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聖者の行進  作者: キリギリス
第一章 運命の出会い
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宿命の2人

誤字、脱字ありましたら報告お願いします。




運命の日  アルバス大陸




・・・あの日は・・・・・





・・・そう、空が真っ赤に燃えているような・・美しい夕焼けだった・・・




私が向かった場所、そこは国からも・・・人々の記憶からも捨て去られた小さな町。その町の中心に聳え立つ・・教会だった。小さな町にはとても似合わないその外観、美しい装飾が・・そこで生きていた人々の神への信仰心を雄弁に物語っていた。



だが・・そんな教会も今では誰にも手入れをされず、祈りを捧げられることもされず、己の与えられた役目を終え。後はただ・・朽ちる事を静かに待つだけの存在と化していた。



そんな悲しげな教会の姿を見ても、不思議と私の心は静かだった。己が生涯全てを信仰に捧げていたのに・・私は、何も感じれなかった・・。



・・・私は教会の扉を開いた、ギィィ・・と、軋む音を立て扉が開くと外の陽気に誘われるかのように埃臭い匂いと共に闇から冷たい風が這い出してきた。赤く染まる外とは対照的にまるで夜の様に薄暗い教会内部。



そんな薄暗闇の中、ある一点が照らし出されているのが見えた。私はその光に誘われるようにして闇に足を踏み入れた。後ろから聞こえてくる扉の閉まる音、その音が合図となり世界が暗闇に覆われる。



すると・・私を誘う光が・・輝きを増した。



空から降り注ぐ炎のような赤い陽の光がステンドグラスを通してこの世のものとは思えない様な煌びやかで、幻想的な光に生まれ変わり壇上に降り注いでいた。



私は、いつの間にか壇上の前まで来ていた。・・言い知れぬ匂いと、目の前に広がる異様な光景。だけど・・・そんな事は既に気にはならなくなっていた。私は・・目の前に広がるその光景に・・・体が・・心が震えていた。



幾多の・・私の仲間だった者の骸で飾られた赤の壇上、骸と幻想的な光が作り出した煌めく赤い海に横たわる1人の色の無い美しい女性・・・。その光景はまさに神話の1ページ、あの人のそのお姿は神話の世界から飛び出してきた神の姿そのもの。残酷で・・そして・・・何よりも・・美しかった・・。





・・・私は・・・・心を、奪われた・・・。




私があの人に魅入っていると、あの人は自身の側に倒れる骸を憐みの目で見つめ、まるで我が子のように優しく頭部を膝の上に乗せると・・寝かしつけるように優しく撫でながら、静かに・・淡々と語りだした。




人・・・人は心に花のつぼみを宿す生き物、その蕾の栄養は・・無限に湧き出る・・欲望。



欲望・・・それは心の渇き、人間の業。人は渇きを満たす為自然を殺し、同胞を犠牲にし、剰え《あまつさ》世界さえも喜んで殺す傲慢で、救いようのない生き物。残酷な死の上に積み上げられし幾多の欲望を吸い上げ、遂には蕾から花を咲かせる。・・醜く咲き誇る大輪の花。その花の名は・・大罪。



大罪・・・人が欲を貪り、その果てに咲かす大輪の花、その花言葉は「世界にかけられた永遠の呪い」。大罪の花から飛ばされる花粉はやがて種となり大地に根を下ろし、世界に罪の輪廻をもたらし世界を殺すその時まで、蝕みながら増殖する・・その種の名は・・・人。



人・・・人は・・贖罪しなければならない・・・罪に穢され、毒されたこの世界に。喋ることもできず、抗う事も出来ずに・・唯、静かに死を待つだけの悲しいこの世界の為に・・・・罪は・・浄化しなければならない・・。



あの人はそう言い終えると寝かしつける手を止め、倒れていた私の方に顔を向け、優しく微笑むと手を伸ばした。




「さあ・・いつまでも寝てないで・・起きて・・一緒に生きましょう・・贖罪の為に・・世界の為に・・・私の為に・・貴女を・・迎えに来たのよ・・」




・・・この人は・・・この想いは・・・・・私の・・求めていた・・・



差し出される手を見て、もう二度と流れることはないと思っていた涙が頬を伝った。そして私が成すべき事を理解した時、私の体が・・死んでいた心が再び熱を帯びた。




この人は・・・偽りではない・・・世界の・・救い・・・・あぁ・・本当の・・・・本物の・・・・





・・・・私が求めていた・・・・・・・「聖女」様だ!!!




そう心が理解した時からだ、今までの聖女様の言葉1つ1つが雨となり私の乾いた心に染み込んでいった、その美しい言葉が頭を巡る度に、徐々に心が満たされていくのを感じた。そして私の体は・・いつの間にか歓喜に打ち震えていたのだ。



ドクン・・ドクン・・!・・・ドクン!!



心臓が張り裂けそうなほどの大きな鼓動を感じる、苦しさと共に私の心臓が私自身に語り掛ける。前を向き、絶望に抗い、もう一度戦おうと。この世界の為に、聖女様の為に戦おうと。



流したこの涙は過去の哀れな私との決別の証、私は・・あの瞬間生まれ変わったのだ。・・光を守る、世界を救済する聖者の使徒に・・!。





その日より暫くした後、1人の女司祭が国から姿を消す。自身が修道院長を務める修道院の子供達・・皆を我が手に掛けて・・・。












運命の日   フォルティオ大陸のとある場所




夕日に染まる森の中を1人の少年が呼吸を荒げ必死の形相で走る、大粒の汗を額に浮かべ、悪い足場の中を何度も何度も転びそうになりながら・・もう追われていないことを願い懸命に前だけを見て走り続ける・・「それ」から逃げるために・・。




「ハッ・・ハッ・・ハッ・・・」




「バキ・・バキバキッ・・!」



だがそんな彼の願いも虚しく背後から枝木をなぎ倒す音だけが聞こえてくる。それどころか残酷なことにその音は徐々に近づいてきていたのだ。少年は姿の見えない追跡者に恐怖から声を上げた。



「ハッ、ハッ・・なんで・・!お願い・・来ないでよッ!!」



「グルア・・ガアアアアアア!」



「・・ひぃいっ!?・・・うわアッ!」



少年の声に嫌だと言わんばかりに大きな咆哮が背後から聞こえてくる、体を強張らせるほどの威圧感を感じさせるその咆哮に驚き少年は木の根に足を取られ転んでしまった。「止まるわけにはいかない」、少年はその場から急いで立ち上がろうとすると足に激痛が走り体を丸めてしまう・・。



「くっ!、いたっ・・うぅ・・」



彼が足を見ると踝の辺りが腫れており熱を持っていた、どうやら転んだ時に足を捻挫してしまったようだ。痛さから立ち上がれずに足を押さえ蹲っていると「それ」は立ち止まった。



「・・・ガアアッ・・ハッ・・ハッ・・グルルル」



「・・!?」



背後から聞こえるその声の大きさが得体の知れない何かとの距離を少年にわからせた。それは自分の背後に居る・・・、背中越しに感じる荒い吐息、獣の臭いに恐怖で汗は吹き出し体は震え動かなかった。



「ひうっ・・ああぁ・・・・」



「グガッ・・グルアアアアアアアア!!」



背後で大きく影が動く、もう駄目だ・・、背後から聞こえる唸り声に恐れおののく彼はこれから起こることを思い、歯を食いしばり目をギュッと閉じる。「殺される・・・!」。そう思った・・その時だった。



ブオゥゥン!



突如として聞こえてくる風を切る音、重い物体が飛んで来るのを感じさせるその音が背後の何かに激突すると「・・バアッンッ!」と弾ける音に変わり森に木霊する。すると、背後から感じたその大きな気配は「バキバキバキッ」と木々をなぎ倒す音と共に消えていた。



「・・・・?」



背後から感じる圧が消えると強張る体から力が抜けて行くのがわかる。少年はこの瞬間に何が起こったのか確認する為、意を決して恐る恐る目を開いた。



「あ・・あれは・・・・・・人・・?」



少年が目を開くと前方の離れた場所に1つの影が佇んでいた。夕日に染まる森の中で一際異彩を放つ黒い人物、死神の様な黒いフードの付いたマントで自身の全てを隠し、静かに立っていた。



「瘴気」の流れから予想はしていたが・・中々に大きいな」



状況が飲み込めず、唖然とした顔でその自身を見つめる少年に対し黒い人物はゆっくりと歩を進めながら呟いた。



「・・・おまけは・・まだ付いていたか。・・おい、お前・・魔獣モンスターが戻ってくる前に早くこっちにこい・・助けてやる」




「あ・・ああぁ・・・うぅ・・」



あの人が自分を助けてくれたんだ・・。遠くから聞こえる「女性」の声に全てを理解すると安堵と共に少年の目から涙が溢れ出した、感情は混乱し体は震え涙が止まらない・・それでも少年は何とか震える声を振り絞り、大きな声で辿々しくも精一杯彼女の問いに答えた。



「あ・・足が・・ひぐっ・・う・・動か・・ない・・・・!」



「・・・チッ。・・おい、私が行くまで何があっても後ろを振り向くな、私だけを見ていろ・・いいな?」



「グオオオオオオオオオオオオオ!!」



「ひいっ!?さっきの・・!」



「振り向くな。・・・私だけを見ていろ」



「・・・うえっ!?」



離れた距離から聞こえてくる呟くような小さな、まるで耳元で囁かれているかのようなその不思議な声に戸惑いながらも、振り向きそうになる顔をなんとか前に戻し遠くにいる彼女に向かって大きく頷いた。



「・・それでいい・・・うるさいのは・・・苦手だ」



そういうと女性は足元をチラリと見る。



(・・もう石は・・・無いか、・・仕方ない、)



女性は両手に付けた黒革の手袋をクイッとはめなおすと腰に付けたポーチから金貨を数枚取り出し彼の方に歩みを進めた。



「グオアアアアアアアア!」



遠くから聞こえる唸り声が急激に大きくなる、どうやら声の主は凄い勢いでこちらに近づいてきているようだ。後ろから近づいてくる感情の籠った叫び。それは怒り狂う咆哮。だが先程とは違い少年は恐怖に負けじと一生懸命に目を開き女性の方を必死に見つめていた。彼女の言葉を信じその恐怖と戦う少年の姿に女性は声が漏れた。



「いいぞ・・それでいい・・」



金貨を握りこんだ手をポーチの付近で溜めると金貨を親指に乗せ力強く弾いた。




キュイィン・・・パアンッ!!キュイィン・・パアンッ!




「ギャガァアアアアアアアアア!!」




「石が無かった事を「お前も」後悔するんだな・・・」




一発、二発と手に握りこんだ金貨を連続で弾く。鋭い風切り音を立て女性の手から放たれる金貨、その軌跡は一筋の金の糸となり美しい線を引き標的に着弾すると大きな破裂音を森に響かせた。



「ガアア!・・ガカッ・・グアアアア・・ガアアアアア・・・」



「・・・お陰で私も飯抜きだ・・・・クソッ」



繰り返し撃ち込まれる金貨のダメージから怒りの咆哮が段々とうめき声に変わっていく。次第に弱っていく対象、だがその事に対しまるで興味を示さず、何事もないようにゆっくりと歩き悠然と距離を縮めていく。そして・・・ある一定の距離まで近づくと金貨の打ち出す手の動きが止まった。



「・・頃合いか」



彼女は勢いをつけて少年に向かって大きくジャンプをする。自身を包み込む黒いローブをバサバサとなびかせ勢いよく飛んでくるその姿に彼は驚き頭を下げた。



「うわあっ!?」



頭を下げる彼の上を余裕を持って通り越すとクルリと一回転し着地をする。そして背中越しに後ろで蹲る少年に彼女は声をかけた。



「おい、私の許可があるまで動かずにそのまま伏せていろ・・そうすればお前は無事助かる」



「・・・わ、・・わかりました・・」



少年が震える声で女性の返事に答えると彼女は小さく息を吐き拳を握った。



「・・・それでいい、すぐに終わる」



「グガ・・グオオオ・・・ガアアアアア!!」



「おい・・・モンスター。・・・悪いが私も気が立っている・・楽に死ねると思うなよ?」



その言葉の直後、少年の後ろの大気が大きくが動くと背後から「メキメキ」と何かが軋む耳障りな大きな音が聞こえた。



「ひいぃっ・・!」



「ガアアアッ!!・・ガ・・・ァアア・・・・!!」



「・・・・死ね」



「メキ・・・メキメキ・・・バキンッ!!」



「ガアア・・ギャッ!・・ギャアアアアアアア!!」



先程まで聞こえていた唸り声が生臭い血の匂いと共に段々と悲鳴に変わっていくのを聞き、蹲る少年の体に力が入る。彼は必死に耳を押さえその悲鳴を聞かないようにした、目を閉じ、耳を塞ぎ、外の情報を遮断し暗闇の中でその悲鳴が止むのをただ祈った。



(お願い・・もう止めて・・助けて・・・お母さん・・・お姉ちゃん・・)



それから一体どれほどの時間が経ったのだろうか、大切な人を思い続け耳を塞ぐ彼の腕を何かが掴みかかる。腕から伝わるそのゴツゴツとした感触、血の匂いと獣の匂いが混ざった強烈な悪臭にビクッと体が大きく跳ね鼓動が早くなる。「恐い・・恐い・・!」、恐怖で震える少年の腕に触れたそれは彼の手を耳から退かし「・・終わったぞ」そう・・小さく声をかけた。



「う・・ううぅうう・・・・」



聞き覚えのあるその女性の声に彼は再び泣きそうになるのをこらえるとゆっくりと顔を上げ彼女の方を向こうとした。だが彼女はそれを制するように声を張る。



「振り向くな」



「う”ぁ・・うわっああッ!?」



女性は少年を後ろから片手でつまみ上げるとそのまま歩を進めた。



「苦しいかもしれないが少し我慢しろ、今の私は汚れているからこういう形でしかお前を運べない」



女性の言葉に少年は少し戸惑いながらも最後には「うん」と小さく返事をし彼女の方に顔をあげた、その時少年は黒いフードの中に隠れた女性の顔を見る。少年はそのフードの中の表情にヒッと顔を強張らせた。



「・・・なんだ?」



「あ、・・・お姉ちゃん凄い怪我してるよ・・・・血が・・そんなに・・」



「ああこれか・・・返り血だ、気にするな」



「そ・・それに・・・」



「・・・なんだ?」



「・・・目つきが・・・怖い・・・」



「・・・・・・・・・・・・元からだ」



めんどくさそうに彼女は顔をぬぐうと足早に森を後にした。









「魔導士様が森から戻って来ました、・・子供も一緒です!」



鎧を着た1人の兵士が2人に気付いて声を上げる。2人が森から出る頃には風は冷たさを感じさせ、陽の光は落ち始めていた。



外では装備を身に着けた複数の兵士と黒いローブを着た数名の人間が2人の帰りを待っていた。兵士の言葉に辺りを警備していた兵士達が一斉に駆け寄る。



「おお、子供も無事だ!良かった・・本当に良かった!」



「おい、向こうにいる親御さんを連れてこい!早くしろ」



「・・おい、向こうに行くんだろ?こいつを家族の所まで抱えて行ってやれ、足にケガを負っている、頼んだ」



「ハッ!わかりました魔導士様、さあ、こっちにおいで・・」



声をかけられた1人の兵士が急ぎ彼女に近づくと少年に手を伸ばした。



「ねえ、おねえちゃん・・」



「・・なんだ?」



「助けてくれて・・ありがとう!」



「・・あぁ・・・次は無い、気をつけろ」



彼女は少年を突き放す様に言葉を投げかけると少年を片手で差し出し兵士に渡した。



「そうだ、ねえお姉ちゃん!」



「・・・まだなにかあるのか?」



「・・またね!」



笑みを投げかける少年の姿にやれやれと頭に手を当てると彼女は小さく答えた。



「・・・ハァ、・・・・またな」




そして少年は兵士に預けられ向こうで待つ親の元に連れられて行った。暫くして聞こえてくる歓喜の声、子供との再会を果たし抱き合う親子の声だった。その声を離れたところから憂鬱そうに聞く彼女の元にローブを着た者達が近寄るとその中の1人の男が声をかける。



「掃討お疲れさまです、指示通りこの近辺を確認してみましたが他に魔獣のいた形跡はありませんでした」



「・・・あぁ・・」



「・・あの子運が良かったですね、私達が到着してから森に入るまでの間、かなりの時間が経っていたのに無事だったんですから。普通なら魔獣に喰われていますよ・・運がいいというよりも奇跡に近い」



「・・・あぁ・・」



「・・・・それにしても最近多いですね・・魔獣の出現・・・」



「・・・・あぁ・・」



「・・・・・・・・」



「・・・・・・・・」



会話が続かず彼女と男達の間に気まずい沈黙が訪れる、居心地の悪いこの状況を打破しようとローブの男はロングコート風の黒い軍服を彼女に差し出した。



「あ・・あの、その血生臭いローブはこちらで処分しておきます、どうぞこちらに着替えてください」



「・・・なんだこれは?、お前らと同じローブは無いのか?」



「上からの通達で今度貴女に会った際にはこちらを渡す様に強く言われています、いつまでも我々と同じ下級の者が着る服を上級の者に着られていては規律を乱すと・・。残念ですが諦めてください」



「・・・・ハァ」



渋々コートを受け取ると彼女はその場で恥ずかしげもなく堂々とローブを脱ぎ始めローブの下に潜む自身の肌を露出させた。



「・・!!」



その肌は冷たさを感じさせるほど青白く、それは熱を、生気を感じさせない。その美しくも妖艶な肌の色にローブの男達は「ゴクリと」息を飲んだ。



(・・・・こんな冷たい色・・今まで見たことが無い・・)



彼等がその姿に見惚れていると目の前に血生臭いローブが差し出される。



「・・・おい、お前・・」



「ヒッ、・・ハ・・ハイッ!」



男が慌てて顔を上げるとフードに隠れていた女性の顔が姿を現していた。見た目は若く肩に髪の毛がかかるぐらいの白色のショートヘア、色を持たない彼女の体の中で唯一つ色を放つ黒い瞳が鋭くこちらを見つめていた。



「す、すみません・・受け取ります!」



「いや・・手に取らない方がいい」



手を差し出す男に渡さず敢えてローブを地面に落とす、すると彼女の手を離れ地面に落ちるローブはその軽やかな見た目とは裏腹に重く地面に落ちると「べちゃっ」という重い音を鳴らした。



「!?」



音に驚いてローブを見つめる彼らに対し、受け取った黒いコートに袖を通し終えるとゴミを見るような眼で脱ぎ捨てたローブを指さす。



「・・匂いが移る、燃やして処理しろ」



「・・そ、・・そうですか・・。そ、それでは我々は森に入り残骸を処理します、後の事は任せてください」



「・・・後は全部任せた、私は戻る」



そう言い残し彼らの横を通り立ち去ろうとすると1人の男が何かを思い出したかのように後ろから声をかける。



「あ、それとすみませんあともう一つ、ええと・・・・こちらをお受け取りください」



ローブの男は女性に一通の手紙を差し出した。



「・・・これは?」



「魔導士様に渡す様に言われました、貴女のメッセンジャー《連絡員》と言えば伝わると言ってましたが・・・」



その言葉を聞き女性は呆れたのか大きく息をついた。



「あぁ、アイツか・・・連絡員の癖に他人を連絡に使うとはな・・受け取ろう」



「それでは我々は作業に移ります、ではまた」



要件を終えローブを着た者達はその場を後にした、その中で、1人の者が彼女との距離を確認すると前を歩く仲間の男に声をかける。



「あれが皆が噂する赤い魔女様か、・・なんかイメージと全然違ったな、怯えて損したぜ」



「そうですね、もっとこうなんか飢えた獣みたいな恐い人を想像していたんですけどね、それどころかあの人綺麗だし・・なんで皆あの人を恐れるんですかね?」



「・・だろうな・・お前達は初めてだろうな噂の魔女様の後始末は・・だからあんなに話しかけられるんだ・・お前らは」



「え・・ど・・どういうことですか?」



「・・いや、言わなくても現場に行けばわかるさ、・・・覚悟しておけよ、なんであの魔女様が「現場からも」恐れられているのか嫌でもわからされる・・それが分かれば自分から話しかけようとは思わないさ・・絶対にな・・」



男は2人に忠告すると、彼らと共に森の中に入って行った。



その姿を背中で見送った後、辺りから気配が消えたのを確認して女性はめんどくさそうに受け取った手紙に目を通す。



「・・アイツ、宿屋にいるのか。・・・・・・面倒だが・・行くしかないか・・飯の事もある」



そう言うと彼女は近くに止めていた馬にまたがると風を切り颯爽と駆けて行ったのだった。





人々が去り、静寂を取り戻した森の中・・後始末の為、森に侵入したローブの者達は彼女の戦った後を見て呆然と立ち尽くしていた。



「な・・なんだ、なんだよ・・これ?」



彼らの目に映るは赤い水たまりの中に無数に散らばる臓物と肉の残骸。その原形をとどめていない、解体された残骸を見て誰1人これが元は何だったのかわかる者はいないだろう。その凄惨な現場に思考が止めただ怯える者。残骸の放つ強烈な臭いに目を背け嘔吐する者もいた。



「これが・・魔獣モンスターだったと言うのか?これが・・・この肉片が・・そんな・・こんなことを人間が・・?」



「・・何度見ても慣れはしないな・・、どうだ?これがお前達の噂に聞いた魔女様の戦いだ。なんで深紅の魔女ブラッディー・ローズと呼ばれてるか分かるか?毎度解体された魔獣の返り血で真っ赤に染まって帰ってくるからなんだとさ」



男は目を細め天を仰ぐ。



「飢えた獣なんて生易しいものじゃない、いいな・・人は見た目に騙されるな、アレは化けモンスターなんだよ、マギが生んだな・・・」








森での戦いが起きた次の日の朝、朝日の光を浴び、銀髪の様に光る白く短い髪を風に靡かせながら1人の女性が馬を走らせある場所に向かっていた。彼女が見据えるは前方に存在する森、正確には森を背に存在する大きな屋敷であった。その屋敷は遠目からでも分かる程に古びた屋敷、外壁は緑で覆われ、その姿はまるで森の一部の様になっていた。



(・・久しぶりに来るな・・最後に来たのは・・「刻んだ時」以来か・・。まさかまたこの場所に来ることになるとはな・・・)



彼女は屋敷の近くまで来ると馬を降り歩き出す。



「・・おい・・あれって・・」



「・・・えぇ、なんでこの場所にあんなのが・・・」



近くにいた白いローブを纏う人達が彼女の存在に気づく、すると皆逃げるように距離を取りひそひそと小さな声で会話を始めた。だが彼女はそんな姿を見ても何も気にする素振りも見せずに扉を見据え彼らの前を悠然と歩き屋敷の中に入って行った。



中に入ってからも彼女は広い廊下の中央を気にせずに歩いていく。黒ずんだ古い廊下は彼女が歩を進める度にカツカツと音を立て辺りに促す。「彼女が来たぞ」「マギの忌み子が来たぞ」と。



その太々しい歩き方、誰よりも大きく鳴らす廊下の音に反応し周りの者が彼女の顔を見る、すると彼らは次々と皆驚いた顔をし廊下の隅に避け道を開けた。その様子に・・彼女は歩きながらに鼻で笑う。



(フッ、相変わらずだな・・・だが、気楽でいい・・)



そんなことを思いつつ廊下を抜け階段を登ろうとした時だった、階段の上から高圧的な曇った声が聞こえてきた。



「そこで止まりなさい」



「・・・・・ハア、・・見つかりたくない奴に見つかったか」



彼女はゆっくりと足を止めるとその声の聞こえる方に気だるげに顔を上げて声の主を確認する、そこにはメイド服に身を包み、長い黒髪をメッシーバンに結んだ若い女性が片手で鼻を隠し不機嫌そうに階段の上に立っていた。



「やっぱり、どうも獣臭いと思ったら・・、勝手に入ってきているじゃない・・屋敷の中にケダモノが」



ケダモノ・・か、誉め言葉としてありがたく受け取っておく。こんなカビ臭い所の奴と一緒の匂いじゃないんだからな。・・お前と言い争っている暇はない・・行かせてもらうぞ」



強い口調で言われるその言葉を彼女は適当に受け流し階段を上り始める。そしてメイドの隣を通過しようとした刹那、彼女の目の前にメイドの腕が真っすぐと伸び行く手を阻止する。



「・・獣が、言葉が通じないか?、私は止まれと言った。・・今すぐ消えなさい、この屋敷から」



「おい、道を開けろ、私もこんな所来たくて来たわけじゃない、呼ばれたから来ただけだ。お前に言われなくても用件が済んだらすぐに消える、それでいいだろ?」



「・・・・呼ばれた、貴女が?。・・・そう、あの「変人」が呼んだのですね、・・ふざけたことをする・・・」



メイドは彼女の顔に目を向ける。その目には明らかな敵意と不快感が見えて取れた。



「例えどんな理由があろうとも私はお前を通す気はない。これが最後です、消えなさい、この屋敷から」



その言葉に彼女は話し合いは通じないと見ると目を逸らさずじっと見つめながら顔を近づけた。



「そうか・・なら、私もこれが最後の忠告だ、おい、飼いペット、今すぐ消えろ、これ以上邪魔をするなら・・私がお前の主人の代わりにしつけをしてやるぞ?」



睨みあう両者、怒りと敵意を含んだ両者の視線は交わり合い、2人の間にあった見えなかった嫌悪感は二人の意志を含み段々と目に見える殺意の波動に変わっていった。殺意が渦巻く2人の間の空気は先程までよりも重くなりその明らかな変化に2人の心が昂る。



メイドは口元を緩ませ笑みを浮かべる。



「・・・どうやら「力」を得、勘違いしている馬鹿に教えてあげなければいけませんね、自分の立場というものを・・自分が如何に矮小な存在かという事を・・」



張り詰めた空気に似合わぬその顔を見て釣られるように彼女の口元も緩んだ。



「強がるのはやめておけ。もうお前は狼じゃないんだ、戦う牙を抜かれ、犬に堕落した奴に何を教えられるんだ?お手の仕方か?それとも・・大好きなご主人様に撫でてもらう為のおねだりの仕方か?」



「・・・・堕落したかどうか・・・試してみるがいい・・!」



一触即発の危機、張り詰めた空気がまさに爆発を迎えそうになったその瞬間、スッと横から2人の目の前にモップの糸が幕となり割り込んできた。モップの糸により二人の交じり合う視線は切り離され緊張した空気が弛緩する。2人は視線をモップの柄の方に移すとそこには執事服に身を包んだ短い黒髪の若い男がいつの間にか前を向いて立っていた。



(こいつ、いつの間にこの距離に・・)



「・・・何故止める?、フォード」



フォードと呼ばれた若い男は淡々と答える。



「何故止めるですか・・、それはリコ・・簡単な事ですよ。今はまだ「主」より命じられた掃除の途中だからです、そういう「私事」は今与えられた「仕事」が終わってからにしてもらいましょうか」



フォードはその場でクルリとモップを回すと柄をリコに向けた。



「・・掃除ですか、なら問題ないはずです、私は今屋敷に入り込んだ大きなゴミを「掃除」しようとしていたのですから。・・それともフォード・・貴方、この女に肩入れをするつもりですか?、主を「冒涜」する・・この女に・・!」



「・・そんなつもりは微塵もありません、もしリコが彼女と戦いたいのならばそれは結構、私はその行為自体を止めるつもりなんてありません、・・ただ、何度も言いますが今は「仕事」の時間、「私事」の時間では無いので今はご遠慮願いたいだけです」



フォードはリコを戒めるように言葉を続ける。



「いいですかリコ?彼女はゴミではなくマギの魔導士、例え何があろうと彼女はマギの仲間であって決してゴミではないのです。仲間の「掃除」を「仕事」とは言いません、それは貴女の私情、「私事」になります。もしやるのであれば主から与えられたこの玄関の掃除が終わってからにしてもらいたいですね」



「・・・・」



不服そうな目で睨みつけるリコにフォードは語気を強める。



「・・フウッ、良いですか?・・もし今戦えば貴女は主から与えられた仕事を途中で放棄する事になるのです、それ即ち主に「仕える事を」放棄する事。・・こういえば分かりますね?貴女が行おうとしているその行為の愚かさが?」



「・・・・くッ・・!」



フォードの言葉にリコは未だ不満を抱きつつも渋々目の前に差し出されるモップを力任せに掴むと自身に向かって引き寄せた、そしてその2人の様子を静かに見ていた彼女に対し恨めしそうに小さく呟く。



「・・・私が掃除を終わらす前に屋敷から消えなさい、消えていなかったらその時は必ず殺す・・」



吐き捨てるように言葉を言い残すとリコは階段を下りて行く、そして残された2人の視界から消える前に立ち止ると背中越しに言葉を発した。



「最後に・・フォード・・」



「・・・なんでしょうか」



「モップを顔の前に差し出す時は柄の方を向けて差し出しなさい、・・不愉快です」



「・・それは、申し訳ありませんでした」



フォードは彼女の背中に体を折り頭を下げる、だがそんな謝罪を見届けることなく彼女はその場を去って行った。廊下を鳴らす足音が段々と遠ざかっていくのを確認しフォードは頭を上げる。



「・・・・全く、急に走って居なくなったと思ったら・・・直情的過ぎるのも考え物ですね、もう少しその気持ちを隠していただけなければ。・・それでは失礼します」



そう言うとフォードも階段を降りて行く。



「あぁ・・そうだ、彼女は掃除が早いですからね、早く用事を済まして立ち去ることをお勧めします、「仕事」が「私事」に変わる前に・・」



「・・・・悪かったな、手間をかけた」



「・・・勘違いしないでいただきたい、私も彼女と気持ちは同じです、・・違うとすれば私は公私の分別ができるという事ですかね。それでは今は仕事の時間なので・・失礼致します」



「・・・・今は、か・・」



そう言い残しフォードはリコを追うように去って行った。彼女は去って行く2人の廊下の音を聞き届け、静かに階段を上って行った。







あれから少し歩き、彼女はとある部屋の前にたどり着く。「こんな所まで呼びやがって・・」小言を吐くと彼女は部屋の扉を軽く叩いた。



「ガンッ!ガンッ!」



「・・うわぁ!?ガシャーン!バサバサバサ・・・」



扉を叩く音に驚いたのか中からびっくりした様な声と共に何かが崩れる音が聞こえる。「慌ただしい奴だ」そう思った刹那、勢いよく扉が開いたのだった。



「ああぁ、そんなに叩かないで!大丈夫だから・・・ローズ!」



ガチャリ、小さく開いた扉の隙間から黒髪のボサボサ頭で見るからに清潔感のない男が顔を覗かせた、その男はローズと呼んだ彼女の顔を見ると嬉しそうに笑った。



「・・よく扉を開ける前から私だとわかったな、エルシド」



ローズと呼ばれた彼女は不思議そうにエルシドと呼んだ男に尋ねる、するとローズを見ながらエルシドは苦笑いを浮かべ扉をスリスリと撫でまわし答えた。



「ハハッ、此処の人間はこんなに強く誰も扉を叩かないさ」



扉が無事なのを確認し終えホッと一安心し呟いた。



「どうやら壊れてはないようだね・・良かったよ、「前回」君に壊された時は大変だったからね・・」



目を細めまじまじとローズの顔を見るエルシドに対しローズはばつが悪そうに目線を逸らした。



「・・悪かったな、あの時は「刻まれた」ばかりでまだ力に慣れてなくてな、今はもうある程度加減のやり方もわかったさ」



「加減のやり方、僕はまだ分かったとは思えないけどね・・・」



「・・おい、そんなことより無駄話をしてていいのか?、急ぎの話なんだろ、「アイツ」が言っていた、珍しくエルシドが困ってるとな、私をここに呼ぶぐらいだ、相当な事なんだろうな?」



ローズの言葉を聞き思い出したかのようにエルシドは表情を変える。



「・・そうだったね、それじゃあ中に入ってよ・・これは凄く大事な話だから・・誰にも聞かれたくないんだ」



エルシドが扉の中に入ろうとしたその時、遠くから聞き覚えのある「アイツ」の怒鳴り声が聞こえてくる。



「こおおおらあああああああ!!」



エルシドはその大きな声のする方に顔を向けると小さくため息を吐いた。



(・・・もう来たのか、アイツ)



エルシドも声の正体に気づいているようでローズに尋ねるように声をかける。



「・・・ティティの声だね、そういえばティティはどうして一緒じゃなかったんだい?一緒に来るように言っておいたんだけど」



「ああ、私と一緒に来ると言ってたが・・・うるさいしめんどくさいから落ち合った宿にそのまま置いてきた」



「ロ・・、ローズ・・・私を置いてとっとと行くんじゃねええええ!!」



肩に掛けた大きなカバンを大きく左右に揺らしながらドタバタと1人の子供がこちらに向かって走ってくる。その光景にローズはやれやれと声を漏らした。



「走るな、穴が開くぞ」



「ゼエハアゼエハア・・だ・・誰のせいで・・はしってるとおもってるんですかーーーー!!」



遂に彼女は最後まで怒鳴るのを止めず二人の所にたどり着くと力尽きたかのかバタンと音をたてて倒れこんだ。



「ヒュー、ヒュー・・。・・・い・・・今までの人生の中で・・・一番・・疲れたです・・・・グハァ・・・・」



息も絶え絶えに大の字に倒れこむ少女・・小柄な彼女には似合わないぶかぶかな緑の大きなベレー帽に魔導士の服、大きなカバンを肩にかけた彼女の名はティティ、エルシドの従者で見習い錬金術師であり私にエルシドからの依頼を伝えに来るメッセンジャーでもある存在だ。



「ハァハァ・・ロ・・・ローズ、あ・・あり得ないでしょ普通・・・・私を・・・置いてくですか・・?」



倒れこみながら酸欠からなる真っ青な顔をし、息も絶え絶えに文句を言うティティをローズは見もせず言葉を吐いた。



「・・・当たり前だろ、落ち合った時のティティは徒歩で私は馬に乗っていたんだ。・・急ぎの用事なのに徒歩のお前に合わせてたら遅れるだろ」



ローズの言葉を聞くとティティは顔を真っ赤にして立ち上がりローズに詰め寄り声を荒げる。



「ちがーーう!。いいですか?ティティはローズが魔獣討伐と聞いたからおもてなしの心で宿にて待ってたんです。連絡を受け取ってからこっちに来る頃にはもう夜、だからローズには宿でゆっくりと魔獣討伐の疲れを癒してもらってから朝2人で楽しく馬車に乗って行こうとしてたんです。来た時ちゃんと馬車の手配もしてあるって話も言いましたよねえ?全部言いましたよねえティティの段取り?、それなのに・・それなのに!!、朝起きたらあんたいなかったでしょうがあ!!」



今にも噛みついてくるのではないかと思わんばかりに前にグイグイと来るティティ、ローズはそんな様子に顔を背けめんどくさそうに呟く。



「うるさい奴だ・・だから子供は嫌いなんだ」



「なななっなぁあああ!?誰が子供ですか!!誰がキイキイうるさい可愛い子供なんですか!?私はこう見えても立派なお姉さんなんだから議論の前に先ずはそこを訂正しなさい!訂正!訂正!!てーいーせーいー!!」



「・・誰が可愛いんだ誰が」



「いいえ言ってまーす!、ローズのその目、その口元!、醸し出す雰囲気!!、すべてが私に語り掛けてきてるんでーーす!」



「ああもう・・はいはい!そこまでだよ2人共!」



2人の不毛なやり取りを側で聞かされエルシドはやれやれといった感じで声を挟む。



「ティティ、君もローズの性格は知っているだろう?彼女は精神が幼いんだからここはお姉さん、いやっ・・「大人」の女性の君が母親の様な寛容な精神で許してあげなくちゃいけないよ」



エルシドの口から発せられた大人という言葉にティティは背筋をピンと伸ばし目を細めエルシドの方に振り返る。



「うぅ・・大人?ま・・まさかのお、お姉さんを飛び越えて大人ですかエルシド様!?」



「・・そうだよティティ、君は大人のお姉さん、ローズは反抗期の子供。そんなツンツンしたローズに対して僕は大人の優しさと包容力で包み込むティティにいつも心から感謝してるんだ、今回も伝言ありがとう、優しいティティ」



「・・・・・・」



優しくゆっくりと語り掛けるように話しかけるエルシドの言葉にティティの表情が次第にパアッと明るくなっていく。



「おぅ・・ふぅ・・・もぅもうも~う!!、エルシド様はローズにアマアマなんですから!!でもエルシド様にそんな風に言われたら・・・ふふぅ♪ティティはお・と・な!の包容力で許しちゃうしかないですよぉ!!ふへへへへ♪」



さっきまでの様子が嘘のようにティティは周りを気にせずくねくねしながら喜びを表現している。



「お・と・な!のティティはエルシド様に感謝の言葉を言われて全身がムズムズするぐらい感激ですぅ♪その一言があるからティティはローズの素直じゃないこ・ど・も!のような捻くれた嫌がらせにも耐えられるのです!」



酷い言われようだなと思う反面ティティの扱いを見て「やるな・・エルシド」と、ローズは心の中で感心したのだった。



こうして騒ぎがひと段落つくと、エルシドはティティの不気味な動きを他所にローズの方を見て微笑みながら扉を開き中に招待する。



「それじゃあ一件落着したし2人共部屋の中に入って、用件を言うから」



「ハイです!!うへへへ♪」



ティティは嬉しそうに誰よりも早く一番に部屋の中に入っていく。それを目で追う私はエルシドに確認した。



「おい、良いのかティティも一緒で?・・うるさいぞ」



「大丈夫だよ、ティティは大人だからね。ちゃんと静かに・・」



「あああああああ!!。なんで!?なんでエルシド様お部屋がこんな酷いことになっているんですか?この間私が片付けしたばっかりなのに・・・まるで泥棒に荒らされた現場みたいなことになってますよ!?」



そうエルシドが言い切る前に当然のように聞こえてくるティティのうるさい声、ローズはやっぱりなと呆れた顔でもう一度聞いた。



「・・・本当にいいのか?」



「・・ハハハッ・・、まあ・・・大丈夫・・かな?・・まあ兎に角入ってよ」



招き入れられエルシドの部屋の中に入ると壮大な光景が広がっていた。流石のローズもその光景に目を丸くする。



「これは・・・なかなかだな」



広い部屋の床、テーブルには実験器具、魔導書、魔法陣やら紋章、刻印が書かれた紙が所狭しと散らばっていて人が歩くのも大変なほどだった。



「おかしいです!私、数日前には確かに綺麗に片付けたはずなのです?どうしたらこんな酷い有様になるのです!?見てください、あそこにある実験器具の塔、それに書類の塔を!?、どうやったあんな絶妙なバランスで積んで置けるんですか!!?」



絶景とも言えるその光景にティティは驚きの表情でエルシドの方を見つめる、エルシドはそんなティティの顔を見て頭を掻きながら申し訳なさそうに答えた。



「ハハッ、ちょっと今回の件の調べ物で忙しくてね・・まあその話はまた後でしよう」



扉を閉めエルシドは物で溢れかえる床を器用に歩いた、そして机に座り目の前に無造作に積まれる魔導書や紙の束を無造作に押しのけると机から地図を出して広げて見せた。



「時間があまりないから率直に言うよ、ローズ、君にしか頼めないことだから」



先程までの締まりのない顔が嘘のように表情が変わる。エルシドが滅多に見せない真剣な顔つき、その事実が今回の依頼の重さを感じさせるとこの先に待つ言葉を聞く前にローズの口角は自然と上がっていた。







更新不定期、月1~2予定

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