町で最初にやることは
皆さんどうも、ガクーンです。
では、お楽しみください。
俺の屋敷は町の外れに佇んでいるのだが、そこから町の中心街まで移動するのには中々時間がかかる。
歩いていくと大体1時間ぐらいだろうか。
そのためか、護衛の二人に何度も馬車を使いましょうと提案されたが、一度は町まで自身の足で歩いていきたいと考えていたため、断って歩くことにした。
そんな考えがあだとなった。
歩いていくと時間がかかる事は前々から知っていたのだが、屋敷から町まで続く道がここまででこぼこで緩やかな斜面が続いているとは思っていなかったのだ。前世では整備された道が普通だったので、勝手にそんな道を想像していた自分にとっては、想定していたものと比較にならない程、歩きにくい道だった。
そんな事だとは露知らず、整備されていない道を10歳の体で歩いた。
これまで体を動かす事と言えば、剣術指導の時ぐらい。
それ以外ではこの世界の知識や貴族としての作法、歴史の勉強しかしてこなかった。
少しは子供らしく外に出て遊んでおけば良かったと後悔している。
ここまで来るのに大分疲れたな。
足もパンパンで、いつの間にか肩で息をするまでに体が疲労してるし……
そんな後悔をしながらも目的地へと到着。
今俺がいる場所は町の中心近くにあるカフェ。中々に洒落た店だったので、興味本位の休憩ついでにあることをしようと考え、護衛合わせての人数分の飲み物を注文していた。
「アルス様。お茶を飲みたかったのでしたら、屋敷の者がここよりも高級な茶葉でお入れしたものをご用意致しましたのに、何故わざわざこのような場所へ?」
このように俺に質問するのは護衛のエルドである。
「私は町の雰囲気を味わいながらお茶を飲みたかったのだ。別に美味しさを求めてなどいない」
本当はある目的のためにここに来たのだが……、エルドに真実は言えないので、それっぽい事を言って誤魔化す。
「はっ! 護衛でありながら押しつけがましい事を……、申し訳ありませんでした」
エルドは素早く頭を下げ、謝罪する。
「別に気にしてないさ。ただ……」
「ただ……?」
俺はちらりと護衛二人を見る。
「二人とも席に座って一緒にお茶を飲んでくれないかい? 君たちのお茶も用意してもらったのに、飲まないなんて失礼だろ? ここにはお忍びで来ているんだ。これでは目立って仕方がないよ」
二人が席に座らず、俺の後ろで立っているので、お客さんや町行く人々が俺たちに疑惑の視線を向けてくるのだ。しかも、その二人は警戒しての事か、市民の皆さんを睨みつける始末。
これじゃあ悪目立ちして、したい事も出来ない。
そんな俺の考えを知らないエルドは「護衛がありますので……」と言って立ち続けようとしていたが、どうにか説得(命令)を試み、座らせる事に成功。
やっとか……。まぁいい。これで目立つことなく目的へと行動を移すことが出来る。
今日の俺の目的。それは……
「アルス様? 眼鏡を取り出して何をするんですか?」
「いやなに、遠くが気になってな」
「はぁ……」
エルドは何するんだこいつ。と言った声を漏らしながら注意深くアルスを監視し続ける。
俺が今日したかったこと。それは……、鑑定眼鏡で町行く人たちを鑑定しようと思っていたのだ。
これぞズバリ、物量作戦。町行く人たちを片っ端から鑑定していき、俺のお眼鏡に合う、良さげな人物に声を掛けていくのだ。
グレシアス時代にもよくやってたな。
俺は元々、人の仕草や行動を観察するのが好きだった事もあり、この方法を愛用していた。
たまに大物が引っかかったりして面白いんだよな。
根気よく釣竿に獲物がかかるのを待つ、釣りが好きな人の気持ちが良く分かる。
こうして俺は鑑定眼鏡をかけ、町行く人たちの鑑定を始めたのだった。
~2時間後~
1時間が経過しても、2時間が経過しても、中々良い人材が見つからない。
「アルス様。もうそろそろ屋敷へ帰りませんか? ここへ着いてから2時間程経ちましたし……。アルス様が口を付けたそのお茶でもう3杯目ですよ? 流石に飲みすぎでは?」
そう言われ、ハッとするアルス。
俺そんなに飲んでたっけ? 集中しすぎて時間がこれほど過ぎていた事に気づかなかった。
俺が鑑定した人数、およそ60人。
久しぶりの鑑定厳選を行い、始めは人、一人のステータスを確認するのに手間取っていたが、段々と数をこなす事にスピードが上がり、一人当たりにかかる時間が減少していった。
やっぱりいい奴はいないな。良くて70(ステータスの数値)が限界。突破に至っては2回の奴すらいなかった。
時間も忘れ、厳選に没頭していた俺だったが、キリもいい時間なので、今日の所は諦めてそろそろ帰るかと思っていた時、名案が浮かぶ。
「そうだよ! 奴隷を見に行こう! ゲームでは定番じゃないか!」
俺がそう言うと、またもやハッとした。
「奴隷を見に行かれるのですか? あまり貴族の方がいかれる場所ではないのですが……、それにげーむ? とは何のことですか?」
エルドがゲームという単語に反応を示す。
また口を滑らせた……。
「一度奴隷館を視察してみたかったんだ。それと、ゲームと言うやつは、遠い昔にいた学者の名前で、ゲエムさんという人物が存在したんだ。その方が奴隷館と深い関わりがあってだな……」
またしてもひどい言い訳をする俺。
今度こそは疑われるか?
「そうなんですね。一度も聞いたことが無い名前でしたので……、自分の勉強不足です」
セーフ……。あぶねぇー。
エルドはすっかりその話を信じ込んでくれていた。
エルド、ごめんよ。転生した事はまだ知られたくないんだ。本当に悪いことをしたと思ってる。
俺は心の中で、エルドに謝る。
それからすぐにカフェを出た俺たちは、モーリーの案内のもと、この町一番の規模を持つ奴隷館へと来ていた。
「ここが奴隷館か……」
建物は白を基調としており、中々に美しい。外観だけではここが奴隷館だとは思えほどに。
俺は奴隷館の建物に見惚れている間に、モーリーが俺に一声をかけ、店内へと入って行く。
しばらくしてモーリーが出てくると、少し遅れて痩せ気味の男性が慌てた様子やってきた。
「これはこれは、アルス・ゼン・アルザニクス様。ようこそおいでくださいました。ガイル様を始め、アルザニクス家の皆様には……」
長話をするはめになるなと思った俺は。
「奴隷館というものを見学したくて参っただけですので、挨拶はもう十分です。それより、中を見せてもらえませんか?」
話を遮り、中を見せてほしいと話す。
「はい、どうぞこちらに。そうでした、私の紹介がまだでしたね。私の名前はリウスと申します。これからもどうぞよろしくお願いします」
リウスがそう言うと、俺は一言、「こちらこそ」と返し、リウスは奴隷館の中へと俺を招いた。
中も綺麗なんだな。ゲームなどでは不衛生な場所で奴隷などを押し込んでいたから、てっきりそういう感じかと想像していた。
中へ入ると俺は、不躾にその奴隷館の中で一番値段から高い順に奴隷を見せてくれと言い、鑑定眼鏡を準備する。
すると、リウスはピタッと止まり、俺を見つめる。
流石に急過ぎたか?
10歳ぐらいの若造に入店早々「高額な順から奴隷を見せろ」は、プライドに障ったかと考え、新たに言葉をかけようかと考えていたその時。
「あ……、あの。アルス様! それはもしや……、最上級の鑑定眼鏡ではないですか!?」
想定していたものと別のものに食いついて来た。
知っていたのか。前世でこの眼鏡を知っている奴はプレイヤーと一握りのNPCだけだったのだが、こいつもその中の一人だったという事か。
「えぇ、そうですが」
「とても失礼なお願いだとは分かっているのですが……、近くで見せていただくことは……」
鼻息を荒くしたリウスは俺へと近づき、鑑定眼鏡へと手を伸ばす。
それに反応したのは護衛二人。
護衛二人は俺を守るように、リウスと俺の間に割り込むように体を入れ。
「おい! そこまでの行動をアルス様は貴様に許した覚えはないぞ!」
エルドは声を荒げながらリウスを取り押さえると、地面へと押し倒し、モーリーは無言でリウスの手を掴んで引っ張り上げた。
「すっ、すいません! つい、アルス様がお掛けになっている物に興味をそそられてしまいまして……」
そんなことを言いながらリウスは一生懸命、俺に謝る。
突然の事態に唖然しながらも、リウスを開放するように説得すると、渋々二人はリウスの拘束の手を緩めた。
開放されたことに感謝をするリウスであったが、次には息をのんだ様子で俺に交渉を持ちかけてきた。
「アルス様、無礼を承知で申し上げます。そのアルス様がかけていらっしゃる眼鏡をお譲りいただけないでしょうか。お金ならいくらで「あっ、この眼鏡は絶対に譲らないから」……」
リウスが話している途中で、話を切る俺。
「そっ、そうですよね。王都のオークションでも数年に1つ程しか見かけない物ですし、もしオークションに出品されたとしても聖金貨数枚。いや、近年は全くと言っていいほど見かけないので聖金貨10枚はくだらないでしょう」
すごく気を落としながらリウスはご丁寧に説明をする。
えっ! まじ? この眼鏡そんなにするの? 聖金貨って、1枚で大金貨10枚の価値よ? そんなに高騰してるとは思ってなかったわ。
ほんと親に感謝だな。
そんなことを思っていると、ちょうどリウスの部下が奴隷たちを連れてきたので、奴隷たちの鑑定へと取りかかった。
~それから1時間後~
「はぁー」
俺は気を落としながら、奴隷館を後にしていた。
選りすぐりの奴隷たちじゃ無かったのかよ……。
俺はその場にいる奴隷はもちろん。奥にいる奴隷たちまで見て回ったのだが、お眼鏡にかなう奴隷は見つからなかった。もちろん、見た目が良い奴や、強そうな奴はいた。しかし、俺が探しているのはこれから先、共に助けあい、尚且つ未来性がある人材だ。
……、ホントにそんな奴いるのかな……
俺はエルドに用意してもらっていた馬車の中で、今日は成果なかったなと、一日を振り返り、弱気になっていた時、突然外が騒がしくなったのを感じ取った。
「ん? 盗賊か?」
エルドとモーリーのステータスは強者相手には物足りないが、そこら辺のチンピラには十分通用するレベル。心配することも無いか。
そんな事を思いながらも、やっぱり外の様子が気になり、馬車の窓を少し開けて確認すると……
「すいません! 私を雇ってもらえませんか!」
透き通った少年の声が聞こえてきたではないか。
突然の声に、一体何が起きている? と気になった俺は窓から顔を覗かせる。
すると、馬車の通る道のど真ん中に、見るからに薄汚れた洋服に身を包んだ、黒髪の少年が頭を下げながら叫んでいるのが分かった。
「おいお前! 悪いことは言わない。早くそこをどきなさい」
エルドが少年に早く退くよう注意する。
「お願いします! 妹が病気で、今すぐに大金を稼いで医者に見せる必要があるんです。何でもします! だからお願いします! 私を雇ってください!」
その真剣な様子にエルドは怒るに怒れなくなったのか、後ろを振り向き、馬車へと近づいてくると、ばっちり俺と目線が合う。
おいおい。こっちを見るな。
俺は一度は無視しようと考えたのだが、何だか少年を少し哀れに思い、馬車から降りると。
可哀想だとは思うんだけどな。この子と似た境遇の子が世の中に沢山いるだろうし、そんな子供たちを助けてあげようだなんて、聖人まがいな事は俺には出来ない。
でもな、この少年と妹、二人ぐらいなら助けてあげられるぐらいには家は裕福だし、これも何かの縁だ。一応ステータスを見るだけして、使用人として雇ってあげるぐらいなら出来なくもないかな……。
俺はそのような考えに行き着き、懐から鑑定眼鏡を取り出す。
そして、鑑定眼鏡を掛け、黒髪の少年を鑑定すると、そこには驚きの鑑定結果が待っていた。
お読みいただきありがとうございました。
この話が面白いと思って頂けたら、高評価等をしてもらえると嬉しいです。
では、また次回お会いしましょう。