少女
現在情報での人物紹介
ローズ 黒革の手袋と黒い軍服コートを身に纏う女性。深紅の魔女と呼ばれるマギの魔導士。
エルシド マギの魔導士にしてローズの数少ない味方。ボサボサ頭とヨレヨレの服が特徴。
ティティ エルシドの従者にしてマギの魔導士。活発的な女の子で子供と呼ばれると怒る、大きなカバンが特徴。
最近、私は決まって同じ夢を見ている。暗闇の中、私と同じぐらいの背丈の女の子が1人、延々と泣いている夢だ。
暗くてその姿はよく見えないけど、倒れた何かにしがみつき、顔をうずめ泣きじゃくっているその悲しい姿に、私の胸は締め付けられる。
力になってあげたい・・・。私はいてもたってもいられなくなり女の子に近寄ると声を掛けた、「なんで泣いてるの?お願い、これ以上泣かないで」。私は必死に呼びかける、・・でも、彼女に私の声が届いていないのか・・泣いている女の子からの返事は返っては来なかった。それでも私は諦めずに何度も声を掛けるのだけど、私の声は泣き声にかき消され、次第に自分自身の声すらも聞こえなくなり・・最後には大きな泣き声がこの暗闇を支配した。
悲しみで満たされる暗闇の世界。そんな世界をどうすることも出来ない自分の無力さが辛くて・・悲しくて・・・・私もいつしか声を発することを止め、隣で一緒に泣いていた。
2人で延々と泣いていると、辺りが急激に輝き始める。眩いばかりの光は暗闇を消し去り世界を光で優しく包み込む、私はその光の暖かさを感じ取ると涙で濡れた顔を上げる。
「・・・・光が、私を迎えに来た・・・」
いつの間にか泣き声が止んでいる、私は顔を彼女のいた方に向けると先程までいた彼女の姿は何処にもなかった。ああ、まただ・・・・・・・・私の意識は・・こうして毎回・・・・光に連れられ・・遠のいて・・・・・・いくんだ・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・光を・・感じる。さっきまでの光とは全然違う光・・なんだろう・・この光は・・・・なんだろう・・?。
閉じた瞼をうっすらと開けると、夢に見たような眩い光が私の目に差し込まれる。
「・・・・う、・・・う~ん・・・・・ま・・まぶしぃぃぃ・・・・あぅぅ・・・」
その眩しさにうめき声を上げ、光から逃げるように再度強く瞼を閉じると体にかかる布団の中に顔をうずめた。
「・・・・うぅ・・・陽の・・光だぁ・・・・もう、朝かぁぁぁ・・・」
暫くして、彼女は観念したのか布団の中でモソモソと蠢くとうつ伏せ状態で布団から顔を出しゆっくりと体を起こす。窓から差し込む光は丁度枕元を照らしていた、彼女は自身を起こしてくれた自然の目覚まし時計に「おはようございます」と、小さく挨拶すると、寝起きのぼうっとした表情でいつも夢に出てくる彼女の事について思いをはせた。
(・・・いつも夢に出てくるあの子は・・一体誰なんだろう?私と同じぐらいの年齢の女の子、あの子はどうすれば私に気づいてくれるかな・・?どうすれば・・・・・)
答えの出ない問いに悶々としながら寝惚け眼をクシャクシャと擦りベッドから降りると差し込まれる暖かい光に誘われるようによろよろと窓に歩み寄り窓に手をかけた。
「ガチャリ」開けたと同時に窓の隙間から心地よい涼しい風が部屋の中に流れ込み頬をくすぐる。
「・・ああ・・今日も風が気持ちいいなぁ・・」
頭の中にかかる霧が晴れて行くのが分かる。もっと風を浴びたい・・、彼女は窓を大きく開きその心地よい風を部屋に誘い込むと、体いっぱいに受け止めた。その気持ちよさ、陽の暖かさに自然と目を瞑り、窓に手をかけ体を乗り出した。海から来る潮風に、太陽の日差しの様な明るさを放つオレンジ色の短い髪を揺らしながら、何度も大きく呼吸をすると彼女はゆっくりと目を開き呟いた。
「・・・さぁ、今日も一日・・・・がんばろう・・・!」
「・・・・・こらっ、フレイ!」
下の方から聞こえてくる聞き覚えのある怒鳴り声、フレイと呼ばれた彼女はそんなことなど気にする素振りを微塵も見せず、気持ちよさそうな顔を声の主に向けると笑顔で挨拶した。
「おはよ~!おかあさ~~ん。今日もお勤めご苦労様。・・そのバケットの中身はな~に~?」
「呑気におはよ~・・じゃないわよ!。2階の窓からそんなに体を乗り出していたら危ないじゃない、落ちたらどうするの!?。早く部屋に戻って降りてきなさい。そうしないと・・」
そう言うと母は得意げにバケットを開き、高らかに持ち上げ声を張った。
「この新鮮な魚はお預けだぞぉ~?」
母の意地悪そうな声を声を聞くと、フレイの重い瞼がぱちりと開くと体が更に前のめりになり窓の外に出た。先程までの眠気が母の魔法の言葉で嘘のように一瞬で吹き飛ぶ。フレイは興奮気味に声を張った。
「・・魚ッ!、なになに?お母さん貰って来たの!!」
足は床を離れ窓枠を支点にバランスを取るフレイ。その姿は今まさに魚に飛びつこうとする猫そのもの、フレイの目には光を受け銀色に、煌びやかに輝く魚しか映ってはいなかった。
「うわあ・・銀色にキラキラ光ってる・・宝石みたい・・」
「あぁもう!そんなにグイグイ前に乗り出さないの、本当に落ちちゃうでしょう!?貴女の大好きな魚を食べたいなら、そんな危ない所から離れて、速く準備して降りてきなさい」
飛びつきそうなフレイの姿に慌ててバケットを閉じると自身の後ろに隠した。
「はーい!、お魚さん・・今行くから待っててねえ!!」
フレイは急いで体を引っ込めると嬉しそうに部屋を出て母の待つ下に降りて行った、開けっ放しの窓から聞こえてくる慌ただしい音に母はまたかと困ったような表情を見せると声を漏らす。
「・・もう・・全く、朝からいつも元気な子ね・・・・こらっ!ちゃんと部屋の窓を閉めてきなさい!」
優しい風が吹き母の長い髪をふわりと舞いあげると、母の緩んだ口元を髪が隠した。
△
「ふんふんふ~~ん♪」
フレイは鼻歌を奏でながら慣れた手つきで部屋の隅にある使い古された掃除道具一式を手に取るとフレイはキッチンに居る母の方に体を向け、大げさにお辞儀をして見せた。
「準備は整いました、それでは・・お願いします」
フレイのかしこまった物言いに凛とした態度で頭を下げると母は包丁を手に持つとニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「・・よろしい、それじゃあ行くわよ・・」
空いている手で野菜を掴み上げまな板に置くとお母さんは手際よく野菜を切り分け始めた。
ザクザクザク
キッチンから奏でられる美味しい音楽の前奏が始まると、フレイはモップに手をかけクルリとその場で反転しモップを構えた。
トントントントン。
部屋の中に響く小刻みに叩かれるまな板の音、その力強い音色に負けないようにモップを擦り。
ジュウジュウジュウ。
フライパンの上で焼かれる魚の音に熱い気持ちを滾らせて、布巾でテーブルを情熱的に擦り。
グツグツグツ
鍋で沸騰する水の音、その中で優雅に踊る野菜を想像すると、私の心も躍り出す、その音色に演奏のフィナーレを感じると、私は動きを加速させる。
クンクンクンクン。
次第に漂って来る美味しい匂いに、料理の演奏も・・私の掃除もフィナーレだ!!。フレイはバケツを片手に、空いているもう片手の手にモップを握るとクルクルと気持ちよさそうに回りながら元の場所に戻した。
「・・うぅ~ん・・・これで・・・・よし、終わりっ!。我ながら完璧!ブラボ~♪」
ピカピカに磨かれた床、そしてテーブル、フレイが満足していると少し遅れてキッチンの方から声が掛かった。
「・・さあ、終わったわよフレイ」
「おぉ!!まってました~♪」
ゴトリと置かれる料理の音を聞き、フレイはキッチンに急いで駆け寄ると出来上がった料理の前でクンクンと匂いを嗅ぎ目を輝かせ歓喜の声を上げた。
「透き通るような野菜のスープ!美味しそうに焼けたお魚!香ばしいパンの香り。・・・・う~~ん、美味しそう・・!、お母さんの美味しい演奏を聞きながら掃除するこの時間が、私・・一番幸せだぁ~♪」
・・・ぐぅぅ~~。
フレイの幸せを告げるお腹の音がキッチンに鳴り響く、その大きな音にフレイは恥ずかしそうにえへへと笑って見せると母も負けじと笑みを浮かべながらに意地悪そうに言った。
「あら~?それは、貴女の演奏かしら?」
「・・これは、お母さんの演奏に対する私のスタンディングオベーションです・・・えへへ・・・」
「ふふっ、それじゃあそのお腹の音はありがたく受け取っておきましょうね」
「・・所でそのお母さん・・・・アンコールは・・あるのかな?」
上目遣いに照れくさそうに聞いてくるフレイ、その言葉を聞くと母は優しく「もうっ」と言うとフレイのおでこを突っついた。
「食べ盛りの娘の為にアンコールは沢山あるわよ、さあ、テーブルに運んで」
「ああ・・もうお母さん大好き!今日も一日がんばれちゃう~♪」
カウンターに置かれた料理をフレイは綺麗に磨かれたテーブルの上に並べると急いで椅子に座り鼻息荒く母を椅子に促した。
「早く早く!冷めないうちに食べないと」
「はいはい、・・それじゃあ、いただきましょうか」
「うん、いっただきまーす♪」
食事前の挨拶を済ませるとパクリと料理を口に運ぶ。一口頬張るごとにうっとりとした顔で、幸せそうに食べるフレイ。そんな彼女を優しく見守る母。
こうして彼女の何の変哲もない一日が始まりを告げるのだ。
△
対岸に小さく見える港町を望む船着き場。暖かい陽の光は海に反射し、その光はどこまでも消えることなくキラキラとまるで海に輝く星の海のようになっていた。そんな星の海を優雅に魚の群れが泳ぐ、そして、その優雅に泳ぐ美しい影を追うように漁師達の乗る船もこの青く澄み通った広大な海に存在していた。
ここはフォルティオ大陸より南西にある小さな島、ラウル島。そして島の玄関口であり島唯一の町・・のどかで静かな時間が流れる小さな町、港町ヨーク。
朝の日課の最後を終わらせに、フレイは船着き場の近くで座っていた。海の上から聞こえる漁師たちの喧騒を聞きながら、気持ちよさそうに揺られる小さな船の傍らで、対岸に小さく見える港町を見つめていた。
・・・おはよう、お父さん・・今日もこっちは静かで・・風が気持ちいいよ・・、そっちはどう?・・もしお父さんも私と同じ風を感じられてたら・・うれしいな・・
フレイが対岸に向かって語り掛けるように独り言を言っていた時だ、海の方から男達の騒がしい声と共に船が次々に戻ってくる、漁が終わったのだろう、男達は様々な魚が入った箱を船から降ろし町の方に運んでいく。その光景を見つめるフレイに対し、漁師の男達の中からフレイに声を掛ける人物がいた。
「お~うフレイ、今日も親父さんに「挨拶」してんなあ!」
1人の髭を蓄えた漁師の男がさっきまで漁で使っていたであろう道具を降ろし、彼女に対し大きく手を振った。その姿を見るとフレイも嬉しくなり負けじと手を大きく振り返し答えた。
「おはよ~、おじさん!今日もいっぱい取れた?お魚?」
「あたぼうよ!この時期は入れ食いだからな、大漁で笑いが止まらねえぜ、ハッハッハッ!!」
髭を蓄えた男はニヤリと嬉しそうに笑みを浮かべるとフレイに近づいて行った。
「それとよおフレイ・・・またお前、「おじさん」て・・言ったな?」
男の言葉にフレイの体がビクンと跳ねる。よく見ると男の顔は笑っているが目が笑っていない、また無意識の内に言っちゃった・・。フレイはその場をごまかそうと男にぎこちない笑顔を見せると笑って見せた。
「・・・あっ・・・あ、あははは・・・いっちゃった・・かなぁ?。・・・・はは・・」
「間違いなく言っちゃったなあフレイ?、ハハッ、ハハハハ!・・・ふうっ・・」
漁師は大きく深呼吸をした後、笑顔で少女の頭をわしゃわしゃと力強く撫でまわした。
「いつも言ってるなぁフレイ?「お・じ・さ・ん」じゃなくて「お兄さん」だって、こんな若いおっさんがどこにいるんだぁ?何処に!!」
「・・いやゃあああ!ごめんなさいカッコイイ漁師のお兄さん!!お願いだからその髭を剃ってください!間違えるのはその髭のせいだから~!!」
「馬鹿野郎!この髭はなあ、俺のトレードマークなんだよ!。ハッハッハッ!!」
静かな船着き場に聞こえる2人の楽しそうな声、男と一緒に船から降りてきた漁師達は笑いながら口を開いた。
「ハハッ、またやってるぞあの2人。・・それにしてもアイツ・・フレイの事を本当に良く気に掛けるよ、まるで親子みたいだな」
「アイツも昔は向こうに「挨拶」してたからな、ほっとけないんだろうよ、ほら行くぞ、速く運ばねえと連絡船が着ちまうぞ」
「ああ、そうだな。・・オーイ!、フレイといつまでも遊んでないで速く運ぶぞ!!連絡船が来る前に片付け終わらせねえと向こうの親父さんにまた怒られちまうぜ?」
「・・そうだったな、全然顔を見せねえくせに、声だけはキッチリと来やがるからな。・・分かったよ!」
男はフレイから手を離すと慌てて仲間の方に体を向けると語気を強めた。その後姿を見ながらフレイは自分のぼさぼさの髪型をなおしながら頭を擦ってみせた。
「うぅ、酷い目にあった・・クンクン・・ああ、頭が魚臭い・・」
「じゃあなフレイ、親父さんによろしくな!」
「・・はぁ~~い」
男は漁師仲間の所に歩を進めるが途中で止まった。そしてなにかを思い出したかのようにフレイの方を振り返ると口を開いた。
「ああ・・そうだ、おいフレイ!」
「・・?」
「挨拶する時は笑顔でやれよ?。・・・お前は笑顔が似合うんだからよ・・その笑顔をちゃんと親父さんに見せてやれ、それが一番向こうも喜ぶからな」
「・・・うん!」
照れくさそうに笑って見せる男の表情にフレイも恥ずかしそうに首を縦に振り答えた。
「・・・・ねえ、お兄さん・・・・」
「お?なんだ・・?」
ありがとう、そう言おうとした時、フレイの髪を優しい風が揺らした。
「・・あっ・・・臭ッ・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・アッ・・・」
「てめえフレイ、誰が臭いだ誰が!!この野郎俺が偶に真剣に言って見ればバカにしやがって!!」
「いやああああああ!!違うの!おじさんの手が、私の頭が生魚臭いのおおおお!!」
「どさくさに紛れて誰がまたおじさんだ!!フレイ・・お前の親父さんには笑顔よりも元気な悲鳴と苦しむ姿を届けてやらああ!!」
「いやああああ!!」
じゃれ合う2人、その光景を笑うかのように、海鳥の鳴き声が遠くから聞こえるのであった。
△
青空の元、太陽が下がり始める昼下がりのヨークの船着き場、そこに聞こえる大きな波の音、そして辺りから聞こえてくる活気ある人々の声。船着き場には人が集まっており、その先には、周りの漁船よりも大きな連絡船が止まっていた。
「お姉ちゃんありがとー!また遊ぼうねー!!」
その人混みの中、1人の女性が連絡船から共に降りた1組の親子を見送っていた。その見送る女性は長髪の白い髪を潮風に靡かせ、黒いマントコートを肩に掛け、白を基調とし、黒の混じる修道院服に身を包んでいた。名残惜しそうに女性を見つめる少女に対し、あやす様な優しい態度で接し声を掛けた。
「・・・またね、この島を出る時、また会いましょう」
「うん、・・絶対に見送りに来るからね、お姉ちゃん!」
「ふふっ・・約束ですよ?」
女性は視線を少女の母に移す、すると少女の母はそれに気づき軽く会釈をした。
「娘がありがとうございました、船の上で遊んでもらった上に・・・」
少女の母が手の平に収まる程度の透明な結晶に目線を移す。
「・・こんな綺麗な石までいただいてしまって、・・本当にいいんでしょうか?こんな綺麗で高価そうなものを・・」
「・・遠慮しないで良いです、その石はそんなに価値のあるものではないのですから、気にしないでください。それにその石は・・貴女達親子が持っている方が相応しいですから」
「・・・そうですか、それではご厚意に甘えて・・ありがとうございます」
優しく言い聞かせるように言葉を紡ぐ女性に対し、少女の母親は再度大きく頭を下げる。
「何もない島ですが、どうか楽しんでいただければ幸いです、シスター様」
「・・・この島も・・これから楽しくなります、その様子を・・存分に楽しませてもらいます」
「・・・そうなんですか?。・・それでは名残惜しいですが主人も待ってますので、これで失礼します。さあ行くわよ、アリア」
「うん!またね!お姉ちゃん!!」
少女の母は女性の言葉を聞くと不思議そうな顔で考えるような仕草を見せる、だがあまり深く聞くのも悪いと思い、敢えてそれ以上の事は聞かずにその場を後にした。
目の前から去る親子の背を静かに、冷たい目で見送る女性。そして親子が視界から消えると目線を切り小さく呟いた。
「・・・・存分に楽しませてもらいますよ・・・・・・我が使徒よ・・」
女性は近くを通り過ぎる1人の髭の蓄えた漁師が目に入ると声を掛けた。
「・・・そこの貴方、すみませんがこの町の人ですか?」
声を掛けられたその男は先程フレイと戯れていた漁師の男だった。漁師の男はジロリと女性の出で立ちを見ると頬を緩ませ口を開いた。
「へえ・・珍しいな、こんな島に宗教の人間が来るなんて、しかもこんな・・・綺麗なシスターさんとはなあ・・・」
「・・・・それで、返答は?」
見惚れる様に男は女性を見ていると、ふと女性の冷たい目線を感じた。男はそれを感じ取るといかんいかんと表情を引き締め、ゴホンと一つ大きな咳をして今一度仕切りなおした。
「・・あぁ、シスターさんの言う通り俺はこの島の人間さ。それで何だい?この島に宗教を広めにでも来たのか?。生憎此処の人間は自由人ばかりでな、そう言うのは悪いが流行らないぜ?」
「そういう事で来たわけではありません・・・私は・・人探しに来ました・・」
「なんだ?、誰か探しているのかい?」
「ええ、そうです。もし分かるようでしたら答えていただけると有難いです」
女性の言葉に漁師の男はなんだそんな事かと言いたそうに笑みを浮かべると片手で髭を触り胸を張った。
「ハッハッハッ!この町小さいからよ、住んでる奴は皆顔見知りだし親戚みたいなもんさ、言ってくれりゃあ誰だってわかるぜ!」
「・・それは、助かりました・・これで探す手間が省けます」
「・・・それでシスターさん。アンタ・・一体誰を探しているんだ?。勿論ちゃんと理由も言ってくれるんだろうな?じゃなきゃ悪いが教えることは出来ないぜ?」
「勿論です、そんな簡単に聞けるとは思ってませんからご安心を」
男の問いに女性は何処からともなく手紙の封筒を取り出し宛名を男に見せつけるように差し出した。男はその封に書かれた名前に目を移すと見る見るうちに笑みが消えていった。
「探しているのはこの名前の少女・・・。私は彼女のお父様とは友人でしてね、彼に頼まれて此処に尋ねてきました」
「・・・この名前は・・」
宛名に書かれていた名前は・・フレイ。男は驚き女性の顔に視線を移すと、男の表情を見て女性は頬に笑みを浮かべ、嬉しそうに口を開いた。
「・・何処にいるか・・・・教えてくださいますね?」
彼女の何の変哲もない一日が、大きく動き出した。
△
落ち始めた陽が空を段々と赤く染め上げ、暖かかった風がその熱を失い始め一日の終わりを感じさせる夕暮れ時。ラウル島に存在する唯一つの町、ヨークに向けての連絡船が出ている対岸の港街、ソルトに向けて。ローズを乗せた3頭仕立ての幌馬車が街道を走る。
車輪のカタカタカタと言う心地よい音を聞きながら、ローズは馬車が過ぎさる道筋を静かにぼうっと眺めていた。
・・・・・・神託の巫女・・・・か・・・・・・。
ローズはあの時の、マギの屋敷での出来事が脳裏をよぎった。
△
・・・・・・・ローズ、君には1人の少女の保護を手伝ってほしい。
エルシドの部屋で告げられた少女の保護の依頼。
彼の口から発せられたその言葉はローズの望んでいた言葉とは程遠いものだったのだろう、ローズの表情が一瞬のうちに曇っていった。
「・・少女の保護だと?エルシド、お前は私に子供のお守りをしろと言うのか?・・ふざけるな」
「ふざけてなんかいない、これはいたって真面目な話さ、ローズ」
エルシドは一呼吸置くと口を開いた。
「実は僕の古くからの友人にロイドという学者がいてね、彼は宗教学を専攻に研究していたんだ。色んな宗教を調べてはいたが特に彼が力を入れていた宗教があってね。それは暗黒時代に失われたと言うルクス教という宗教だったんだ、その熱量は僕も驚くほどでね、まるで何かに取り憑かれたように調べていたよ、それのせいかな・・僕達は毎月会ったり、手紙のやり取りをしていたんだけどそれがどんどんと疎遠になっていってね、ここ数年間は手紙のやり取りもなくなっていたんだよ」
そう言い終えるとエルシドは一呼吸置いて机に置いてある手紙をトントンと指で叩いた。
「でもね、そんな彼が・・つい最近、一通の手紙を僕に送って来た。それも・・この見覚えのある古びた手帳と共にね、僕は驚いたよ。この手帳は彼が毎日肌身離さず持っていたモノだ、多分誰もその中身を見たこともないはずだよ。そんな自身の体の一部みたいなものを僕に送ってくるなんて・・絶対にあり得ない事だ」
エルシドは内ポケットから分厚い、古びた手帳を取り出すと手紙の横に添えた。
「この手帳の中身は彼の魂、情熱だ。彼が生涯をかけ研究していたルクス教の細かい記録と発見が書き込まれていた。わかるかい?この手帳の意味とその重みが、そして僕は急いで手紙を開いた、見てほしい」
エルシドが手紙を開くとローズは視線を落とし手紙に書かれた殴り文字をなぞった。エルシドはその様子を見ながら寂しそうに言葉を紡ぐ。
「彼とは何度も手紙のやり取りをしていたけど今まで一度たりともこんな乱暴に書かれた手紙を受け取ったことはない。その事実が・・彼の焦りを雄弁に伝えているよ。そして手紙の内容は1人の少女の身に危険が迫っている事、そしてその少女の居場所と保護の要請・・そして最後の一文に書かれている・・」
なぞり終えたローズがエルシドの言葉を遮る様に呟いた。
「・・・神託の巫女を頼んだ・・か。神託の巫女とは一体なんだ?」
エルシドは立ち上がると小さく首を横に振った。
「・・分からない、多分彼が調べていたルクス教の何かだと思う、だからこそ彼はこの手帳と言葉を僕に託したはずだ」
床に散らばった本を足で突くと残念そうに苦笑を浮かべた。
「それでね、ローズが来るまでの時間、僕なりに軽く調べてはみたんだ。だけど・・全然駄目だったよ。僕はこの手の事に関しては素人だ。そんな素人の僕にとって、手帳に書いてあることが難解過ぎる、詳しい事はもっとじっくりと・・時間をかけ、深く調べないと分からない」
エルシドは一つ間を置くと手紙に書かれる神託の巫女という文字を指さした。
「けどね、ひとつだけ確かな事がある。僕達が保護する少女が神託の巫女に繋がる何かなのは間違いないという事さ。だからこそ彼は彼女を僕達に託したんだ。・・僕達は、彼女を絶対に守らなければいけない、何があっても彼の代わりに行かなければならない。たった1人の僕の友人・・、彼が僕に自分の全てを託したんだ。僕は、彼の為にも成し遂げなければならない」
「・・少女の名前は・・・「フレイ」か。場所はラウル島の町、ヨーク・・ここからそうは遠くないな・・・」
「そう、だからここに来てもらったんだ。この依頼は個人の依頼だからマギの魔導士を動かせない。それに何よりも僕はローズを信頼しているんだ、例えどんな相手が来ても君なら勝てる、絶対に守ってくれるってね。・・・受けてくれるかい?」
「・・・話は分かった・・・・私に任せとけ」
ローズはポケットに右手を入れるとエルシドに背を向け扉のノブに左の手を掛け部屋を後にしようとした。すると慌てた様に後ろからエルシドとティティが駆け寄ってきた。ローズはその背後の動きを察すると嫌な予感を感じながらも恐る恐る尋ねた。
「・・・・まさか・・お前ら・・」
「勿論、僕達も行くよ。彼の意志を引き継ぐのは僕なんだからね、此処で待ってる訳にはいかないさ」
「ふっふ~ん、ローズ1人じゃ危なっかしいです♪私達2人がちゃ~んとお世話するんですから!!」
その2人の言葉を聞いてローズはゴツンと扉に頭をぶつけた。この先のことを思うと体が重い・・。ローズは扉を開くと気だるそうに、重い足取りで屋敷を後にした。
△
「・・・・・・・・ハァ・・」
1人思いにふけりながら外を見ていると、背中の方から聞き覚えのある悲鳴にも似た大きな声が聞こえてきた。
「キイイィィィ!!また負けました!。エルシド様・・強すぎます!」
「ハハッ、ティティはすぐに顔に出るからね、わかり易いから助かるよ」
「ムムゥ!それじゃあ次からティティは顔を膨らませてやるです!これなら必勝ですよ!さあもう一回やりましょう!もう一回!!」
「・・・・・ハァ、静かに出来ないのかこいつらは・・」
ローズは目を細め、小さく息を吐き不機嫌そうな声で愚痴を零す。そんなローズを知ってか知らずか、ティティが嬉しそうに話しかけてきた。
「ねえねえ、ローズもトランプやりましょうよ~?3人の方が絶対楽しいですよ?」
「断る」
「もう~、なんで即答するですか!ティティに負けるのが怖いのですか!?」
「そうだな、だから断る」
「キイイィィィ!ローズの薄情者!根性無し!!」
騒ぐティティを無視し、ローズは顔を横に向けると口を開いた。
「・・おいエルシド、そろそろソルトに着くぞ、準備でもしておけ」
「そうか、もうそんな時間なんだね、それじゃあティティ、次を最後にしようか」
「ハイです!、ふふん、最後は勝たせてもらいますよ!」
ティティがエルシドの側に戻りトランプを始めて少し経つと、小刻みに揺れていた場所が急に動きを止めた。
ティティは体を捻りローズの見ている外を一緒に見る、だが馬車はまだ街道の途中で止まっており、明らかに街には着いていなかった。ティティは体を正面に戻すと訝しげにエルシドに尋ねた。
「・・エルシド様、なにかあったんですかね?」
「・・・・如何やら引き止められたようだね、誰かに。ほら・・声が聞こえる」
エルシド達が声を潜め聞き耳を立てると、馬車の運転手が何者かと話す声が聞こえてきた。
「・・・なんか、慌ててますね」
「そうだね、・・・ちょっと聞いてこようか」
「・・あ、ティティも行きますよ!」
エルシドがティティと一緒に降りる最中、その様子を静かに横目で見ていたローズに目配せすると、それを見たローズもめんどくさそうに後を遅れて一緒に馬車を降りた。
三人が馬車から降りると運転手の男と白い制服を身に着け、馬にまたがる男とが何やら慌てたような声で真剣に話し込んでいる。一体何があったのだろうか・・、エルシドは2人の間に割って入ると制服の男に声を掛けた。
「どうしましたか?何かこの馬車に用でも・・?」
「なぁ、あんた達ソルトに向かってるんだって?悪いが今は・・・っ!」
制服の男は後から来たローズの姿を見ると、目を丸くして驚きの声を上げた。
「その服装は・・っ!。あんた達まさか・・マギの魔導士なのかっ!?」
「え、ええ・・そうですけど・・」
制服の男の鬼気迫る迫力にエルシドが詰まった声で小さく告げる。すると制服の男はその答えを聞き、安堵した表情を浮かべるとエルシドに詰め寄り腕を掴んだ。
「助かった!、こんな所でマギの人に会えるなんて・・運が良いっ!。頼むマギの魔導士様、急いでソルトに来てください、緊急事態なんです!」
「緊急事態・・・」
緊急事態、その言葉に3人の間に緊張が走る。エルシドが小さく振り返りローズを見るとローズは溜息をつきながら制服の男が来たであろうソルトへの道を見て小さく呟いた。
「・・・どうやら、先手を打たれたようだな・・」
今、オレンジ色に燃え上がるソルトの街に、黒い影が落ちようとしていた。
誤字、脱字見つけましたら連絡お願いします。投稿間隔月1~2




