新しい従者
皆さんどうも、ガクーンです。
今回はアルスの心の闇について少し触れてみました。
では、お楽しみください。
エバンとモーリーを見送ったアルス一行は、その後の道中は何事も問題無く、無事に屋敷の近くへと到着する。
これからエバンをどう活用していこう。まずは兵たちと一緒に訓練してもらって、その後は……
アルスは先ほど仲間にしたエバンを今後、どう育てていくかで頭がいっぱいのまま、アルスを乗せた馬車はアルザニクス家の敷地へと入って行く。
「アルス様、もうそろそろ屋敷へ到着いたします」
「あぁ、分かった」
エルドが馬車のドアをノックし、アルスへと伝える。
まもなくして屋敷の正門へ着くと、馬車が動きを止め、アルスは降りる。
「お帰りなさいませ、アルス様」
すると、見覚えのある人影がアルスを待っていた。
「セバスか……、ただいま」
アルスはセバスの出迎えに驚いたようで、少し顔を引きつらせながら答える。
屋敷の方には帰ると連絡を入れていないのに……、何故セバスはこうも正確に出迎えができるんだ?
いつもそうだ。
セバスは俺やお母様等が用事などから帰ってくる時、いたって当たり前のようにこの様に、正門の側で出迎えてくれる。
俺が覚えている範囲では、出迎えに遅れたことは無い。一度もだ。
そんなセバスに妙な違和感を抱いたアルスは、鑑定眼鏡を取り出し、セバスを鑑定しようとすると。
「アルス様。サラ様がお待ちです。お早めにお着替えのお準備を」
アルスの行動を察したかのように、背を向けながら話しかける。
もう夕食の時間か……。仕方ない、またの機会にするか。
アルスは胸元まで持ち上げた鑑定眼鏡を、再度懐にしまう。
「分かった。お母様に直ぐに行くと伝えてくれ」
「承知しました」
セバスはアルスへ返事をすると、体の向きを変え、頭を下げる。アルスはセバスを一目見て、頷くと自分の部屋へと急いだ。
~食事後~
食器などがすべて片付けられ、その場にはアルスとサラの二人だけとなった。
「アルス。今日は町へ出かけたと聞きました。楽しかったですか?」
「楽しかったです! 町の人々も優しい方たちばかりで、特にカフェでは……」
アルスは町での出来事や様子などを語っていく。
そんなアルスを微笑みながら見守るサラを見て家族の温もりを感じ。
やっぱり家族っていいものだな。
と、家族のありがたみを享受していた。
話の話題も尽き、頃合いを見計らってサラが食事をお開きにしようとした時、唐突にアルスがサラへ、エバンの事についての話を切り出した。
「お母様。今日屋敷へと帰ってくる途中である少年を保護したのですが……」
出だしが肝心だ。
ここでエバンの印象を良くして……。
「その話はセバスから聞きました。エバンと言う少年を雇いたいと」
何故お母様が?
ってか、セバスにもその話をしていないのに……
先手を取られ、内心焦るアルスを横目に、サラは話を続ける。
「アルスはその少年を従者として受け入れたいという事かしら?」
従者。主人のお供をする者。緊急事態時には主人の盾となり、命の危機から守る者でもある。
その言葉にドキッとするアルス。
本当なら会話を挟み、頃合いを見て切り出そうと考えていたんだが……、流れ的に難しそうだな。
「そうです」
アルスは観念し、答える。
「そうですか……」
返答を受け、サラは黙ってしまう。
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ
壁掛けの巨大な時計の針の進む音が室内に響き渡る中、俺は今まで体感したことないような一秒の長さを耐えていた。
アルスはその間もサラから視線は離さず、返答をじっと待つ。
すると……
「……前々からガイルにアルスへ専属の従者を付けてはどうか? と言われていたので従者を付けるというのは私も賛成です。ですが、エバンと言う少年は貴族でも何でもない、ただの平民。他の貴族からどう思われる事やら」
サラはアルスを反応を試すかのように、ゆっくりとためを作りながら話す。
やはりそこを突かれるか……
俺は事前に質問されるであろう問題点を複数個あげていたが、今回突かれたのはその中でも結構痛い部類。
間違った回答は許されないぞ……
「もちろんその事は重々承知の上です。私も貴族として生まれたからには体裁を気にすることも大事だと理解しています。ですが、危険が差し迫った時、私の身を守る従者が弱ければ意味がありません」
10歳児とは思えない、流暢な言葉づかいサラの気を引く。
「それは……、エバンが強いという意味ですか?」
「今は弱いです。ですが彼は将来、一騎当千の猛者になると信じています」
「信じているだけでは「私の名に誓えます」……」
サラはアルスがしたことの重さ。名の誓いに目を丸くする。
「その意味がどれほど重い事なのかは分かっていますね?」
「重々承知の上です」
アルスは迷いなく答える。
根拠もない事を言っているとお母様には思われる事だろう。だが、俺は鑑定眼鏡でエバンが強くなることを知っている。
そんなアルスの真剣さに飲まれたのか、サラはアルスの目をじっと見つめ、負けたと言わんばかりに苦笑する。
「本当は由緒正しき貴族の子供を従者へと仕立てあげようかと思っていましたが、アルスにはその少年の光る何かを見つけた様ですね。……分かりました。これもまた何かの縁でしょう。その少年には従者としてのマナーを学ばせるよう、セバスへ言いつけましょう。これでいいですね?」
「はい! ありがとうございます! お母様!」
よしっ!
アルスは内心盛大なガッツポーズを決めながら、年相応の笑顔を見せ、喜ぶ。
「私はたまにアルスが10歳に見えない時があります。アルスぐらいの年頃の子供はもっと遊んだり、沢山我儘を言うもの。でも、あなたはあまり我儘を言わないし、やってきた事と言えば勉強ぐらい。親として正直ちょっと心配です。無理に……、とは言わないけど、もっと私たち親を頼って頂戴」
サラは母としての本音を零し、心配そうにアルスを見る。
違うんです……
零れそうになった言葉を咄嗟に飲み込む。
本当は10歳じゃなくて、お母様よりも年上なんだと言ったらどう思われるだろうか?
もし、転生してきたことを言えば……見放されてしまうのではないか。
そんなどうしようもない考えが俺を支配する。
違う。家族と言うのはそういうモノではない。家族と言うのはもっと……
『あなたが居なければ良かったのに』
前世に言われた言葉が突然蘇る。
そうだ。これ以上は甘えられない。
俺は前世での冷めきった家族関係を思い出し、少し震える。
「お母様。私は十分お母様やお父様に愛情を注いでもらってますし、勉強も自分がしたくてやっているに過ぎません。それに、これからもっと我儘を言うつもりですので、待っていてください」
アルスはニコニコしながら答える。
弱い心に蓋をして。
そんなアルスを少し悲しそうに見ていたサラであったが、それに気づかずにアルスは笑いかける。
そんな状況を払拭するように、サラはアルスへと。
「なんだか嬉しいわ。えぇ、もっと親に迷惑をかけなさい。あなたのためなら私達は何でもするわ。でも、悪いことだけはしちゃだめよ?」
サラは一瞬、母親の顔を覗かせ、目じりに涙を浮かべながらアルスへと近づき、額へキスをする。
そして、数度言葉のやり取りをした後、その場を後にした。
「ありがとうございます、お母様」
アルスは小さな声で呟く。
これでも俺は、迷惑をかけてきたつもりだったんだけどな。
前世では嘘でも上手くいっていたとは言えない家族関係。
そんな家庭に生まれてきた俺は家族の愛に飢えていた。
それが運命のいたずらか、この世界に転生することができ、無償の愛を分け与えてくれたこっちのお母様とお父様には感謝してもしきれない。
もちろん、今の俺が一番信頼しているのはアルザニクス家の面々だ。
だが、前世の話を家族にする。つまり、前世の話をお母様とお父様にして、この関係が崩れてしまったらと考えると、この一線は触れなくていいかと自分の心に境界線を引いていた。
いいんだ。今のままでいい。
今はまだ前世の事は隠しておき、アルスはこの世界で自分の大切な者達を守っていくと改めて決意を固めたのだった。
アルスはサラと別れた後、エバンたちが到着したという知らせを受け、エバンの妹の治療をしていると伝えられた、病室へと足を運ぶ。
「やぁ、エバン。妹さんはいるかい?」
扉を開け、エバンの人影を見つけると、アルスは声をかけた。
「あっ、アルス様! この通り、アイラは治療を受けて寝ている所です。アルス様には感謝してもしきれません……」
エバンの妹はアイラと言うのか。
エバンはまた涙を滲ませ、心底安心したように話す。
エバンの隣には少し汚れてはいるが、綺麗にしたらとても可愛いと分かる少女が、一定のリズムで呼吸をしながらベットで横になっていた。
多分、薬の効果で寝ているのだろう。
そう考えたアルスはアイラには触れず、エバンへと視線を移す。
えっ、エバンってこんな顔してたのか。
さっきまでは暗がりで、エバンの顔を見ることが出来なかったが、よく見ると、エバンの顔は爽やかな青年といった様子で、かなりイケメンだった。
「それならよかった。これからなんだが、エバンにはこれからやってもらうことがたくさんある。けど、今日の所は体を休ませておくといい。あっ、もちろん衣食住はこちらが受け持つから、安心して妹さんとこの屋敷に住むといいよ」
アルスはそう言うと、「また明日ね」と声をかけて、その場を後にした。
~アルスの自室~
アルスはベットへと寝ころび、力を抜きながら目を閉じる。
今日は本当に色々な事があったな。
アルスは今日起きた事をざっと頭の中で振り返る。
それにしても、優秀な仲間をゲット出来て良かった。
エバンには色々とさせたいことはあるが、大前提として、まずは戦闘スキルを磨いてもらうとしよう。
目標としては一年以内に来るであろう戦争までには武力を80にはしておきたい。
だが、エバン一人だけで戦争イベントを乗り越えられるほど甘いイベントではない。
一人だけ強くても、戦争は一人だけで出来るものではないからな。
戦争の基本は多VS多。だからといって、エバンクラスを何十人も集めろと言っている訳では無い。そりゃ、優秀な奴を集めた部隊が一番いいに決まっているが、そこまで人材が揃う事なんて滅多にないからな。ただ、部隊を指揮する指揮官は優秀な奴を用意する必要がある。
そうなると、兵は置いといて、要となる戦闘員があと2人は欲しい。
一人は弓術のステータスが高い者。
もう一人は統率と魅力のステータスが両方とも高い者だ。
弓のステータスが高い者は、狙撃者として使う。
指揮官を狙い撃ちし、打ち取れば兵は動揺し、陣が崩れるし、陽動作戦にも大いに使える。
統率のステータスが高い者は集団の統率するのに役立つ。
もちろん、エバンはどれをとっても一流の域なのだが、私の護衛としてエバンは側に置いておきたい。
そうなると、エバンを抜いて、あと二人は強い奴が必要になる。
「他の町や王都へ行って、ステータスの高い者達をスカウトしてくる必要があるな」
アルスは一つの答えにたどり着く。
「よしっ! 次は王都にでも行ってみるか!」
目をバッと開け、ベットから飛び起き、大きな声で自身へと喝を入れる。
そして椅子に座り、羽ペンと紙を取り出すと、忘れないうちに先ほどの考えを書き出し始めた。
お読みいただきありがとうございました。
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では、また次回お会いしましょう。