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工事開始

皆さんどうも、ガクーンです。

まだまだ寒い日が続きますので体調管理にお気を付けください。

では、お楽しみください。

 屋敷に戻ってきたアルスはまたすぐに別の準備をして、屋敷近くのとある土地へとやってきていた。



「ここが……」


 見渡す限り森の中で不自然に木が切り倒された土地。



 こんな何もない土地が1ヶ月かからずにこんな場所になるのか?


 そしてアルスの手には何やら色々と書き込まれた紙があり、その紙と何もない土地とを交互に見比べる。



「アルス様。準備が整いました」


 そんな時、横からエバンの声がアルスの耳に入る。



「よし。じゃあ、始めるか」


 アルスは声を張り上げ、後ろをへと振り向き、目の前に広がる光景を確認する。



 アルスの眼前に広がるのは人、人、人……人ばかり。しかも皆、一様に動きやすそうな作業着を着ているではないか。


 そして脇には建築材と思わしき木材等の材料がちらほら。



「ようやく前へ進めるな」


 興奮を抑えられない様子のアルス。


 それもその筈。今日はアルスにとって今後の命運が分かれると言っても過言ではない重要な一日。


 エルテラ大量生産に向けての第一歩の日なのだ。



 作業員が手を止めて注目する中、アルスは臨時で用意された高台に足を踏み入れる。



 最初が肝心だ……


 一歩一歩慎重に階段を上っていき、最上段まで登り終えると、アルザニクス家次期当主として遜色のない、威厳ある顔つきで皆を見下ろす。



 ゴクッ……


 誰かが息を呑む。


 空気が張り詰め、誰一人会話をしない空間の中、アルスが口を開く。



「皆、楽にして聞いて欲しい……」


 第一声は子供らしからぬ、落ち着いた一言であった。



 口には出さないが、皆がこう思っただろう


 これが……齢10歳の話す言葉か?



 聞いていてスラスラ耳に入ってくる声に加え、強弱を巧みに操り、人の心を鷲掴みにするカリスマ力。


 こんな10歳がいてたまるかと思うと同時に、当分の間、アルザニクス家は安泰だなと皆が口を揃えて言うだろう。




「――怪我のないよう、仕事に励んでくれ。以上だ」


 そんな見事な鼓舞演説をしてのけたアルス。


 そうして静まり返った場を振り返ることなく、高台から降りていく。



 ……パチ……パチパチ。パチパチパチパチ!


 誰からともなく拍手が始まり。



「「「アルザニクス家万歳!」」」


 アルザニクス家コールが沸き起こる。

 


「ふぅー」


 高台裏に移動したアルスは人目につかない場所を選び、一人、息を吐く。



 うわー。緊張した……


 あんな大勢の前で話したのはいつぶりだろう。高校生時、以来じゃないか?


 アルスは無理やりやらされた文化祭のスピーチを思い出し、苦笑する。



 そんなアルスは内心、心臓がバクバクいっていたのを押し殺し、完璧な演説をしてのけた。


 一言一言、丁寧に丁寧に。視線は作業員へと向け、重みのある言葉をスラスラと。



 数日前に演説の原稿を作り上げ、セバスやお母様に何度もおかしな点が無いかを聞き。今日この日まで一日たりとも欠かさず、演説の練習を密かに重ねてきたかいがあったな。



 意外にも、アルスは心配性。これは前世からの事で、転生してもこれだけは治らなかったらしい。



 こうして今日一の難所を乗り越え、これからの事を考える。



 これからはたまに顔を見せて命令を与えればいいだけ。


 まぁ、命令と言っても、大体は紙で事前にどんな風に仕上げていくかは伝わっているから、顔を見せて皆に期待しているよって事を態度で示し、作業員の士気を高めようっていう意味合いの方が強いけどな。



 作業員たちはもう既に作業に取り掛かり始めたようで、アルスの言葉を受けた者達は異様な張り切りを見せて、工事に着手していく。



 これで今日の予定は終わりか。


 この工事の最初の工程でさえ1週間はかかる予定だし、働き手の寮の建設も合わせたら最低でも3週間以上はかかるだろう。


 ちゃっかり、工事の費用は全額ガイルが払う手筈となっているこの事業。


 もちろん、当初はアルスが払おうと考えていたのだが、活用していない土地を使ってくれるだけでもありがたいという事で何故かガイルが資金を用意してくれていた。



 お父様には頭どころか、もう何も上がらない。お父様、ありがとうございます。


 心の中でお礼を言うアルス。



「アルス様。お疲れ様でした」


 そこへ、セバスが訪れる。



「セバスもお疲れ様。お陰で進行がスムーズにいったよ」


「それは何よりです。この通りの手筈で進めておきますので、アルス様はどうかお屋敷でお休みください」


 事業書を手に、頭を下げるセバス。


 資金面ではガイルに助けられ、事業の進行面ではセバスに大いに助けられているアルス。



「あぁ、セバスも無理をしないように」


 ニコッと笑みを浮かべ、その場を後にしていくセバス。



 本当にセバスにも助けられた。


 前世では事業を立ち上げるという経験をしてこなかった為、手探り状態でスタートしたエルテラ生産の土台作り。


 ゲームでは事業の工程が簡略化され、誰にでも簡単に大規模でエルテラを生産できたのだったが、現実は甘くなく、工事に必要な人員。工材の準備や工程の確立等、様々な事を想定して物事を進めていかなければならなかった。


 これでは到底、戦争に間に合わないと思われた矢先、セバスが手を貸してくれて早く物事が進んだ。しかも、率先して色々と動いてくれ、今ではほとんどセバス一人でやってくれいる始末。



「……これじゃあ、俺の立つ瀬がない」


 一人その場で佇み、呟くアルス。



「そんな事はありません!」


「うわっ! え、エバン!? いつの間に?」


「先ほどからずっとアルス様の背後にいましたよ」


 いないと思っていた人物の声がして驚くアルス。



 さっき後ろを見たら誰もいなかったのに……


 最近、密かにセバスの隠密行動を習得し始めているエバン。


 

 セバス二代目にでもなったら……怖いけど便利そうだな。


 意外に悪くないと考え始める。



 いや、駄目だ! 今のままのエバンが一番。


 首を大きく左右に振り、雑念を払うと。



「ここにはもう用はない。屋敷に戻ろうか」


「今すぐ馬車の準備をします」


 今日の予定を終わらせたアルスはこのまま屋敷へと帰還するのであった。




~アルザニクス家、屋敷~


「久しぶりに時間が出来たし皆の様子でも見て来るか」


 最近は色々と予定が詰まりすぎていて、碌に仲間達を見てこれなかった。


 あれから色々あったし、まぁ無いとは思うが、俺の目が届かない所で変な事を考えられていたら今後の行動に差し支えるかもしれない。


 ゲームでは少し目を離した隙に良からぬことを考えた仲間が暴走をし始め、ゲームオーバーになったなんて事を何度も経験してきたアルス。


 

 グレシアスはどんな可能性も考慮し、ほぼ起きえないという事象でさえ虱潰しに消して、自身の安全を確保していくゲーム。



 そうだ……。いつも以上に丁寧に行動していこう。

 

 死んだらもう終わりなのだから。



 この世界がグレシアスだと分かってすぐの時は、リアルなゲームをプレイしているという感覚が残っており、心の何処かに大丈夫だろうという安易な感情があったアルス。


 しかし、今では死に際を経験したからかそんな生温い感情は既に消え失せ、直感的に一度死んだらコンテニューは出来ないだろうと感じ取っていた。



 じゃあまずは……


 こうしてアルスは懐にいつも隠し持っている鑑定眼鏡を触り、あの人物がいるであろうアルザニクス家の兵御用達の訓練場へと足を進めていくのであった。



~アルザニクス家、訓練場~



 久しぶりの空き時間という事もあり、少々ワクワク気味で訓練場へと入って行くアルス。



 汗と土が混じったような匂い。そして、剣と剣がぶつかり合う訓練場特有の音。


 決していい匂いがする訳でも無く、アルスが好む静かな場所でもない。それなのに、今のアルスにとっては何もかもが新鮮味を感じ、心地よい気分であった。


 そんな久しぶりにいい気分を味わっていると……



「ま、参りました……」


「もう終わりかい? じゃあ次! ……ほら、早くしな!」


 

 ははっ、また皆相手に暴れてるな。


 聞き馴染みのある特徴的な声。自分の武力に絶対的な自信を持ち、訓練場に居合わせている兵の中で断トツの実力を持ち合わせている女性。


 そんな彼女は訓練場のど真ん中にある戦闘スペースで屈強な男たちの膝をつかせ、新たな獲物を探し求めていた。



 うわぁ……皆もうへばってるじゃん。


 アルスの視界に映るのはまだまだ疲れを見せていない赤髪の女性が肩に剣を置き、一人勝者の様に立ち、肩で息をする兵たちが一人残らず地に倒れ込んでいる姿。


 既に訓練場内で立っている者は彼女とアルス。そして……



「アルス様」


「どうした?」


 エバンが突然話しかけてくる。



「久しぶりに彼女と……ミネルヴァさんとしてきてもよろしいでしょうか」


 いつもは滅多に笑みを表情に出さないエバンが口角を少し吊り上げている。



 ほんと分かりやすい奴だ。



 エバンは今、こう考えているだろう。今自分の本気を受け止めてくれるミネルヴァさんと本気の勝負がしたい。自分がどこまで成長したかを感じたい……と。



 エバンの視界にはもう、アルスの姿は入っていない。自身の闘志を燃やし、今か今かとアルスの返事を待っていた。


 

 いつも黙って俺についてきてくれるエバンが久しぶりに口にした願い。


 俺もエバンがどれだけ成長したか見たかったし……


 そうしてアルスはミネルヴァへと視線を向ける。



「お前ら男だろ? このぐらいで膝をついてどうするんだ」



 それにミネルヴァさんも消化不良気味でイライラしてるし……丁度いいか。


 

「よし……」


 アルスは口の端を釣り上げ。


「いいよ」


 了承する。



「っ! ありがとうございます!」


 アルスの了承を受けたエバンはものすごい勢いで頭を下げ、ミネルヴァへと歩いていく。



「はぁ。……今日はこのぐらいで終わりに」


 誰からも返答が返ってこなかったミネルヴァは静かに剣を下げ、訓練場を去ろうとしたその時。



「私がお相手になります」


「っ! その言葉を待ってたんだ! 今すぐ……え? エバン? 何でここに……」


 ミネルヴァはパッと笑みを浮かべ、振り向く。するとそこにはアルスに同行したエバンの姿が。



「今はそんな事どうでもいいじゃないですか。武器を持つ者が二人。ただそれだけで」


「……言うようになったじゃないか」


 剣を抜いたエバンを見て、ミネルヴァは捕食者の様な笑みを浮かべる。


 そしてミネルヴァも手にもつ剣をエバンへと向ける。



「じゃあ私からいく「ちょっと待ってください」……今度はなにさ」


 やる気になったミネルヴァは早くしろと視線で訴えかける。



「今日は槍でお願いします」


「槍? はっ、今日は剣相手で満足しな」


「前の私とは違うってことを証明するのでどうか」


 エバンの真剣な願い。


 そんなエバンに感じるものがあったのか、ミネルヴァはじっとエバンの目を見る。



「……手を抜いたらただじゃおかないからね」


「ありがとうございます」


 エバンの熱に負けたミネルヴァは訓練場にある武器庫へと向かう。



「……流石に聖武器は使わないか」


 一人安心した様子で呟くアルスは戦闘スペースが一望できる場所でひっそり見物を始めていた。



 エバンの発言でミネルヴァさんが聖武器を使わないか冷や冷やしてたけど、武器庫に向かったから良かった。



 アルスは簡易的なテントの横にある、ミネルヴァさんの上着であろう服の上に置いてある聖武器をチラ見する。



 これで安心して見てられ……



「アルス様!」


 突然アルスの名を呼ぶエバン。



 ……そうにはないな。


 兵たちに変な気を使わせないようにひっそりとしていたアルスだったが、エバンの呼び声で仕方なく前へと出ていく。



「なっ! あ、アルス様がお見えだと!」「まじかっ!」


 その言葉が耳に入った兵たちが動揺と同時に、酷使した体を無理に動かし、立ち上がろうとし始める。



 ほら、皆無理して俺に挨拶しようとしてるじゃん。


 しょうがない……



 アルスは深く息を吸い。



「皆、そのままでいい」


 声を大にして言葉をかける。



「っありがとうございます!」


 すると、丁度そこに居合わせたエルドが気を利かせ、座り込みながら素早く礼をする。



 おっ、エルド……ナイス!


 アルスから声がかかったものの、そのまま休んでいていいものか悩んでいた兵たちにとって、エルドからの咄嗟の礼は非常に助けとなっただろう。



「あ、ありがとうございます!」「ありがとうございます!」……


 エルドに続き、兵たちが体を下ろしながら続々と礼をする。



 その光景に頷くアルス。



「それで……一体何の用だ?」


 エバンの近くまでやってきたアルスは尋ねる。



「アルス様に合図の声掛けをしてもらいたく」


「別にアルスじゃなくても良くないか? 近くにいる誰かに……」


 ミネルヴァがそう言って誰かにやってもらおうとするが。



「アルス様が良いんです」


 エバンの意志は固く。


「……そうか」


 簡単に折れるミネルヴァ。


 

 まぁ、そのぐらいならいいか。


「よし。任せろ」



 そうしてミネルヴァとエバンの両者が位置につき、アルスが丁度真ん中へと立つ。



「二人共。絶対、大きな怪我をしないように」


「分かりました」「分かってる」


 二人は首を縦に振り、アルスはゆっくりと頷く。



 じゃあ、エバンがどれだけ成長したか……見せてもらうよ。



 アルスは二人を交互に見て、準備が完了している事を確認し。



「では……はじめ!」


 試合の火蓋を切って落とした。

 

お読みいただきありがとうございました。

この話が面白いと思って頂けたら高評価等をしていただけると嬉しいです。

では、また次回お会いしましょう。

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