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さぁ、王都へ行こう

皆さんどうも、ガクーンです。

皆さんは旅行、好きですか?

旅行好きには悪い人はいない……、と個人的に思っています。

では、お楽しみください。

 アルスたちがゼンブルグ商会から帰宅すると、直ぐにダイニングルームへと向かい、アルザニクス家恒例の食事会が始まる。


 そして、アルスはいつも通り、サラの前の席で料理を待っていると、いつもと違うサラの様子に気が付く。 


 今日の料理がいつもより豪華だな……、それにお母様もソワソワしていて落ち着きがないし……


 アルスはサラを気にしながらも、目の前にある料理を次々に口へと運んでいく。


 そして、二人の食事が終わると、サラが機会を見計らったかのように口を開く。


「アルス。今日はいいお知らせがあります」

 

「良いお知らせ……、ですか?」


 何だろう?


 でも、お母様がここまで嬉しそうにしているってことは……、まさか。


 アルスは目星が付いたとばかりに目をキラキラさせる。


「再来週に王都で王国中の貴族を招いた食事会が開かれる事になりました。その準備のためにも明日にはここを出て、王都の屋敷へと向かいます。急でしょうが、今夜中に準備を整えておいてください」


 突然の王都出発宣言。いつものアルスなら行きたくないな―と考えていたはずだが、今のアルスは違う。


 よし!


 アルスは感情を表に出すことなく、内心、特大のガッツポーズをする。



 それにしても、お母様がこれほどまでに嬉しそうにしているのは滅多にない光景だ。


 お母様が好きものと言えば、美しいモノや光景。それらには一定の喜びは示すが、目に見えてと言うほどではない。


 そんなお母様がここまで感情を表に出しているという事は……、家族の事、他ならない。



 となると、王都に行く。家族関連。ときたら、結論は一つだ。


 アルスは微笑ましそうにサラを見やる。



 お父様に久しぶりに会えるからだろうな……



 お父様が王都に出張し、はや1年。


 その間はお父様もお母様も各々の仕事等で忙しく、王都と地方(今アルスがいる場所)のアルザニクス家の屋敷は距離もある為、二人は中々会える機会が無かった。


 そんな時、年に一回あるかないかの貴族たちを招集しての食事会。もちろん二人共、仕事はまだ沢山残っているのだろう。だが、今回の食事会は名目上、貴族が果たさなければならない義務の一環として招待されている。そうなると、今ある仕事よりも優先して食事会に出なければならない。


 あの家族第一のお母様だ。結構な期間、お父様に会えないでいたから、久しぶりの再会を目の前にして、浮かれてしまうのは仕方ない事だろう。


 

 そんなアルスも、サラの事を第一に考えながらも、合法的に王都に行けるという今の状況に、内心大喜びしていた。



 そう言う俺も、王都に行きたいと思っていた。


 もちろん、お父様に会えるのは嬉しい。けど、それと同じぐらいに王都に行きたかった。


 いや、王都で開催される、大規模なオークションに行きたかったと言うのが正しいか。


 俺が参加したい王都オークションには王国中の珍品や掘り出し物等が一堂に会する。


 それこそ、日常ではお目にかかれない凄物等が王国中から集まるのだ。


 

 アルスは前世のオークション風景を思い出すと、途端に顔がにやけてきてしまう。



 まずいまずい。お母様の前でにやけるのは……


 お母様は俺の些細な変化にも感づいてしまうお人だからな。


 変に警戒されてオークションに行けないなんてことになったら目も当てられない。


 アルスの警戒虚しく、サラも同じように浮かれていたため、アルスの変化に気づくことは無かった。


「分かりました……。それでしたら、一つだけお願いがあるのですが、向こうに着いたら王都を自由に見て回ってもいいでしょうか?」


「そうね。王都に行くって事自体、あまりない機会だものね。いいわ。でも、危険な場所にだけは行っては駄目よ? あと、外を出歩く際はエバンを必ず連れて歩くこと。いいわね?」


「はい!」


 アルスは年相応に元気よく返事をすると、サラは嬉しそうに頷き、その日の食事会はお開きとなった。



~アルスの自室~

 

 良かった。これでオークションには問題なく行けそうだ。


 アルスは自分の部屋へと戻ると、すぐに明日のための支度を始める。


 そんなアルスは手だけは動かしながらも、頭だけは既に別の事を考えていた。


「何て偶然だよ! 王都に行きたいと考えていた矢先に、こんなにも早く王都へ行ける機会に恵まれるなんて……。再来週に食事会だって言ってたよな……、ということは1月の初め頃か……」


 アルスは覚えている範囲内で書き記したグレシアスの設定資料(アルスの手書き)を確認し始める。


 *グレシアスの世界は1年が12ヶ月。日数に直すと360日で、1ヶ月が30日。


「おっ! やっぱり王都最大の裏オークションが12月30日にあるな。このオークションには絶対に参加するとして、他のオークションは……」


 次々と設定資料をめくり、あるページで手が止まる。


「おっ。毎月25日に開催される奴隷オークションも参加出来るな。12月に開催されるオークションは特別規模がでかいやつだから、他の月に開催されるオークションよりも良い奴隷が出品される。これならいい仲間が見つかるかもな」


 アルスはいい時期に行けるなとルンルン気分で荷物をまとめる。



 一応言っておくが、俺は奴隷制度に忌避感は一切持ち合わせていない。


 たまに、奴隷と言っただけで口を合わせて可哀そうだとか、解放してやれだとか言う奴らがいるが、そいつらは本当に奴隷たちの現状を分かっているのか? と考えてしまう。


 奴隷と言っても、犯罪奴隷や戦争奴隷。口減らしを理由に奴隷に落ちた者等、理由は様々だ。もちろん、違法に捕まえて、売られてしまった者もいるであろう。そのような者たちまで俺がどうにかするというのは無理な話だが、奴隷の全体数を考えると、その者たちは少数派なはずだ。


 そんな奴隷たちは皆、一様に言える事がある。それは、奴隷という身分に落ちたからからこそ助かった命であるという事だ。


 先ほど挙げた者達は皆、ゆくゆくは口減らしや飢えなどで亡くなってしまう運命の者たちばかりであろう。その者たちを制限的ではあるが、主人という衣食住を用意してくれる人の元で命の保障と引き換えに自由は失うが、生きていけるならいいのではないだろうかと俺は思っている。



 アルスは、設定資料を閉じると、引き出しから新たな紙を取り出し、王都に着いてからすべき事。何をするかの優先順位を付け、次々と書きだしていく。


「でもな……、再来週に開催される食事会には行きたくない。王が亡くなっている事を知っているのは、俺とゼンブルグ商会の一握りと王の関係者ぐらいだと思うが、いつバレて大事になるか分からない。その食事会で面倒なことに巻き込まれたりしたら……、流石にそれは大丈夫か。王国各所の貴族が来る食事会だ。その分警備もしっかりしてるだろうし……、でも心配だな。用心していった方が良さそうだ……」


 グレシアスでは絶対という言葉は滅多にないため、ほんの些細な可能性すらも考慮し、行動する必要がある。


 アルスはぶつぶつと呟きながら、思った事や注意すべきことを書き出していく。



~数時間後~


 時間も忘れ、長時間机に向かっていると、その間にも時間が秒の様に過ぎていき。


「……うん? 今何時だ……、ってもうこんな時間かよ」


 気が付いた頃には、小鳥がさえずり出し始める様な時間であった。


「もう外が明るくなってきてるじゃん。寝ないと」


 いつの間にか夜が明けてきていることに気づいたアルスは、急いでベットへと潜り込み、少しでも寝る時間を確保しようと、目を閉じたのだった。




 ~王都へと出発する朝~


 朝早くからアルザニクス家の屋敷の庭には、沢山の使用人と護衛の姿があった。


 その近くには椅子に腰かけるアルスの姿もあったのだが、何故か異様に眠そうな顔をしており、しきりにウトウトしていた。


 その様子を心配したエバンが……


「アルス様。大丈夫ですか?」


 そっと近寄り、驚かさない程度の声量でアルスに声をかける。


「あぁ、大丈夫。ちょっと眠くて……。馬車の中で、もうひと眠りするから心配無用だ」


 片目をつぶりながら欠伸をするも、きちんと返答するアルス。


「道中は心配しないでください。私が怪しい者、一人たりともアルス様の馬車には近づけさせません」


 エバンは任せてくださいと言わんばかりに自分の胸を叩き、そう答える。


 今回、王都へ向かう馬車は4台あり、一番豪華な馬車がサラが乗り、二番目に豪華な馬車にはアルスが乗る。


 そして、その他の2台は使用人たちが乗る馬車である。


 何故、サラとアルスが同じ馬車に乗らなかったかというと、当初の予定では、二人は同じ馬車に乗るはずだった。しかし、アルスがどうしても一人で乗りたいとお願いしたため、サラとアルスは別々の馬車で移動することとなったのだ。


 そんなアルス曰く、何故一人で乗りたかったかというと。


『だって恥ずかしいじゃん』


 という訳であった。



 そんなアルスたちを乗せて、今回、王都へ向かうのは馬車4台と、馬車を守る護衛たち。


 その護衛たちは11人いるので、野盗相手なら十分すぎる人数。


 それに加え、エバンもいるため安心できる編成となっている。


 

 アルスがウトウトする事1時間。


 その間にも使用人たちはテキパキと王都へ出発する準備を整え、予定時間よりも早い時刻に屋敷を出ることができた。



 そんな道中は、15名ほどの野盗の襲撃が一度だけあったが、エバン一人で5名ほどの野盗を制圧し、他の護衛たちも無事に討伐に成功した。


 こちら側の被害としては、エバンにはかすり傷一つもなかったが、護衛の中で2名ほど軽度の傷を負った者がいたぐらいだった。


 それ以外では特段、出来事と言えることは何もなかった為、比較的安全な道中だった。

 



 ~屋敷を出て3日がたった頃~


「はぁ、まだかな」


 アルスは足を組みながら、窓側へと体をだらけさせ、うつろな目で外を見ていた。


 今のアルスの心中は一つ。


「……つまらん」


 つまらなかったのだ。



 屋敷を出発してすぐの頃は良かった。


 馬車から外の景色を眺めているだけでも退屈しのぎにはなったからな。



 でも、アルスが外の景色に新鮮味を感じていたのは始めだけだった。


 アルザニクス家から王都へ向かう道中の多くは森の中。


 その為、同じような景色を何度も見る羽目になり、流石のアルスでも、3日間同じ様な景色を見るのは酷であった。


「ゲームとかあればな……」


 現代人にとって、暇つぶしのお供となりえるのはゲームなどの娯楽品一択。しかし、今アルスがいる世界は現代よりも発展が遅れたグレシアス。もちろん、馬車に持ち込めるゲームと言えるものは一切なく、ゴロゴロして一日を過ごす他ない。



 そんな面白みも無い王都へ向かう道中に、アルスが唯一、心躍らせたモノがあった。


 それは、途中に寄る事になった町の景色を見る事だった。


 道中に寄った町の数、計3つ。


 その3つ全てが異なる外観や内観をしており、前世、旅行が好きだったアルスの心を躍らせた。


「あの町は良かったなー。今度、お忍びで行ってみようかな……」


 そんな意味もない事をを考えていた、その時。


 コンコン。


 馬車の扉をノックする音をアルスの耳が捉える。


「あぁ、入って……」


 アルスは無意識に返事をしようと、自身の服装を視界に入れる。すると……


 やばい! これじゃあ、貴族のかけらもないじゃないか。


 アルスは慌てて姿勢を整え、服の乱れを正し。


「どうした?」


 冷静を装い、扉の向こうにいると思われる護衛へ声を掛ける。


「アルス様。エバンです。王都が見えてきました」


「そうか! ……分かった」


 楽しみにしていた王都を目にすることが出来るという喜びから、声を上擦らせながら返事をする。


 アルスは上擦らせてしまった事を恥じながらも、自然と湧いてきたあくびをしながら馬車の窓を開ける。


 そして、窓から体を少し出して、王都がある方角を見つめるアルス。



 その方角には、壮大という言葉では言い表せないような威厳ある城門が見え隠れしていた。


「うわぁ……」


 言葉にならない感動が、心の奥から湧き出して来るのを感じるアルス。


「なんだよあのデカさ! ここからでも分かる大きさに、城門の計算され尽くした美しさを感じる……。やっぱ画面で見るのと、実際に見るのじゃ全然違うな……」


 アルスは画面越しにしか見られなかった、王都の外観である、城門を生で見れたことに感動していると。


「アルス様。おはようございます。もうすぐ王都へ到着します。王都に入る前に検問所で身元検査されると思いますので、その時またお呼びしますね」


 窓から身を乗り出しているアルスへとエバンが声をかけ、簡潔に説明する。


「あぁ、ありがとう」


 貴族らしからぬ、窓から身を乗り出して景色を堪能するという光景をエバンに見られたことに今一度恥ずかしさを覚えながらも、先ほどの感動が感情を上塗りする。


 それからは行儀よく、窓から見える景色だけを堪能しながら、程なくして検問所に到着すると、声をかけられるアルス。


「アルザニクス家の皆さんはこちらへどうぞ」


 検問所は既に長蛇の列で埋め尽くされていたが、貴族特権で、特別に早く検問してくれることとなった。


 アルスは馬車から降り、鑑定眼鏡をかけた検問所員が、護衛や使用人、一人一人に持ち物検査と鑑定をしていく。


 そして鑑定の順番がアルスへと回ってきた。


「アルス様も鑑定を……いえ、失礼しました。どうぞ先へお進みください」


 検問所員がアルスへと鑑定をしようとした時、顔を和らげ、鑑定せずにアルスを通す。



 俺には鑑定しないのか?


 アルスは不思議に思いながら後ろを振り向くと、何もされずに通されるサラの姿があった。



 ……なるほど。俺達が貴族だからか。


 小さな疑問が解決されると、もうそんな事はどうでもいいと言わんばかりにワクワクを抑えられない様子で、一歩一歩先へと歩いていくアルス。



 もうすぐだ……


 もうすぐ、あの王都の光景が……



 胸躍る感情を、必死に抑えながらゆっくりと検問所を通り過ぎ、通路を歩いていくと、段々と眩い光に包まれていくのを感じるアルス。



 眩しい。


 手で光を遮り、眩い光に順応しようと徐々に手をどけていく。



 この光の先に、夢にまで見た王都の景色がリアルで……



 数十、数百と画面越しに見た、王都の景色。


 一度でいいから生で見てみたいと何度も願った。


 だが、所詮はゲーム。そんな願いは叶わないと諦めていた人生だったが……!

 

 今、目の前にその景色が……



 ゴクッと口の中にある唾を飲み込み、意を決して目を開く。


「あ……」


 言葉にならない……


 俺には一生無縁なモノだと思っていた言葉。


「……なんて光景だ」



 人々が行き交い、声が飛び交う広場。視線を上に移すと、王都の特徴的である、レンガ造りの建物が美しく並びあっていた。


 この大通り……、知ってる。


 この建物……、知ってる。


 この光景……、知ってる。


 ただ……、匂いや感覚、雰囲気や触感。何もかもが初めて……




 込み上げてくる感情は唯々、嬉嬉。


 自然と涙まであふれ出してくる。



「あぁ、本当にこの世界に転生出来て良かった……」


 アルスは本心から思ったことをそのまま口にする。



 前世の自分は世渡りがお世辞でも上手いとは言えなかった。


 自分の思いを前に出せずに、周りの顔色を窺って、一歩下がるタイプ。


 その為、前世は我慢の連続だった。


 理不尽な目に合っても……、大変な目に合っても、ただただ我慢。


 ここをやり過ごせばいつかは良い事があると自分に言い聞かせて。



 そんな俺の人生は最後までパッとしない結末で幕を閉じたが、結果的には転生という、自分にとって最高の贈り物を貰えた。



 何故今、こんな事が脳裏をよぎったか俺には分からない。


 ただ、今はこの景色を。この時間を精一杯楽しもうと、そう強く思った。



 それから数分。


 アルスは満足するまで景色を楽しもうと意気込んでいたが、エバンが到着。


 直ぐに屋敷へと向かわなければならなかった為、エバンはアルスを馬車へ乗せようとする。が、まだまだ消化不良気味のアルスは、精一杯の駄々をこねる。


 しかし、生半可な駄々はエバンには通用せず、半ば強引に馬車に乗せられ、その場を後にしたのだった。

お読みいただきありがとうございました。

この話が面白いと思ったら、高評価等をしていただけると嬉しいです。

では、また次回にお会いできるのを楽しみにしています。

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