張り上げた。
「みんな、話を聞いて欲しい! 探してもらいたい物があるんだ!」
すっと周囲の影の動きが止まるのが、ルナにも分かる。
「何だよ、ダンじゃねえか」
応じて誰かが声を上げる。
「う、ブリス」ダンは怯んだように、一歩後退する。
「オレは言ったよな。ここらはオレの縄張りだって」
キャンドルを手に現れたのは、ダンより幾つか年上の、ルナと大して変わらない年頃だろう、少年たちだ。
「縄張りなんてないだろ! 頼むよブリス。あんたの邪魔はしないから」
「そうはいかね……」
ブリスと言う名前らしい長髪の少年が、ルナに気づく。
「へぇー」と彼の目が細められた。
「意外に可愛い女がいるじゃん」
「辞めろよ! ブリス!」
ダンはルナの前に立ち塞がりながら、
「逃げて」と囁く。
「どうしてですか?」
ルナは怪訝に思い、尋ねる。
「こいつらはあんたみたいな女の子を、娼館に差し出して金に換えることもしているんだ」
「コーム左、ゲルト右」
ブリスはにやにやと笑いながら、連れている二人の少年に命令する。
痩せたのっぽのコームがルナの左側、丸い顔の小柄なゲルトが右側に回る。
「ここいらじゃ見ない上玉だ。こんな女を連れて行けば、かなりの金になる」
ブリスは懐からナイフを取り出した。
ぎらり、とその不規則な刃が、蝋燭の火に鈍く輝く。
「早く逃げろ、おれがブリスたちを引き付けるから!」




