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聖者の行進  作者: キリギリス
第一章 運命の出会い
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邂逅

あらすじ



深紅の魔女、ブラッディー・ローズと呼ばれるマギの魔導士ローズ、日々魔獣討伐の任務をこなす彼女はある日、マギの仲間であるエルシドからの依頼で、神託の巫女と呼ばれる少女を保護する為に共にラウル島にあるヨークの町に行くことになる。



ソルトから船で黒い霧に包まれたヨークの町に向かっている最中、黒い霧を引き連れ進む連絡船、ローズ達は確信する、出航してきたその船に霧の元凶が乗っていると。



ローズ達は、こちらに向かって進行する連絡船を止める為、連絡船に乗り込むと、その船の中には一匹の魔獣が座り込んでいた。



対峙するローズと魔獣、一進一退の攻防の最中で、魔獣の正体がローズの言う化け物であることが判明。苦境に立たされたローズは自身の切り札である力を使い、なんとか化け物を退けたのだった。






現在情報での人物紹介




ローズ  黒革の手袋と黒い軍服コートを身に纏う女性。深紅の魔女、ブラッディー・ローズと呼ばれるマギの魔導士。




エルシド  マギの魔導士、錬金術師にしてローズの数少ない味方。ボサボサ頭とヨレヨレの服が特徴。




ティティ  エルシドの従者にしてマギの錬金術師。活発的な女の子で子供と呼ばれると怒る、大きなカバンを掛けているのが特徴。




フレイ  ヨークの町に住む活発的な普通の少女。人見知りの無い性格で、ローズ達からは神託の巫女とも呼ばれている。 




ディアナ  ローズ達よりも先にヨークの町に来た女性、修道服を身に纏っており、フレイの父に頼まれてフレイに会いに来た。物静かで誰にでも優しい性格。





戦いの熱気も収まり、静まり返る海上。魔導船は戦闘によって沈む船から脱出したローズを収容すると時を置かずして再び進みだす。



夜の空が海面に照らし出す、月光の道を。



「・・ローズ、ご苦労様」



「・・・あぁ」



後方部の船側で寄りかかるようにして倒れこんでいる彼女に近づくと、エルシドは労いの言葉を1つかけ、徐に隣に立った。



エルシドは視線を落とすと目を細める。破損した衣服、肩で息をする姿が向こう(連絡船)での戦いの厳しさを雄弁に物語っていた。表情こそは俯いていて見えないが今の彼女は明らかに疲弊している・・それなのに・・。



「・・・全く」



エルシドはやれやれと大きくため息を吐くと倒れるローズの胸元に手を伸ばし・・。



「ローズは今疲れているんだ、迷惑だから離れようね・・・・ティティ」



ローズにべったりとくっついているティティの背中を摘んで持ち上げた。



「うわああああんっ!ローズゥウウッ、こんなみすぼらしい姿になってーーー!!」



「・・今は我慢しようね、ローズと話す事がいっぱいあるんだから」



「嫌です嫌ですっ!ティティはなれたくありませーーーーん!!」



必死にしがみつくティティを何とか引きはがすがティティの地団駄が止まらない、空中で手足をパタパタとさせ涙を浮かべていた。



「見ての通りティティは心配してたんだ、許してあげてね」



「・・心配、何故私の心配をする・・・?」



ローズの口から出た言葉に、ティティは頬を膨らまし興奮気味に口を開いた。



「な、ななあぁっ!、いきなり凄い音を立てて船が壊れたら誰でも心配するですよっ!、しかも見てください、沈んじゃうほどの爆発ですよ!?」



「そうだよ、流石の僕も今回ばかりは心配したよ、ティティの言う通り船が凄い音を立てて爆発したと思ったらさ・・」



そう言うとエルシドは泣いているティティを地面に下ろすと腰を下ろしローズの隣に座り込んだ。



「「刻印の力」を使ったんだからね、君が」



「・・・・・・知ってたか」



エルシドはティティの方を見ると声を掛けた。



「ティティ、何か食べる物持ってない?」



「・・うう”っ、・・いつものおやつならあります・・」



「悪いけど、それをもらえるかな?」



エルシドの言葉にティティはぐすんと涙を拭きながら肩に掛けた大きなカバンの中に手を入れる。



「別に構いませんよ、・・・はい、エルシド様」



そのままゴソゴソと中を漁り手を取り出すとその手の中には丸く黄色い果物が握られていた。



「私の代わりに、美味しくいただいてください」



「ありがとう、でもねこれは・・僕じゃなくてローズが食べるんだ」



ティティから受け取った果物を軽く手で磨くとエルシドは俯くローズに見えるように差し出した。



「それだけ消耗してるんだ、これを食べて少しでもエネルギーを補うといいよ」



「・・・」



エルシドから差し出される果物を無言で受け取ると徐に1口、2口と食し始める。その姿を横目で見ながら、先程の話を続けた。



「君の刻んでいるその刻印の力は特別だからね、ある程度離れていてもその特異な魔力ですぐに分かるさ。・・・それでどうだった、使ってみた感想は?」



エルシドの質問に対し、ローズは小さな声で淡々と言葉を発した。



「・・・前回の時とは違ったな、あの体が引き裂かれる程の痛みは感じない、感じるのはこの異常な疲れだけで十分使い物になる」



そう言い終え少し間を置くと、ローズの果物を口に運ぶ手が止まった。



「あぁ・・それとだ、「侵食」も・・今回は無かった」



「・・はあっ、思い出したかのように言うことじゃないよローズ、それが一番大事な事だよ」



エルシドは大きくため息をついた。



「間に合ってよかった、「それだけ」の刻印で浸食が止まって・・本当に良かった」



「そうだな、こいつ(刻印)のおかげでまだ私も人間寄りでいられる。・・それとだ、エルシド・・忘れる前に渡しておく物がある」



「・・渡しておく物?」



ローズは再び果物を口に運びながら、空いたもう片方の手で腰に付けた小袋に手を入れ、先程化け物が落とした黒い光を宿す魔法石を取り出して見せた。



「・・これだ、受け取れ」



ローズは取り出した魔法石を指で軽くはじきエルシドに投げ渡す。



「おっとっと!・・ふう」



それを見たエルシドは慌てながらも魔法石をなんとか両手でキャッチした。



「・・普通に渡してよ、落としたらどうするのさ」



「・・いいからそれを見て見ろ」



「全く、もう・・」



エルシドは受け取った魔法石を目の前に持ち上げると、それを一緒に見ようとティティがエルシドの肩に顔を乗せて覗き込んできた。



「ティティにも見せてくださいエルシド様、・・・この魔法石が宿す光、初めて見ますね、なんですかね・・この黒い光は?」



妖艶に光る黒い輝きを不思議そうに眺める2人。ティティの疑問に答えることは出来ず、エルシドは「う~ん」と眉をひそめた顔で小さく唸るだけだった。



「・・・ローズ、これはどこで?」



「これか、これは私が殺した魔獣、いや・・正確には化け物が落とした物だ」



「・・化け物?、船の中に居たのは魔獣じゃ・・」



「違う、化け物だ・・船に乗ってたのがただの魔獣なら、刻印の力を使うようなめんどくさい事にはならなかったさ」



ローズは一度も顔を上げずに受け取った果物を食べ終えると、胸の前で腕を組み、そのまま瞼を閉じた。



「・・悪いが少し眠る・・着いたら起こしてくれ」



「ええぇっ!、そんな一方的に話を・・ムググッ!」



話を一方的に切り上げ眠り始めるローズの姿に、ティティが文句の1つでも言おうとエルシドの肩から体を乗り出し口を開いたが、エルシドがそっと口に手を当て言葉を遮った。



「いいんだよティティ、今はそっとしておこう」



「でもでもエルシド様、化け物の話も気になりますし、それにこの魔法石の事もちゃんと聞かないと分からないことだらけですよ?」



「分かってるさ、でもねティティ。ローズはそれらの事を話す時間よりも、その時間を使って少しでも回復する方が今は重要だと判断したんだ。僕達の前を歩き、僕達には見えない光景を見て歩いている彼女の判断を尊重した方がいい」



エルシドが立ち上がろうと姿勢を動かすと、ティティも彼の肩に乗せた顔を上げその場で一緒に立ち上がる、そしてエルシドの顔を覗きこむと寄り添うように隣に立った。



「エルシド様、どうしたんですか?」



ティティの問いにエルシドが顔を向ける。



「ローズは今出来る限りの事をしているんだ、なら僕も彼女の為にできる限りの事をしないとね、町に到着するまでの時間を少しでも遅らせてもらうように相談してくるよ」



「言うんですか、ちゃんと・・全部?。ただでさえ心配してたのに?」



「・・・そこら辺の事は上手く話すよ、これ以上彼を心配させたくないしね」



さて・・どういう風に話そうか、そんなことを考えながら船を操舵するロウの元に歩を進めるエルシド、その背中にティティの声が聞こえてくる。



「そうですね、そうですよねエルシド様!。・・それじゃあティティもできうる限りの事をしますっ、・・ううん、そうですね」



ティティは頭を両手で押さえながら考え込む姿を見せると、チラリと寝息を立てるローズの方を見た。



「・・・水に濡れたローズ、寒そうですね」



髪から滴る水滴、顔を撫でる白い息。ティティは顔を赤らめゴクリと喉を鳴らした。



「・・ほ、本当なら、こ、こんなことをするの本当は嫌ですけどっ!・・し、仕方ないですよねっ!!。・・・こうなったら・・このティティのこの温もりをローズに、・・うへ、・・・うっ、えっ・・へへへへぇぇ・・」



エルシドの足が止まると小さな溜息をついた。



「・・・ティティも一緒に行こうね」



「・・・はううっ!、なんでエルシド様私を引っ張るですか!?。引きずるのを止めてくださいっ!!ああ・・あぁぁぁ・・遠ざかるぅうう・・・ローズ、ローズゥゥウウウ”ウ”ッ!!、・・・もう一度、私の温もりヲゥォオオ”オ”ッ・・・・」









静寂に包まれる船着き場、ローズは辺りを軽く見渡すが何処にも灯りは無く、人の気配を感じさせなかった。



「・・・私が先に降りる、少し待っていろ」



ローズは後ろにいる3人に言葉を残すと、魔導船から飛び立ち陸地に足を着けた。



・・・僅かな魔力も、人の気配も感じない。



ローズは周囲の安全を確認すると先程まで乗っていた船の方に振り返り、片手を上げ合図を出した。



「異常はない、船を繋ぐからロープを投げろ」



「了解しました、魔導士様!」



ロウから投げられたロープはローズの元に届き、その場で杭に繋がれた、今この瞬間、3人を乗せた魔導船はヨークの町にたどり着いたのだ。



3人が船を降り船着き場に足を降ろす。人工的な光も音もない、海の音だけが聞こえてくる船着き場はそこにいる者に言い知れぬ不安を感じさせた。



「ローズの言う通り異常はありませんが、その事が異常に感じる程になんの気配もありませんね」



辺りを見渡していたティティが、ポツリと呟いた。小さな声が、この静の中では大きく聞こえる。



ローズはティティの声に続いた。



「そうだな、それに綺麗すぎるな、臭いも無い」



ローズの不穏な言葉にロウが不思議そうに聞き返す。



「臭い、ですか?」



「気にするな、こっちの話だ」



ローズは話を切り上げると前に歩き出した。



「後ろの船で待つ奴等を迎え入れる前に、私達は先に町の中心部に向かう。その間に敵の気配が無く、安全が確保出来れば後方の奴等を上陸、町の中心部を拠点とし、班に分かれて町の探索だ」



「・・了解しました。でもそういうことでしたらこの辺りでこの暗さです、町の中が明るいとも限りませんし明かりが必要になるかもしれませんね、船に備え付けのカンテラが数個ありますから、持ってきます」



船に明かりを取りに向かうロウを見送り終えると、エルシドは見計らったようにしてローズに近寄ると話しかけた。



「・・体の方は、大丈夫かい?」



「大方問題ない、お節介好きな奴が時間を稼いでくれたおかげで」



「・・気づいてたんだね」



「ティティがずっとうるさかったからな、気づかない方が逆に無理だ」



ローズが右手を自身の前に持ってくると拳を握って見せた。



「今まで体感する機会が無かったから知らなかった、まさか刻印の影響で肉体の回復力がここまで高まっていたとはな、私自身驚きだ」



いつも通りの姿を見せるローズにエルシドは安堵の表情を見せた。



「それよりも分かっているだろうな、町の探索は奴等に任せて、私達は外に生存者を探しに行くぞ。生存者は町の外に逃げているはずだからな」



「・・そうだね、避難者が無事な事を祈ろう」



ローズはエルシドのその言葉を聞くと表情を曇らせた。



「・・エルシド、1つだけ言っておく」



「ん、なんだい?」



「私は今、お前の剣でもあり盾でもある。この身で敵を打ち倒し、この身を呈してお前を守る。それ以上でもそれ以下でもない、私はただの殺戮道具。使い手のお前には意志はあるが、道具である私には意志など無い。・・この意味が、分かるか」



「・・・・悪いけど話の意図が見えてこないね、どういう意味かな?」



「簡単な話だ、お前が使う道具ぐらい信用しろと言う事だ」



「まさか僕がローズを信用してないと?、そんなことは無いよ、絶対にね」



力強く、迷いなく答えるエルシド。ローズはその自身が望んでいなかった反応を見せられると言葉を詰まらせた。




私のこの言葉を聞いてなお、軽い返事が出来るほどエルシドは適当な男ではない。・・・・今は無理か。




「・・・・そうか、ならいい」



「ちなみにさローズ、どうしてそんなことを・・今聞くんだい・・?」



直ぐ近くから聞こえてくるエルシドの声、トーンが僅かに下がり、真剣身を帯びたその声がローズの表情を硬くした。



「・・さあな、どうしてだろうな」



言い知れぬ緊張感が漂う中で2人が話をしていると、辺りがぼんやりと明るくなった。



「魔導士様、カンテラを持ってきました。2つありますのでどうぞ」



背後から聞こえるロウの声、ローズはその声を聞くとエルシドとの会話を切り上げ、誰よりも先に静寂の闇の中を歩み始めた。



「明かりはお前とエルシドが持て。行くぞ、町の中心部に」



ローズの言葉を合図に、闇に灯る2つの小さな光は町に向けて動き出した。









船着き場から町の中心部に伸びる静まり返った細道、一列になり歩く彼等の手に持たれたカンテラの明かりが、両脇に展開される露店や屋台を照らし出した。



「・・・狭いですねこの道、両脇がごちゃごちゃしてます」



ティティの言葉にロウがすぐさま言葉を返す。



「この道は露店街道と言われてまして、この両脇の露店や屋台は主にこの町に来る旅人相手に商売をしているものですね。そしてこの道は町の中心部である広場にそのまま伸びています、ですのでこの道を行けば大丈夫です」



「この先に広場があるのになんでこんな狭い道に店を並べるんですか。2列になったらもうそんなに余裕ないですよ?」



ティティの文句を皮切りに後ろを歩く3人は辺りをキョロキョロと見渡す、屋台のカウンターで捌かれている途中の魚、露店に並ぶ品物の数々。



まるで人だけが忽然と消えたようなその異常な雰囲気が心をざわつかせ、沈黙が恐怖を煽る。



ロウは静寂を嫌い、なんとか重い口を開いた。



「・・なんでもここら辺のお店、前は広場にあったらしいですよ。でも誰よりも先に品物を売りたい、一番にお客さんに見てもらいたいっていう理由から段々とお店が船着き場の方に寄って行って、今に至るらしいです」



ロウの声を聞くと、ティティも待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに話に乗った。



「へ、へぇ~っ、この町の人達、商魂逞しいですねぇえ」



ティティの僅かに上擦る声、ロウは魔導士様でも自分と同様に恐がるものなんだと思うと少しばかり嬉しく感じ、強張る体の力が抜けた。



「そんな人達がこの狭い所に集まったら、さぞ凄い事になるんでしょうね」



「・・それは凄いらしいですよ、この露店街道・・ヨークに来た旅人達が必ず驚くらしいですから。商人達の活気ある声、狭い道に溢れる人々の熱気・・」



こうして喋っていると気持ちがまぎれ段々と口が軽くなっていく、ロウはその感覚を嬉しく思いながら言葉を続けた。



「そしてこの細道を抜けるとその喧騒が嘘のように静まり返る憩いの広場、此処に来るまでの間に熱を持った体をベンチで休め、吹き込む優しい海風で冷やすんです、広場の真ん中に佇む大木を見つめながら・・」



「広場には大きな木が生えてるんですか?」



ロウは頭を縦に振った。



「はい、この町の人が言うにはただの大きな木ではなく御神木でして・・町の人からは崇められてるらしいですよ」



「そうなんですか、でも御神木と言うからには何か御利益があるんですかね?、やっぱり・・商売繁盛とか・・?」



「う~ん、確か前にそこらへんも港長から聞いたことがあったんですけど・・何だったかなあ・・?」



「あれぇ~?、今まで得意げに語っていた話・・ロウさんの話じゃないんですか?」



ティティの指摘に、ロウは恥ずかしそうに笑みを溢した。



「ハハッ、・・恥ずかしながら今までの話・・全部港長から聞いた話なんですよ、港長はこっちの町出身でしてね。一緒にお酒を飲みに行くと、必ず町の事を話してくれるんですよ」



「そうなんですか、あの港長さんの姿からだと想像できないですね・・・」



「あの姿は仕事をしている時だけですよ、あの人ほど仕事してない時との差が激しい人もいませんよ。仕事してない時は優しくて寂しがり屋でお喋りで、意外とかわいいんですよ。だからほっとけなくて」



「・・その気持ち私も分かりますよ、私もローズの事がどうしてもほっとけないんですよねえ~♪」



「そんなんだから皆で毎日、港長誘って飲みに行くんです。港長も断らないから本当に毎日行くんですよ。お陰で自分はこのヨークの町の船着き場までしか来たことないのに、こうして魔導士様に町の中の話をできるまで詳しくなっちゃいましたから」



「話を聞くだけで伝わってきますね、港長さんがこの町を好きなことが」



「ええ、誰よりも優秀で・・誰よりも大好きですよこの町が、他の大きな港から、なんなら大陸1大きい港からも何度となくスカウトされてるんですよ?、でも話すら聞かないんですから。海で働く男にとってこんな栄誉な事はないのに・・。それで前に聞いたことがあるんですよ、なんで話を受けないんですかって?、そうしたら笑いながら言ってましたよ・・・「家族との約束はどんな栄誉、名誉よりも大事だ」って。だから今回の件も・・一番気に病んでるのは・・・・」



「・・そうですか、・・うぎゃっ!?」



ティティがロウの話に反応した時、前方立つ何か大きなものにぶつかった。ぶつかった衝撃で1歩、2歩と後ろによろめくとおでこを擦りながら上目遣いに声を上げた。



「いてて・・どうしましたか・・エルシド様?」



ティティがぶつかったのは前を歩くエルシドの背中だった。エルシドを避け前を見ると狭い道の先が開かれているのが分かった。



「あっ、もう着くんですね町の広場に」



先頭で足を止め静かに前を見据えるローズ。その後姿にティティがどうしたのだろうと心配そうに声をかけた。



「・・・ローズ?」



「・・・チッ」



ローズは小さく舌打ちをして見せると後ろを振り返り3人を見た、カンテラの明かりに照らされるその表情は普段と変わらない無表情のはずなのに、不思議と険しく見えた。



「・・ロウ、お前は今すぐ船着き場に戻って合図を出せ。海上で待機している奴等を町に上陸させろ」



ローズの口から出た自身の名に自然と体が反応する、その声はいつも通りの低い声だが、何処か緊張感を感じさせた。



「でも・・まだ広場には・・・」



「ここまでくれば十分だ、未だ僅かな魔力も感じない・・これならこの町は安全だ。・・・ティティ」



ローズがティティの方に静かに目配せするとそれを見たティティの体が小さく跳ねた。



「お前も一緒に行ってやれ」



自身に向けられた鋭い目が、ローズの言いたいことを教えてくれる。



「いいな、慌てなくていい。上陸した奴等と準備を整えたら一緒に来い」



その瞳に宿る不快の色、言葉の意味。ティティはそれらを直ぐ様に感じると2つ返事で返した。



「ハイですっ!、・・さぁロウさん、行きましょう皆様を呼びにッ!」



「・・うわっ、そんな慌てないでください魔導士様!、魔導士様っ!」



ティティは困惑するロウの腕を引っ張り踵を返すと、船着き場へと戻っていった。



騒がしい声を響かせ、小さい光は揺ら揺らと闇の中に消えていく。そんな後姿を見送るエルシドの表情は、いつの間にか悲しいものに変わっていた。



「・・・・・はぁ、気が重いよこの先を行くのは。・・ねえ、僕もティティ達と一緒に戻っていいかい・・・?」



「・・お前は駄目だ、私と来い・・1人だと色々と面倒だ」



ローズは一呼吸着くとその場で振り返り、再び中心部に向かって歩き出した。



「先に言っておくが、化け物は「遊び」の趣向が悪い、・・・ある程度は覚悟しておけ」



「・・・気遣いどうもありがとう」



その場に残されるローズの言葉を聞くと体が鉛の様に重くなる。エルシドはむかむかする心を落ち着かせるべく大きく深呼吸を何度もし、重い足取りでローズの後に続いた。



そして露店街道を抜け視界が開かれると。



町の広場(中央部)は2人を出迎える。



「・・これは、想像以上だ・・・」



広場の光景に、2人は心を奪われた。



面白おかしく飾られた人々の死体。



地面には血で描かれた数々の不気味な絵。



奇妙なアート作品の中で、一際異彩を放つ存在があった。



それは広場の中心に生えた1本の赤い大木。



幾多の肉で飾り付けされ、人の果実を実らせたモニュメント。



この広場の象徴。その崇高な美に触れた者は誰しもひれ伏すように地面に膝を着き、崇めるように体を丸め、震わせ、口元を抑え込むのだ。



人によってはこの光景を地獄と呼ぶだろう、もっとも、この光景を作った化け物にとっては違う光景だ。



アーチ状の看板、滴る赤い看板の文字が・・このアーチより先がこの世界の入り口。





ようこそ、ヨークの町(化け物の天国)へ。









目の前に広がる醜悪な光景、大人も子供も例外なく飾られるこの広場の入り口で、ローズとエルシドは目を逸らすことが出来ず立ち尽くしていた。



「・・・船の時より狂ってやがる。・・・いや、瘴気で見えなかっただけで・・狂っていたのかも知れないな、あの船も」



立ち尽くしているとこの場に漂う死の臭いが鼻を衝く、その強烈な臭いにエルシドはうっと小さく声を上げ口元を抑え込むと、その場で膝を着いた。



「その苦しみと共に込み上げてくるモノがお前を正気でいさせてくれる、もうしばらくそうしていろ」



口元を抑え座り込み、辛そうにしているエルシドを後ろに残し、ローズが先に足を踏み入れる。



「私はアレを片付けてくる」



辺りを見渡さず、一点を見つめ歩くローズ、彼女の眼に映るはこの広場の象徴、モニュメント。



胸で燃える不快な感情が彼女の体を前へと突き動かす、ゆっくりとした足取りで歩を進め、死を飾る大木の前にたどり着くと、ローズは不機嫌そうな顔で呟いた。



「・・見てるだけで胸糞悪い」



感情は力となりローズの右手に集まり、高まる力は拳を握らせ彼女に腕を振りかぶらせる・・そして。



「・・・失せろ・・・ッ!」



吐き捨てた言葉と共に彼女の右拳は大木に向かって振り下ろされた。



「・・ッ!?」



怒り任せに打ち込まれた拳は乾いた破壊の音を広場に鳴り響かせると大木を簡単になぎ倒した。



「・・この感触は」



破壊された個所から舞い上がる粉の様な木片にローズは訝しげに目を細める。



「やはり・・・この木は・・死んでいる」



大木が倒れその先の視界が開けると、遠くに見える建物の隙間から小さな人影の様な者がこちらを静かに伺っているのが僅かだが見えた。



あれは・・、ローズは砂埃が収まると声を上げる。



「・・・おいっ、そこのお前、生存者だな」



「・・!?」



人影はその存在を悟られると、慌てふためくきながら広場を背に町の外の方に走り出した。足を取られ転びそうになりながらも懸命に逃げるその人影に向かってローズはその場から声を荒げる。



「止まれ、それ以上逃げたらお前達を助けないぞ!」



静寂を切り裂き、ローズの怒鳴り声にも似た声が広場に響くと逃げる人影の動きが止まった。人影は静かに振り返るといつでも逃げれるように低く姿勢を構えながらこちらの様子をうかがっていた。



どうやら離れているおかげでこの広場の惨状がよく見えていないようだな、そうでなければ立ち止りはしないだろう。そうなると奴をこれ以上近づける訳には行かないか・・仕方ない。



ローズは蹲るエルシドの方を見ると大きくため息をついた。



「・・エルシド、起きろ。お前の仕事だ、アイツを説得して来い」



「・・えっ、・・・あぁ、わ、わかったよ・・」



体を揺らし、ゆっくりとだがなんとか立ち上がるエルシド、その姿をローズは静かに見届けると、遠くで身構える影の方に体を向け、声を掛けた。



「・・・・おい、そこの奴、今から私の仲間がそっちに行く、そこで待っていろ」



「・・恐がらないで、僕達はソルトから来たんだ。・・今行くから待ってて!」



エルシドは潤んだ目をゴシゴシと袖で拭うと、人影に向けて足早に走り出す。そしてローズの隣を通り過ぎようとしたその時だ、ローズはエルシドに小さく声を掛けた。



「おい、エルシド・・その明かり(カンテラ)を貸せ」



「・・ん、別に構わないけど・・どうするんだい?」



「この木と周りの死体を燃やす、残しておくと色々と面倒だからな、それにこの悪臭も炎の匂いで少しはまぎれるだろ」



「・・燃やす、それは流石に無理だよ、こんな大きな生木を燃やすのにこんな小さな火種じゃ」



「小さな火種で問題ない、この木はよく「乾燥」してるからな」



「乾燥してるって、そんな事あるわけ・・・だってこんなにも緑の葉が生い茂って・・・こ・・これは・・っ!」



エルシドは倒れた木を見て驚いた、生い茂る緑の葉、生命を感じさせる潤った木肌、だがそれは上の部分だけ。そこから下の幹は水分を感じさせずカサカサと乾燥していた。倒れた大木は生木などではなく枯木だったのだ。



「殴った時の感触でおかしいとは思っていたが・・こいつは枯れてやがる、緑の葉を生い茂らせておきながら、そこから下はずっと前から枯れていたかのようだ」



緑生い茂る枯れ木、その異様な姿にエルシドがゴクリと唾を飲み込んだ。



「・・ここはいいからとにかく話して来い、アイツに逃げられたら更に面倒だ。お前がアイツと話をしている間にここら辺の死体は私が片付けておく」



「・・分かったよ、ローズ」



広場に佇む2つの人影の内の1つがその場を離れ、離れたもう1つの人影に近づくと。暫くして2つの影の後ろで大きな狼煙が上がる。



闇夜の中に激しく燃え上がる炎、燦燦とした火花を辺りに散らしながら空に昇ると、闇夜の中に吸い込まれ儚く消えていったのだった。









エルシドは先程広場で見つけた生存者、この町の人間ではないだろう旅人の格好をした青年に確認した。



「・・・まとめるとこうだね、君は避難場所からあの霧が晴れたのを見て、彼等の「状況」を確認する為に皆を代表して此処に来たと、そして無事避難出来た人達は皆町の郊外に隠れている・・そういう事だね?」



「・・・ええ、そうです、霧の中にいた恐ろしい何かに襲われなかった人達は皆、町の郊外の・・森の近くに居ます」



他の人と会えた安堵からか、震えながらも安堵の表情を見せる青年の話を聞き終えると、後ろで静かに聞いていたローズにエルシドが小さな声で問いかけた。



「・・・ローズ、あの船は・・・それに広場のあの人達は・・」



「・・・あぁ」



「・・・それで、あの人達は、避難した僕達を守るために霧の中に向かった漁師の人達や、僕達旅の人間を優先して逃がすために、最後まで霧の中に残った町の人達は無事なのでしょうか・・?。あの人達がいなければ・・僕達は・・あの霧の中に飲み込まれて・・・あの霧から聞こえる無数のうめき声、悲鳴に・・・ッ!!」



霧に襲われた時の地獄の様な光景を思い出したのだろう。両手で耳を覆うその表情は青ざめており、体は大きく震えていた。



エルシドはそんな震える青年の肩に手を優しく置くと、青年の涙ぐむ目を優しく見つめ、言い聞かす様にして口を開く。



「・・・大丈夫、全員とは言えないけど、生きてる人達はちゃんといたよ。彼等は今船着き場にいるから・・すぐに後で会えるさ」



「ぅう・・ううう”う”っ、よかった、助かった人がいて・・・本当に良かった・・うううぅぅ・・」



「・・・・ローズ」



「そうだな」



ローズは青年を見ると口を開いた。



「いつまでも泣くな、そろそろ立ち上がれ。私達を皆がいる避難場所まで案内しろ、早く・・」



早く向こうに行って残ってる奴等を連れて来るぞ。そうローズが言葉を発しようとした次の瞬間、突如として大地に稲妻が落ちたかのような大きな地鳴りが聞こえた。



「ッ!、お前達、とっとと伏せろ!!」



「なっっ!・・う、うわわわ!!」



「ひ、ひいいぃぃいいっ!?」



身構えたローズが叱咤の声を上げると同時に、大地が大きく揺れ動く。地面の中で何かが爆発したような衝撃に青年は頭を抱え体を丸め込み、エルシドは立っていることもままならずその場で膝を折り両手を地面に着いた。



「・・・・感じるっ、大地の底を何か大きな力が流れて行くのを、何だこの感覚は・・得体の知れない力が向こうの方角へ流れて・・・それに辺りが明るく・・・・」



大地の底を流れる力、その力の流れにそって顔を動かすと、今まで見たこともない光景が彼女の視界に入り、驚愕させた。



「・・・なんだ、なんだあの光はっ!?」



大地を揺らし、天に昇る一筋の白き光。真っすぐに昇るその神々しい光は闇夜を貫き天を白く焦がすと辺りを明るくする。



美しさの中に、恐ろしささえも感じさせるその神秘的な光景にローズの本能は確信する。この揺れの正体はあの光、そしてあの光の元に・・敵がいるっ!。



「・・・エルシドっ!」



未だ揺れが収まらぬ中で、ローズはエルシドの名前を力強く呼ぶ。自身を呼ぶその力強い声にエルシドは驚くと、慌てて下を向いていた顔を上げローズを見た。



「こんな時になんだいっ!、ローズ」



「ここからは別行動だっ、お前は私抜きでそいつと他の避難者の所に行けっ!。私はぶん殴りに行くっ、クソ野郎をッッ!」



「ろ、ローズッ!何言ってるんだ、クソ野郎て・・敵って何処に・・!?」



未だ地震が収まらぬ中、ローズは混乱するエルシドの返事を待たずして勢いよくその場から駆けだした。



「私の勘が言っているだよ、あの目印に敵がいる、あそこに向かえとなっ!!」



「あぁ!、ちょっとまってよ・・・・!!」



去り際に残されたローズの言葉に疑問を持ったエルシドだったが、その視界に彼女が見たのと同じ光景が入ると言葉を飲み込んだ。



「・・・あ、あれは・・・・・・魔力の光・・・ッ!?。この地震は、あの巨大な光が引き起こしているのか!?、まさかローズはあの光の下に・・」



段々と揺れが収まりを見せると、同じく頭を抱え下を向いていた青年も顔を上げた。



「い、今の地震は・・・」



青年は顔を左右に振り、辺りの様子を伺いながら唖然とした表情で光を見つめるエルシドの方を見た。



「あ、あれ・・?もう1人の方は・・」



エルシドに声を掛けるが返事が返って来ない、彼は唯一点を見つめながら。小さく何かを呟いていた。



「・・・どうしました?、何かありましたか」



青年はオロオロとしながらゆっくりと立ち上がるとエルシドが見ている方を一緒に見て驚きの声を上げた。



「あ・・、あの光は・・・!。た、大変だ、大変ですよッ!」



「・・!?、えっ・・大変・・そう言ったのかい?」



青年の大きな声にエルシドはハッと我に返った。



「そうです!、あの光が立ち昇っている方角は僕が来た方向・・皆がいる避難場所の方角です!!」



「・・なんだって!?」



「間違いありません、あっちの方角です。皆あっちの方にある森、「合唱の森」と呼ばれている所にいるんです!」



「・・・大変だッ!?」



青年の言葉にエルシドは立ち昇る光を再度見ると声を上げた。



「・・・僕達も急ごう、皆がいる、「合唱の森」へ・・!」



「ハイッ!」



エルシドは慌てた素振りでそう言うと、青年と共にローズの後を追うようにして合唱の森へ向かうのだった。









静まり返る雑木林の中を、1つの影が駆け抜ける。獣道を我が道の様に悠々と走破し、冷たさと共に深まる森の木々の隙間を風の様に吹き抜け、一筋の風となり空を貫く白き光に向かって突き進む。



「・・・あれか!」



駆け抜けるローズの視界の先には局地的に開けた空間が広がる。その場所に木々は生えておらず、代わりに地面から生えるようして白い光を放つ大きな岩々が無数に突き出していた。



闇夜の中で白く輝く異質なその空間に足を踏み入れると瞬時にその場で立ち止まり、周囲を見渡す。



「・・・この光はやはり魔力の光、地面から生えるこいつは・・巨大な「魔法石」・・・っ!?」



辺り一面に輪を描く様にして生える魔法石、白い光を放つ輪の中心で、囲まれるようにして光の無い尖った岩2つが斜めに交差していた。



常軌を逸した光景の中でこそ異彩を放つ現実の光景、ローズは吸い寄せられるようにして近づいていく。



「こいつだけは魔力を宿していないただの岩、そして交差した岩の根元に存在するあの空間・・・穴は・・」



ローズは交差する岩の前に立つと視線を下げた。



「湿った空気、緩やかに地下へと伸びる一本道、これは洞窟。・・それも、かなり深いな・・」



私の勘が告げる、この中に敵がいると。そしてこの現象も全部・・そいつの仕業だと・・・。



「・・・さて、挨拶に行くか」



ローズが洞窟の中に入ろうと足を一歩踏み入れた瞬間・・・・・。



洞窟の闇の中から何かが噴き出し、ローズの胸元を貫いた。



「・・ガハッ!?」



鋭く、鋭利な「それ」は皮膚を容易に切り裂き寒気を体に走らせ、肉の内側に殺意を滑り込ませるとローズの全身を強張らせる。



この感触は、このぞっとするような死の感覚は・・!。



頭が理解するよりも先に体が反応する。ローズは大きく後方に跳ねると急いで入り口から距離を取った。



「・・ぐぅッ!、不意を突かれた、敵は・・敵は何処だッ!?」



着地をするとそのまま崩れるようにして地面に片膝を着き、貫かれた箇所を片手で押さえるローズ、敵の次の行動に備える為、辺りを警戒する。



「どうした、どうして来ない?、私を殺るのに今が絶好のチャンスのはず・・どうして様子をうかがってやがるっ!?・・傷は、・・そうだ、くそっ・・私のダメージは・・」



ローズは負傷した個所に視線を移すと力が入る手を動かし傷口を確認した。



「・・・そんな、どういう事だ・・傷が・・ない・・?」



ローズが傷口を抑えている手をゆっくりと退かすと、抑えていた箇所には傷など存在していなかった。信じられないと言わんばかりに傷口を押さえていた手をまじまじと見るがやはり血など一滴もついてはいなかった。



「・・そんな馬鹿な、私は間違いなく鋭利な刃物に貫かれたはず・・・」



驚きの表情を浮かべるローズの頬を、一筋の汗が流れる。



「確かに感じた、皮膚を切り裂かれる感触、体を走る寒気・・・死の感覚・・・そして・・」



ある言葉を口にしようとした時、ローズは何かに気付きハッとする。



「・・・ダメージは、痛みだけは・・無かった・・!」



ローズは立ち上がると洞窟の入り口を睨みつけた。



「・・・前にも似た経験がある、これは間違いない・・「殺気」だ。洞窟の中にいる敵の殺気に当てられて、私の脳が錯覚したんだ、・・・殺気に、私は貫かれた」



ローズは一点を見つめ、早足で洞窟の入り口の前に再度歩み寄ると歯を食いしばった。



「今まで感じてきた殺気がそよ風に感じる程の強烈な殺気・・。今の私に死すら感じさせるそんな殺気を、敵はこの洞窟の奥底から私に感じさせたのか・・・!?」



洞窟への侵入者に対する威嚇だったのだろうか、殺気はもう感じない、洞窟の名は薄暗い空間が広がっており、道筋は地下へ伸びていた。



久しく味わったことのない死の感覚、殺気に当てられた私の足が、手が小刻みに震え出す。



「・・・あの時以来だこの気持ちは、・・初めて1人、森の中で狼と対峙したあの時と同じ・・!!」



ローズはハッ、ハッと短く息を吐き、狂気を滲ませた笑みを浮かべた。



「この震えは恐怖ではない、歓喜だ・・。あの時も・・あの時もっ!、この震えと共に私は前に進み、これを乗り越え次の舞台に歩を進めたッ!」



興奮する感情に呼応し、ローズの口から声が漏れ出す。



「最高だよクソ野郎ッ、お前のおかげで・・私は次の舞台に行けそうだ」



ローズは嬉々として洞窟の中に入り込むと、暗闇の中を駆けだした。









・・遺跡。フレイさんに案内されて来た此処は、洞窟の奥深くに存在する巨大な円形上の空間だった、虚妄の世界と切り離された、この壊れ果てた冷たい灰色の世界で、私は遠くに見える瓦礫の山の中で動かなくなった「そのもの」に祈りを捧げる。



「言いつけ通り・・・この哀れなるものに聖女様のお慈悲を、確かに届けました・・」



胸の前で静かに十字を切ると、私は旅路を見送ることなく身を翻し背を向けた。



「・・哀れな使徒よ、先に天国に行きお待ちなさい、他の使徒達も・・私が浄化の炎をもって、そちらにお送りしましょう」



次の瞬間、瓦礫の中から青く煌めく大きな青炎が突如として噴き上げると瓦礫の山を飲み込んだ。



静かに燃え上がる青炎を背で感じ、「今」は何もない中央に目を向けた。



「動き出したという事はそういう事、では、もうすぐフレイさんもこの「扉の中」から出てくるのですね・・」



私が彼女の事を考えていると、僅かだが・・チクリと心が痛んだ。



この感覚は・・・1つしかない、私のこの心が痛むことなど聖女様以外の事では・・・この世に1つしかな。



「・・感じる、この場所に近づいてきている・・・」



試練の時が近づいている・・。



私はフレイさんの入った扉の方に向かい膝を着き、聖女様への祈りを捧げる。



「こちらの予定よりも少し早いですが・・まあいいでしょう。予定通りに進むことなど、然う然うないのですから」



聖女様、どうかこの戦いだけはお許しください。私はこの瞬間だけ、貴女様の聖徒ではなく、1人の咎人として戦います・・・。



今は私だけしか存在しないこの静かな世界(遺跡)に、外の世界からの来訪者を告げる足音が鳴り響く。その足音は荒々しくも大胆に、勢いよくこの世界に侵入してきた。



「・・なんだっ、この空間は・・・」



この声を聞いただけで心臓の鼓動が高まり、爛れた心が痛む。・・許せない・・その存在だけは、・・・例え聖女様の言葉でも、私は受け入れることが出来ない。



私のこの手で・・・・。



「・・・ようこそ、おいでくださいました」



私はこの醜い姿を見せまいと、これまで同様物静かな仮面を被り、その場でクルリと反転し彼女を見据える。



「待っていましたよ・・深紅の魔女」



憎悪の炎を瞳に宿して。



月1投稿予定。誤字脱字等の報告有りましたらよろしくお願いいたします。

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