第十二章
ルナの胸中はこんがらがっていた。
先程の大騒ぎの要因の一端が、自身にあると彼女は知っている。
アイリス姫は、ルナへのむち打ちに激怒したのだ。
だからあんなに暴れた。
ルナはアイリス姫を含むエリディス王家へ差し向けられた、刺客である。
いつかはアイリス姫も、その針で始末しなければならない。
色々な感情が胸の中で生まれ、思考停止に陥りそうなのは、ルナも同じなのだ。
彼女はなんとなくエンディミオン宮殿の中庭、いつだったかデイミアンと話した場所へと向かった。
「やあ」
そんな彼女に何者かが気安く話しかける。
ルナは密かに嘆息した。
エンディミオン宮をうろうろしている胡乱なものは、実は多い。
大きな宮殿なので警備の穴が多く、それを利用したルナたち意外にも、何をしているのか分からないものが湧く。
その筆頭が、だらしなく服を着崩した、金色の髪のトルヴァドールだ。
「……ウィル様。ご用でしょうか?」
「つれないなあ、君を僕は結構捜しているんだよ」
「探しても無駄です。私は忙しいからです」
「相変わらず辛いなあ、君は」
ウィルは端正な顔に微笑みを浮かべると、手にしたリュートの弦をひと撫でする。
「それに聞いたよ、今君は忙しくないはずだ」
「何のことです?」
「アイリス姫だよ……またやらかしたようだね」
「ウィル様には関係のない事です」
ウィルはルナの目が細められたと気づかず、続けた。
「あの我が儘娘。今度ばかりは応えたろうさ。まあブッフバルト夫人は厳しくて有名だからね。でもそれで躾られた貴族も多いらしい……やり方は少々過激だけれど」
「間違っています」
苛々としながらルナは否定した。
「え? アイリス姫はブッフバルト夫人の教育を受けたんだろ? むちで」
「それが間違っているのです。教育と暴力は違うものです。教えるに暴力が付随するのは、教師が自分の無能を隠したいからです」
「それは相手によるさ」
「いいえ、私も勉強が苦手でした。ですが、今は違います。それは暴力で仕込まれたからではありません」
ルナの周囲の彩りがさあっと代わり、かつての温もりが蘇る。




