戦争の発端
皆さんどうも、ガクーンです。
前回の投稿から2週間近く経過してしまい、すいません。
色々と事情が重なり、執筆する時間が無かった……、はいそうです。ただの言い訳です。
執筆する気力が湧かなかった……、それだけです(笑)
今回、少し長くなってしまいましたが、楽しんでもらえると嬉しいです。
では、お楽しみください。
アルスが小屋の中へと入って行く。
遅れて護衛の二人もアルスを追いかけるように中へと入って行くと。
「おっと。今日はお客様とのご予定は無かったはずなのですが……」
男性が一人、椅子に腰かけながら飲み物を片手に本を嗜んでいた。
その男性はアルス達が入ってきた事に気が付くと、静かに本を閉じ、アルス達へと体の向きを変える。
「見ない顔ですね? ここのご利用は初めてでしょうか?」
「あぁ、初めてだ」
もちろん。この世界ではだけど。
前世では散々お世話になったゼンブルグ商会。
序盤から終盤までずっと利用させてもらい、嬉しい時も、悲しい時も商会が側にいたと言っても過言ではなかった。
「利用方法等のご説明は必要ですか?」
「いや、必要ない」
ゲームの時は説明を聞くを選択すると、長い間話に付き合わされることになったが、今の俺には必要ない。
そんなのは始めたての時だけで十分だ。
「承知しました。では、改めまして、ゼンブルグ商会へようこそ。本日は何用でしょうか? アルザニクス家の次期当主様」
男性の思わぬ発言に、エルドとモーリーが驚愕する。
「私だと知っていたんですね。流石ゼンブルグ商会です」
「恐れ入ります」
流石ゼンブルグ商会。ここ最近まで屋敷に籠りっきりだった俺の事を把握しているなんて。俺が屋敷外に出た回数は、最近の事を含めても、両手で数えられるほどしか無い。
それなのに俺の顔まで既に把握しているとは、流石としか言いようがない。
「なら話が早い。今日ここへ来たのは、ある情報を売りたいと思ってなんだが……。その前に君、商会の何番目?」
「っ!? い、一体……、何の話でしょうか?」
男性は驚きを隠しきれていない様子でアルスに問いかける。
この反応で大体分かった。
「ははっ、表情に出過ぎだよ。まぁ、その反応からして、ここの支店長じゃない事は分かった。いるんでしょ? この近くのどこかに。早く呼んでくれない?」
アルスは少し笑うと、男性に、いや、アルス達の近くにいるであろう人物に話しかける。
「一体何を言って……」
「だからさ、貴方じゃ俺が持ってきた情報を話す相手として不足だって言ってるの」
「突然そのような事を言われましても……。せめて内容だけでも教えて下さらない限り……」
うーん。これじゃ埒が明かないな。
相手は上の者に話を通す気ないし、俺も下っ端の方の人に持ってきた情報を話すつもりもない。
「じゃあさ、貴方は商会の何番目?」
「……、貴方様に私の個人情報を話すつもりは」
「どうせナンバーすら貰ってない下部メンバーでしょ?」
「…………」
当たりか。
ゼンブルグ商会は商会員の実力をナンバーで表す。
NO.10よりもNO.9。NO.9よりもNO.8の方が実力が高いといった具合にね。
商会では数字が小さい者ほど実力が高く、扱える情報の質や量も多くなるため、より重要な情報の売り買いをするには、NO.1により近しい者を相手取る必要がある。
だが、商会を初めて利用する者がそのような者たちに接触できる確率は限りなく低い。
商会で力がある者たちに接触するにはそれ相応の商会への貢献。つまり、情報の売り買いをした実績が必要だからな。
しかし、一つだけ、面倒な工程を踏まないで、商会の実力者に接触する方法を俺は知っている。
「はぁ、分かったよ。じゃあ、よく聞いてね、誰かさん……」
俺はわざとらしく周囲を見回し。
「ヘルウィス……」
ある人名をゆっくりと声に出す。
この名前を出せば、食いつくと思うんだけどな。
「ウォン……」
アルスがある人名を半分まで言いかけたその時。
「ちょっと待ったー!」
よし。食いついた。
突然、部屋中に響き渡る声。
その声にアルス以外の全員が戸惑いの形相を浮かべる。
俺は笑みが零れるのをグッと我慢しながら、しばらくの間、辺りをキョロキョロとしていると、扉を勢いよく開けて入ってくる者が現れた。
「ちょっとさー! なんで君みたいな子供がその名前を知ってるのかなー? それに……、君とこうやって会うのも初めてなはずだし」
その人物の背丈は150㎝位に、頭からフードを被り、如何にも不審者のような佇まい。声は変声機で変えているのか、中性的な声。
「貴方がここの店長ですか?」
「ううん。僕は店長代理。ここの店長は今、出張中だからね。カーリー、あとは僕に任せて……」
あの男性。カーリーって言うんだ……
頭からフードを被った人物は、カーリーを下がらせる。
「で、僕に何か用?」
その人物はホコリまみれの椅子を端から取り出し、ドシッと座ると、少し不機嫌そうにアルスへ問いかける。
「怒ってますか?」
「別に怒ってない。ただ……」
フードを被った人物はアルスの護衛二人の方をチラ見する。
「……エルドとモーリーは店の外に出ててくれないかな」
アルスは、エルドとモーリーが居たんだったっと言わんばかりの表情をし、二人に退出するようお願いをする。
「それはダメです。本当ならアルス様をこんな怪しい場所に連れてくるのも反対だったんですよ?
ですが、アルス様がどうしてもということで、私達二人が護衛として付いてきているのです。こんな危ない場所でアルス様から離れるなんて絶対にありえません」
エルドが頑なに許そうとしない。
「うーん、ここ以上に安全な場所は無いと思うんだけどな……、何かいい方法は無いかな? 店長」
この中で一番武力値が高いのは、多分あのフードを被った人物だ。
あの人が本気で俺を襲おうとしたら、護衛二人では俺を守り切れないだろう。
アルスはどうにかしてと、フードを被った人物に困り顔を見せる。
すると、フードを被った人物は……
「だから、私は店長代理だって何度も……、はぁ、分かったよ」
その人物は懐に手を突っ込み、ガサガサと何かを手探る。
「あったあった。」
そして、丸い道具を取り出し。
「これは遮断具。この道具は一定範囲の空間の音を外に漏らさないかつ、外からは透けて内部の様子が見えるようになってる。これならアルス君に危険が迫った時、いつでも二人は直ぐに助けに入れるよね? これでいいかな? アルス君」
この人……、なかなかやるな。
俺は護衛二人を遠ざけたかった。だって、商会に売ろうとしている情報は前世のモノだからね。
それをどの様なマジックを使って知ったか分からないが、俺の考えを察して、防音性の道具を使う事を提案。
更に、護衛二人の懸念である、俺に危険が及ばないかという事も、考慮しての透過機能付きの道具を直ぐに取り出すとは……
中々に侮れない。
「ありがとうございます。エルドとモーリーもいいかな?」
それからアルスとエルドの間で、離れる距離をどれ程にするか。という問題でひと悶着あり、交渉の結果、エルドとモーリーはアルスから10メートルほど離れる、という意見で落ち着いた。
「もういいかな?」
フードを被った人物が声をかける。
アルスと商会の人物の間に防音道具を置き、起動。
護衛の二人は約束通り、アルスたちから10メートル程離れて交渉が始まった。
「はい、時間を取ってすいません。今回私が持ってきた、とっておきの情報なんですけど……」
アルスは凄い情報を持っているんだぞという、好戦的な視線をフードを被った人物に向け、相手を焦らす様に話を始める。
「おぉ! 初っ端かなその話を始めるんだ! それにしてもとっておきねぇー、僕を呼ぶぐらいだから凄い情報だったらいいんだけど」
僕を呼ぶくらい?
この人、もしかして地位が高いなのかな?
シングルNO.レベルの人だったら嬉しいけど。
商会でNO.1~9はシングルナンバーと呼ばれ、グレシアス廃人である俺でさえ、出会えた回数が少ないほどレアな人物たちだ。
NO.4以上は前世でさえあったことが無い、闇に包まれた人物たち。
ただ、グレシアスをプレイ中に一度だけ、偶然だが、ある人物の名前を耳にしたことがある。
「度肝を抜かすと思いますよ」
ゼンブルグ商会の頂点に君臨する者。
「ははっ! 過去にもそんな事を言って驚かせようとした客がいたけど、その人たち皆、たいしたことなかったよ? けど、君はあの人の名前を……」
その者の名は……
「ヘルウィス・ウォン・バーテン会長を知ってるぐらいだから、今回は期待してもいいかな?」
ヘルウィス・ウォン・バーテン。ゼンブルグ商会、NO.1の男。
この世界の情報の全てを知る者。通称情報王なんても言われたりする。
まぁ、俺から言わせればそんな事は絶対に無い! って言いきれるんだが、商会NO.1の人物はこの世の全ての情報を把握しているって信じる者が後を絶たないらしい。
何故そう言い切れるかって?
そうじゃなきゃ、今回俺が持ってきた情報はNO.1の男が把握してるって意味だから、売れないってことになるだろう?
それに、商会の人たちはお客から売られた情報を元に、現地に行ったりなどして、真偽を決定するんだから。
この世には絶対なんてありはしないのさ。
「これまで余程お客さんに恵まれなかったんですね」
その言葉に一瞬、フードを被った人物の動きが止まる。
「へぇ、言うじゃん。じゃあさ、賭けようか?」
「何をです?」
「僕を驚かせられるかどうかをさ」
お? 面白い展開になってきたぞ?
アルスはニヤリと口の端が吊り上がるのを我慢する。
ここでもうひとつ、スパイスを加えてみれば……
「えー。その内容の賭けだと、私に有利過ぎませんか?」
またしても、相手の動きが止まる。
「へ、へぇー。自信満々じゃん」
明らかに怒りが増してきているといった具合に、フードを被った人物は言葉をひねり出す。
あー、これ以上挑発するとかえって面倒になるか?
じゃあ、ここいらで……
そうして、アルスは相手が想像もしない、爆弾発言を投下する。
「当り前ですよ。だって……、もうすぐ王国内で大規模な戦争が勃発するって言ったら、誰もが驚くに決まってるじゃないですか」
聞く人全員が驚く情報を発する。
するとフードを被った人物はこれまで以上に長い間硬直し。
「流石に冗談がキツイよ……? 王国内で戦争が起こるだって? ここ数十年、戦争が起こっていないこの地に?」
嘘は許さないといった圧をアルスにかけながら質問する。
「本当です。何ならもっと詳細な情報を語りましょうか? もちろん別料金ですけど」
ちゃっかり料金のつり上げをしながら、アルスは涼しそうに答える。
「嘘だったらそれ相応の罰を商会が与えるのを君が知らないはずはないよね?」
アルスが肯定すると、フードを被った人物は顎に手をやり、悩んだ素振りを見せ。
「うん。買った。詳細な情報を教えて」
直ぐに答える。
「もちろん知ってます。それに……、商会を相手にするほど馬鹿じゃありませんよ」
商会と事を構えてしまったら、この先の情報戦がかなり辛くなるからそんな馬鹿な事はしない。それに、武闘派の人物達も多く所属してるからな。
こうして、アルスは戦争が始まる理由。つまり、ことの発端を話し始める。
何処から話そう。
まず、王国で一番権力を持っているのは、王であるアレクサンドラ王である。
21歳と言う若さで王に即位してから今まで大きな問題を起こすことなく、この地を統治し続けた事から民の間で善王と呼ばれている、王族だ。
そんなアレクサンドラ王だが、数年前からある病を患っているという事が、発覚した。
しかも、最近表舞台に姿を現さない事実や御年68という年齢も相まって、余命がもう長くないのではと巷で噂になっていたのだ。
実際その噂は本当で、前世の通りに行けば、アレクサンドラ王はもう間もなくこの世を去ることになる。
もしくはもう亡くなっているという可能性も考えられる。
俺はもう、アレクサンドラ王は亡くなっているだろうと予想してるけどな。
ここまではありきたりな話だ。
別に何の問題もない。
では、何が問題なのか。
「後継者を決める前に亡くなってしまう。または亡くなってしまっているのね」
「正解です」
そう。アレクサンドラ王がきちんとした手順で後継者を決定していなかった事が問題なのだ。
ここからは王が既に亡くなっているという前提で話を進める。
王が亡くなるということは、新しい王を決めなければならないという事。
しかし、前世通りに行けば、王位継承の儀式を行う前に王が亡くなってしまったため、新しい王が決定しないまま、王国が存在する事になってしまう。
そうなるとどうだろう。
後継者争いが勃発するのだ。
ただ、この出来事はある事が違っていれば起きることは無かった。
それは……、王が王位継承権第1位のシルバ王子を次の王に指名していればだった。
王は3人の女性と婚姻関係を結んでいる。第一王妃と第二王妃は他国の者で、第三王妃だけは一般市民という構成だ。そんな関係を持つ王は、その王妃たち全員と一人ずつの子供を儲けており、その子供たち全員が男の子だと言われている。そんな子供達は第一王妃の子供が王位継承1位、第二王妃の子供が王位継承2位といった具合で地位を確立していたのだが、王の突然の崩御。
すると、国としては新しい王を選出しなければいけないので、順当に行けば継承権第1位のシルバ王子が王になるはずだったが、生前、王は第2位のハルス王子を次の王にすると口約束していたらしく、王の配下たちは混乱に陥る。
そりゃそうだろう。普通ならシルバ王子が王になるのに、王はハルス王子が次の王になるんだと言っていたら。
もしかしたら、王も自身の体調が悪いのを察し、王位継承の儀を内密に進めていたのかもしれない(ゲームの説明ではそのようなモノは無かったため、ただのアルスの一考えだ)。だが、運悪く王位継承の儀式の矢先に亡くなってしまい、ハルス王子の件はあやふやに。
すると、その状態で乱入してきたのはシルバ王子。
シルバ王子はその口約束は無しだと言いつけ、王位継承権第1位である私が王になる事が相応しいと、王になることを宣言。
そんなシルバ王子に怒りを示したのがハルス王子である。
そりゃそうだろう。
ハルス王子も金や権力にがめつい男。
あともう少しで王国の最高権力が手に入ったというのに、王位継承権第1位と言う理由で王の座を取られてしまってはたまったものではない。
「こうなったらあとの展開はお分かりでしょう?」
「まぁ……、ね」
フードを被った人物は静かにアルスの話に耳を傾け続ける。
ここから戦争は秒読みだ。
順当に行けばハルス王子が王になっていたが、運命のいたずらからか、王位継承の儀式を行う前に王が亡くなってしまう。
それを良いことにシルバ王子は、その口約束は無効だと言い、王位継承権第1位である、私が継承するのが相応しいと主張するのに対し、王の指名を受けた私が王になるのが相応しいと主張するハルス王子の両者が激突し、戦争へと発展。
誰でも簡単に想像がつく。
この後は王国中を巻き込んだ権力争いの勃発だ。
王国内は陰謀渦巻く暗黒国家へと変貌し、貴族がシルバ派とハルス派と中立派に3に分かれ、シルバ派とハルス派で覇権を競い合う事になると説明するアルス。
「王の余命がもう長くないのでは? って商会のトップたちにだけ情報がまわってたんだけど、もう亡くなっているとは考えてもなかったな……。うん、一度本気で調査してみるのが良さそうだね。なんでアルス君が私たちでも知りえない情報を知っているのか不思議だけど……、これ以上は聞かないことにするよ。もしこの情報が本当だったら、1ヶ月以内に商会の者が連絡しに行くから」
「わかりました」
フードを被った人物は、じっとアルスを見つめてくる。
「あ、あの……、顔に何か付いてます?」
「ううん。……アルス君とは長い付き合いになりそうな予感がするよ……」
そりゃ、俺はこれからも商会を利用していくつもりだから、これから長い付き合いになるはずだけど。
「最後になったけどさ、自己紹介をしていいかな? 僕の名前はアイリス。これでもゼンブルグ商会No.3なんだ」
へー、NO.3か。中々やるじゃ……、え?
アルスは唖然とする。
アルスが驚きで固まっている中、アイリスは次々と話を進めていき。
「今日はこの支部に偶然、私用があってアルス君に出会えたけど」
アイリスと名乗った人物は、最後にフードをめくり、アルスにだけ本当の素顔を見せた。
き……、綺麗。
水色の髪を肩まで伸ばしており、薄く透き通った青色の目。肌は色白で陶器のように滑らかな事が容易に想像がつく。
そんなアイリスは固まったアルスを見つめると、見惚れるような笑みを残し、防音のアイテムを解除して、その場を後にしていった。
いやー、綺麗な人だったな。あれ? ってか、サラっとゼンブルグ商会No.3だって言ってなかった?
アルスは情報量の多さに頭を抱える。
前世でさえ、No.4以上の地位の人物を見た事なかったのに、リセマラ不可能なこの世界で会うことが出来るなんて……、ホント何が起きるか分からないな。しかも、綺麗だったし。
アイリスが去った方向を見つめながら、思いを巡らせていると……
トントン。
「うわぁ!」
得体の知れない肩の感触に驚くアルス。
「すいません。さっきから呼びかけても声が通じなかったので、肩を叩いてお呼びしようと思ったんですけど」
エルドが困惑しながら説明する。
「すまない。考え事をしていて気づかなかった」
「それにしてもお話、長かったですね。どんな話をしたんですか?」
「それは内緒だ」
「そんなぁ、サラ様に報告しなくちゃならないのに……」
「それは……、エルドがどうにかしてくれ」
アルスは涙目になるエルドを横目に、足早にその場を去ろうとする。
「ちょっと、待ってください!」
慌てて護衛二人はアルスを追うように、ボロ小屋から出ていくと、アルス一行はその足で屋敷へと帰還するのであった。
お読みいただきありがとうございました。
この話が面白いと感じたら、高評価等をよろしくお願いします。
では、また次回お会いしましょう。