第十六章
次の日、誰よりも早くルナは起床した。
同室のマリアは、まだ健やかな寝息を立てている。
素早く着替え、身支度を整えると、彼女は一人アイリス姫の寝室へと向かった。
数回ノックし、返事がないので、「失礼致します」と扉を開く。
アイリス姫もまだ眠っているようだった。
テーブルに近づくと、昨日の食事は綺麗になくなっていた。
ルナは自然と口辺を緩めると、それを素早く回収する。
今回のことについて、彼女はこれ以上挙げるつもりはない。
アイリス姫の名誉がかかっていることなので、全て胸中に隠したままにする。
「ううんっ」
と、アイリス姫が言葉を発した。
慌てて天蓋の隙間から覗くと、どうやら寝言だったらしい。彼女の瞼は閉じられたままだ。
だがはっとした。
アイリス姫が眠りながら無意識にだろう、何かを探している。
何か……そこに前にあったのは、ウサギの縫いぐるみだ。
昨晩、ブッフバルト夫人に奪われた。
アイリス姫が苦悶の表情になり、手だけがベッドの上を彷徨っている。
あの縫いぐるみは、それだけ大事だったようだ。
……「兄様、アレクシス兄様」
「どうした? もう夜は深い、寝る時間だぞ」
「眠れないの、アレクシス兄様、手を繋いでいて」
「お前は私が常に側にいると考えているのだな。まあ良い、仕方がない、今夜だけだぞ」
「うん」
だが彼の「今夜だけだぞ」は守られなかった。
ルナが毎夜それをねだったからだ。
その度に、アレクシスは彼女が眠るまで手を握っていてくれた。
だからルナはいつも温もりに包まれ、幸福に眠れた。
……それは、過去の揺らぎだった。




