久しぶりの領地
皆さんどうも、ガクーンです。
前よりも書くスピードが落ちているのは何故だろうか……
いや、気のせいだろう。そうだと願いたい……
では、お楽しみください。
「やっと帰ってこれた……!」
アルスは領地の屋敷に着いたばかりの馬車から降りると、清々しい笑顔で言い放つ。
王都を出発してから丸三日かかり、ようやく到着したアルザニクス家領地にある屋敷。
行きの時とは違い、仲間が増えたこともあって賑やかな帰り道となったが、馬車の中では特段何もすることは無く、強いて言えば、領地に帰ったら何を始めにするかを明確に順位決めしたくらい。
これでやっと、領地強化に移れる……
アルスは領地の土を踏みしめながら心の中で呟く。
長かった王都滞在。
お父様との再会から始まり、エバンとお父様の衝突やミネルヴァさんやニーナとの出会い。他にも襲撃で命の危機を脅かされた事もあったな。
そして……
アルスは漆黒の長髪を揺らし、天使のような微笑みを浮かべるアメリアの顔を頭に浮かべる。
……ああ。やっぱりこの世界に来れてよかった。
これまでの出会いや出来事を思い出し、改めてこの世界に転生できたことを感謝するアルスであった。
「アルス? 何をしているんだ?」
馬車の近くで笑みを浮かべながら、クネクネしていたアルスを見つけたキルクが声をかける。
「あ、キルク王子……」
現実に戻されたアルスは恥ずかしさと焦りを押し殺しながらキルクの名前を呼ぶ。
襲撃の際にキルクを救ってから、何かと絡まれるようになったアルス。
馬車で移動の際にも突然アルスが乗る馬車に現れ、話を長時間する事もあった。
それからだよな……
キルクはムスッとした表情を浮かべ。
「む。王子は余計だ。前みたいにキルクと呼んでくれ」
アルスを戸惑わせる。
「いや、それは……」
そうこれだ。
事あるごとに名前呼びを強要させようとしてくるキルク王子。
襲撃された時のアルスには名前を気にしている余裕はなかった。その為、半ば無意識にキルクと呼び捨てにしていたアルスであったが、平常時となれば話は変わる。
キルク王子相手に呼び捨てだと?
相手は王族。いくらアルザニクス家が高位の貴族家だとはいえ、王子であるキルクを呼び捨てになど出来る訳がない。どこに他人の目があるか分からないからな。
アルスは今一度、自身の中で呼び捨ては出来ないと判断し。
「私は貴族であり、キルク王子は王族。いくら何でも呼び捨ては……」
「……駄目か?」
くぅ……。
キルクから放たれる可愛いオーラ。
またこれだ……
そこらの女などまったく相手にならないほど、何かが完成している物凄いオーラ。
キルク王子は俺に呼び捨てをさせようとし、色々と策を練ってこれまで仕掛けてきたが、自分が劣勢だと分かるとこの様に自分の容姿を盾にして攻撃をしてくる。
アルスは咄嗟に手で自分の視界を遮り、物理的にオーラを遮断する。
「い、今は……」
あっ、やべっ。
アルスが咄嗟にかけてしまった言葉をキルクが耳にすると。
「っ! 今はって言ったな! 分かった! 次に期待している!」
目を輝かせ、言いたいことを言うと、ウキウキした足取りでその場を離れていこうとする。
そして、足を数歩、進めた時。
「あ、そう言えば……」
どうしたんだ?
アルスから離れていこうとしたキルクが突然振り向き。
「これを渡すのを忘れていた」
「これは……」
キルクの手に見えるのは紐が切れたお守りのようなもの。
それを見たアルスはなくした物が見つかった時のような表情をする。
「アルスが倒れていたその場に落ちていたものだ。もしかしたらと思って今まで持っていたのだが……」
そのお守りをキルクは大事そうにアルスへと渡す。
「キルク王子が持っていてくれたんですね。ありがとうございます」
こんな所にあったのか。
アルスは右手に嵌めた鑑定指輪を意識しながらそのお守りを握る。
名前:守りの護符(使用済み)
説明:あらゆる生命の危機から一度だけ、使用者を守ってくれるお守り。
このお守りはエッセンから貰ったものだ。
説明の通り、一度だけ生命の危機に陥った使用者を守ってくれるというチートアイテムで、使用後にはお守りの紐が切れると言った分かりやすい方法で使用済みか否かを教えてくれる。
アルスは効果を今一度読み返しながら、切れた紐の部分を注視する。
紐が切れている。効果が発動したという事だ。
アルスは背中に攻撃を受けた時の事を思い出す。
あの時の強烈な攻撃。あの攻撃は俺を死に至らしめるほどの力を有していたという事か。
攻撃を受けた部分が燃えるように熱くなり、段々と体から力が抜けていくあの感覚。
あの時に受けた痛みがぶり返す様に、背中に違和感を覚えるアルス。
ははっ。あの時の傷は完全に癒えているはずなんだけどな。
刺された傷どころか、小さな切り傷一つない、綺麗な背中。鏡で何度も確認した。
もう二度と経験したくない、死へのカウントダウン。
アルスは痛みを忘れようと、首を横にブンブン振る。
危険を冒すのはあの一回にしておこう。うん。そうしよう。
「やはりアルスのだったか! 拾っておいて良かった。……本当に良かった」
キルクは浮かべていた笑みを落ち着かせ、じっとアルスの目を見る。
「アルス」
「はい」
「私を守ってくれて本当にありがとう。アルスのお陰で今の私の命があると言ってもいい」
自分の為に貴方を救ったんだ。
アルスは目的の為にキルクを救った事に罪悪感を覚えながら。
「大袈裟です。キルク王子の頑張りが無ければあのようにはいっていなかった……」
心の底から思っている事を嘘偽りなく話していたその瞬間。
キルク王子……?
一瞬、小さく笑みを浮かべたキルクがアルスへと迫り。
「っ!」
アルスの胸に顔を埋める様に抱き着く。
な、何が起こっているんだ?
状況が理解できないアルス。
馬車の物陰に隠れるようにして二人は話していたため、周囲には見られることはないだろう。
しかし、それとこれとは話が別。
っ、この状況はまずい!
思考がフリーズしていたアルスであったが、すぐに冷静になり、キルクを引きはがそうと肩を掴むが。
「もう少しこのまま!」
「……人に見られたまずいで……」
「もう少しだけこのままで……ね?」
アルスの方が圧倒的に身長が高いため、キルクが見上げるようにアルスへと顔を向ける。
う、上目づかい!?
無意識からのキルクの精神攻撃。
破壊力が……
そ、それに……
先ほどから胸に感じる、柔らかい二つの感触。
ま、まさか。な……
それから数秒も満たなかっただろう。キルクはゆっくりとアルスから離れ。
「い、今のは忘れてくれ!」
急ぎ足でその場を離れていく。
「……はぁ。危なかった」
キルクの背中が遠ざかっていくのを確認したアルスは、小さくため息をつく。
取り合えず、小さな危機は脱し……
ドキドキ。
「うん?」
何かを感じたアルスは自身の胸に手を置く。
心拍が以上に高い。何故俺がドキドキしているんだ。相手は男だぞ……
ムニ……
男……
ムニムニ……
先ほどの感触が頭から離れないアルス。
い、一回。この事は忘れよう!
アルスは頭を横に大きく振り、冷静さを取り戻す。
俺は……いや、私は誰だ! アルザニクス家次期当主、アルス・ゼン・アルザニクスだぞ。
「ふぅ。よし!」
こうして屋敷に帰ってきて早々、ハプニングに見舞われたアルスであったが気を取り直し、屋敷へと向かうのであった。
~屋敷、アルスの自室~
バタン
「ようやく落ち着ける……」
アルスは自室の扉を閉め、机の近くにある椅子に向かうと、ゆっくりと腰を落ち着け、息を吐くように呟く。
屋敷に帰ってきてからというもの。ミネルヴァさんやニーナ。キルク王子の部屋紹介をはじめ、色々と仕事をこなした後に、皆と少し雑談を……と思い、話し込んでいたら、いつの間にか日も暮れる時間となっていた。
力を抜いてグニャグニャっと椅子に体を預けるという、貴族と思えない格好で自室にかけてある時計を見るアルス。
夕食まで、まだ時間があるな。
ダイニングルームに向かうにはまだ、時間が早いと考えたアルスは、よいしょっ。といった効果音を自分で言いながら姿勢を整えると、机に備え付けられている紙とペンを引き出しから取り出す。
これからやるべき事をもう一度確認し直すか。
こうしてアルスは考えていた事を具体的にする為、紙に走り書いていく。
まずはそうだな。領地に着いてからやろうとしていた事。
それは……資金源の拡大。
前にも話したと思うが、戦争中はいくら資金があっても足りないものだ。
湯水のように資金が消えていくし、事あるごとに金が必要となる。
アルスはグレシアスを思い出し、苦笑いする。
ともかく、資金を溜める手段を早めに確定しなければならない。
だが、残念なことに今の俺には資金源がこれといって存在しない。
その為、俺は資金源を確保するという事から行動を起こさなければならないのだ。
もちろん、資金源の当ては複数ある。
どれもこれも、戦争前に有効な資金確保手段ではあるが、一番手っ取り早く、効率的に金を稼げるのは……
アルスは深い笑みを浮かべる。
「エルテラ金策……」
エルテラ金策だ。
皆は覚えているだろうか。俺が王都にいる際にゼルフィー商会という、市民向けの商会に足を運んだ時の事を。
そこで俺は商会の主、オルトスに大量のエルテラを注文した。
その額、約聖金貨3枚。
普通に考えて、周りからは馬鹿だなと思われるだろう。
エルテラは薬草の中でも一番グレードが低く、かつこの世界であまり聞き馴染みのない物だ。そんなのを聖金貨3枚分も買うなんて、普通の人からしたら異常であり、頭がおかしい行動と捉えられても仕方ない。
そう。普通の人からしたら……だ。
皆の知っての通り、俺は普通の人じゃない。
前世、グレシアスをやり込んでいた廃人であり、この世界に転生したプレイヤー。
そのプレイヤーである俺からしたら、戦争前のエルテラは聖金貨3枚以上の価値を持つ、宝石にも勝る薬草だ。
ここからは具体的な話をしよう。
これから俺は戦争が始まるまでに、エルテラを大量に生産し、売りに出す機会を探る。
これは薬草の需要が爆上りする、戦争開始直前がいいだろう。まぁ、何か問題があり、予定が前後する事もあるが……
だが、それまでにエルテラを大量生産する下準備が必要だという事は変わりない。
ここでアルスはペンを机に置く。
そして、またもや机の引き出しから何かを取り出す。
これは地図だ。それも、アルザニクス家が持つ領地内にある、ファンザットと呼ばれる町。そう、今俺が住んでいる屋敷があるのもファンザットだ。
その町の全体図。
今俺が住んでいる屋敷があるのはこの地図で言うと、一番上の部分。アルザニクス家が持つ敷地をこの地図の大きさで表すと、5分の1を占めるほどに大きいだろう。
その下に広がるのがファンザットと呼ばれる、王国内を見ても10本の指に入るほどに大きい町。
この町は周りを広大な森が覆っており、近くに小さな湖が数個あるだけで川や海には全く面していない。
しかし、その広大な森があるお陰で、食料には恵まれ、更に町の西の方には畑などの農業地区が広がり、東にはモノづくりが盛んに行われている工業地区。中央には市民が暮らす、市民街。南の方には移民や貧困者などの者達が身を寄せ合って暮らす、治安が悪いスラム街が存在する。
ここで話は戻るが、エルテラを大量生産するにはどうしても生産者が必要。それも、大量に。
エルテラを生産するのに俺とエバン等を合わせて数人位じゃ、大量生産なんて夢のまた夢。
そうなると、俺が雇用者となり、人を雇って生産を始めるという事で一件落着かと思いきや、一般の人達を大量に雇うとなると、それなりの賃金を支払う義務が雇用者にも発生してくる。
そこで俺はどうにか支出を減らし、収入を増やそうと考えに考えた結果。
「そうだ! お金に困っている人たちを雇えばいい!」
スラム街に住む、お金に困っている者達を安いお金で雇う。という方法を考え付いたのだった。
おっと、勘違いしないでくれよ。
安いお金で雇うなんて言ったが、スラム街に住む住人のほとんどが市民街に住む人達の賃金の約10分の1以下で働かされているというのがこの町の現状。いや、この世界の現状だ。
それを俺は衣食住を提供し、一定の賃金を払う事を約束し、働いてもらおうと考えたんだ。
どうだ? いい考えだろう?
俺もエルテラが大量に生産出来て嬉しいし、働く者も明日の事を心配しなくても良くなる。
つまり、Win-Winの関係。
もちろん、何か要望があれば、その都度話を聞いて、契約に盛り込んでいくつもりだ。
アルスはひとしきり、考え事を紙に書きまとめると、ふぅっと疲れを感じさせる息を吐きだし、ペンを机に置く。
そんな訳で明日から働く者達を選定……じゃなかった。働いていただける従業員を探すべく、行動しようと思っている。
あとは、ステータスが高い者探しも並行してだな。
こうしてアルスは明日に備えて食事を済ますと、いち早く眠りにつくのだった。
お読みいただきありがとうございました。
この話が面白いと思って頂けたら、高評価等をしていただけると嬉しいです。
では、また次回お会いしましょう。




