情報の対価
皆さんどうも、ガクーンです。
段々とエバンが成長してきて、面白くなってきましたね。
では、お楽しみください。
狭い通路をエバンが先頭に、その後をアルスが続く。
今回はやけに明るいな。
前回来た時は薄暗かった通路が、明るくなっていることに気が付くアルス。
周りを見た感じ、魔具も何も見当たらない。
魔具とは魔法道具の略で、この世界、グレシアスでは広く一般的に使われている便利道具である。それらは武器だったり装飾だったり、多岐にわたっている。また、その材料にはモンスターから取れる魔石や、鉱山などで採れる魔鉱石等が使われており、それら二つはこの世界ならではの貴重な資源となっている。
アルスは通路の壁や天井を見渡すが、それといった光源が見当たらない。
そんなアルスは周囲の明るさに目を奪われながら歩いていると、エバンが突然立ち止まる。
「どうした?」
「アルス様。前方に何者かが二名立ちふさがっています。それに……、一人はとてつもなく強いです」
エバンにそう言われ、覗き込むアルス。
どちらもフードを被っており、一人は背がとても低く、もう一人は160ない位。
一人は多分アイリスだと思うが、もう一人は……
アルスとエバンは立ち止まりながら、相手の出方を待っていると。
「アルスくーん。こっちは怪しい者じゃないからダイジョブだよー」
二人いるうちの身長が高い方の人物から声をかけられた。
この声……、前回はボイスチェンジャーのせいでアイリスの本当の声が分からなかったけど……
相手がアイリスだとあたりをつける。
ってか普通、自分で怪しくない者だよー、なんて言うか?
そんな事言う奴は大抵怪しい奴だろ。
「エバン、二人とも知ってる人だから大丈夫」
アルスは相手に少し呆れながらも、エバンを追い越して二人へと近づいていく。
「ちょっ、アルス様!」
そんなアルスの行動に慌ててエバンが追いかける。
「久しぶり、元気にしてた?」
「お久しぶりです。アイリスさん」
アルスは身長の高い方の人物へと振り向き、返答する。
「私の名前をこの場で呼んだってことは、アルス君の後ろにいる護衛君は信用できるんだね?」
アイリスはフードを脱ぎながら話す。
「はい。護衛の中で一番信用できますし、何より、これから一生私の側にいてもらう従者ですから」
そんな何気ない一言に大きく反応する者が一人。
「あっ、アルス様……。私をそこまで信頼していてくれたなんて……。こんなに嬉しかった事は生まれて初めてです!」
お、大袈裟だな……
エバンが感動して、涙を袖で拭き始める横で困った様子であたふたするアルス。
そんな二人の交互に見ていたアイリスが……
「アルス君って男の子が好きだったりする?」
アルスから距離を取り、引き気味で聞いてくる。
「そんな訳ないじゃないですか! 私が好きなのはちゃんと女性です!」
慌てて女性が好きだと訂正するアルス。
「ふーん」
「本当ですから!」
顔を赤らめたアルスはチラッともう一人のフードを被った人物に視線を送り。
「というか、さっきからそこにいる人を紹介してくれませんか? 多分私に手紙を渡してくれた女の子……、いや、女性だと思いますが」
話を逸らすために、もう一人の人物へと話題を移す。
な……、なんか。女の子って言いかけた時、物凄い圧を感じたような。
「せいかーい! もぅお兄ちゃん、私一人をのけ者にして3人で楽しんじゃってさ。私の入り込む隙無かったよ?」
そう言って、身長の低い方の人物はフードを脱ぐと、さっきカフェで手紙を渡してくれた、茶髪の少女が現れた。
「私はニーナ。よろしくね」
笑顔が似合う女の子……、改めてニーナという人物は、ぱっと見か弱い女性に見える。
けど、エバンが反応するってことは、今のエバンよりも強いんだろうな。
あまり怒らせるような事はしないでおこうと心に誓ったアルスだったが、突然ニーナが視界から消える。
「あれ? どこにいっ……!」
次の瞬間。真横に現れたニーナがサッとアルスに近づき、自身の左手を腕を絡ませてきた。
「一体何を……」
「アルス様から離れてください!」
アルスは戸惑い、エバンは突然の事に動揺するが、直ぐに我に返ったアルスはニーナを引きはがそうとする。
っ? 腕を振り払えない……
ニーナの腕を振り払おうとするアルスだったが、そのか弱い腕からは想像も絶するような、とても強い力で腕をホールドされているせいで中々ほどけない。
「ニーナさん。アルス君をからかうのは止めてあげてください」
そんなアルスがかわいそうだと感じたのか、アイリスが助け舟を出す。
すると、その声に反応したニーナはアイリスへと振り向き、ニコッと笑いかけるが、アイリスは反応を見せず。
そんなアイリスを面白く感じたのか、わざとらしく仕方ないなといった仕草をし、そっとアルスから離れて……
「もしかしてアイリスちゃん、嫉妬してる?」
アイリスへと近づき、顔を覗き込む。
「してません」
そんなニーナへと顔を合わせず言い放つ。
「してるでしょ」
「してません」
「うっそだー。だってアイリスちゃんがここまで他人に関心を持ったこと初めてじゃん」
ニーナが放った言葉で、動きが一瞬止まるアイリス。
「うそ。ほんとだったんだー」
ニーナは手で口を隠し、ニヤニヤとアイリスを見る。
「くっ……」
そんなニーナにカチンときたのか。
「アルス君。ニーナさんはこれでも商会のNO.2なんです。ですが、年齢なんて既に30近く……んんっ!?」
アイリスが何かを言おうとしたその時、ニーナがアイリスに飛び掛かり、両手を口にまわし、口を封じる。
「んんっ! ちょっ、離して……」
今……、30歳に近いって言ったか?
アルスは視線をニーナへと向け、全身を上から下まで見る。
「そっちが最初に揶揄って……、って! 何処触ってるんですか!」
二人がじゃれ合っているのを横目に、考察を進めるアルス。
どう見ても10代前半にしか見えない体つき。
身長も低いし……、何より、女性の象徴である、ある部分の発育が全くと言っても見られ……
ビクッ!
全身に悪寒が走る。
まるで、猛獣に狙われているかのような鋭い視線を感じたアルスは、そっと、その視線の主へと顔向ける。
「お兄ちゃん……どうしたのかな?」
や、やばい。
「い、いえ。何でもないです」
草食動物のように怯えるアルス。
うん……、今聞いたことは忘れよう。
そう心に誓ったアルスであった。
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「こっちこっち」
アイリスが手招きし、大きな木彫りのテーブルへと移動する。
左側にアルスとエバン。右側にアイリスとニーナが座り、今回の目的であった話の続きを再開する。
「じゃあ、本題へと入ろうか」
アイリスが本題へと移る。
「今回私達は、ゼンブルグ商会の勢力の大半を集結させて1ヶ月の間、事に及んだよ」
「アイリスちゃんや私だけじゃなくて、会長も今回の件で動員されたし、久しぶりの大仕事だったよねぇー」
ニーナがうんうん、と頷く。
「それで今回分かったことだけど、アルス君の言った通り、アレクサンドラ王はもう亡くなってた」
アイリスはトーンを下げ、深刻そうに語る。
やっぱり……、アレクサンドラ王はもう死んでたか。
アルスは驚いた素振り一つ見せず、この場で唯一この先の状況を考え始める。
そうなると戦争まであまり猶予がないな……
「そうでしたか。それで……、シルバ王子とハルス王子は王が死んだことに気づいていますか?」
アルスはアレクサンドラ王が死んでいた時の事も考え、用意していた質問をする。
「それはまだ大丈夫だと思う。この事を知っているのは王の直属の側近数人と、王妃様だけだからね」
その話を聞いてあからさまにホッとするアルス。
王の側近数人と、王妃様しか知りえない情報をどうやってアイリス達が知ったか気になるが、大事なのはそこじゃない。
王子達がこの事にまだ気が付いていない。という事が大事なのだ。
王子たちが既に王が亡くなっている事に気づいていたら、計画が一から練り直しになる所だったからな。そこは安心だ。
奇跡的に最悪の事態は免れたが、悪い状況なのは間違いない。
これからは時間との勝負だ。
アルスが顎に手をやりながら悩んでいると、その様子を注意深く伺っていたアイリスが……
「でもさ、問題はこれからだよね? 王子たちがこのことに気づいたらどうなるか。前にアルス君に聞いた時は戦争になるって言ってたけど、その根拠はどこから来てるの? まぁ、分からなくもないよ。あの兄弟は仲が悪いで有名だもんね。でも、そこまで馬鹿な二人じゃないと思うんだ」
アイリスに聞かれて慌てるアルス。
おいおい、どうする俺。
本当の事を話すか?
俺は転生して、前世の記憶があり、この世界を舞台にしたゲームと呼ばれるモノを知っていると。
だから、そのゲームで戦争が起こったからこっちの世界でも起きる……、ってか?
そんな馬鹿な話、誰が信じるって言うんだ。
転生? 前世の記憶? ゲーム?
全てを説明したとしても、到底信じられるモノじゃない。
仮にアイリスが信じたとしよう。
あまりにも俺にメリットがない。
それにまだ、アイリスを心の底から信じ切れていないしな。
頭の中で状況を整理をし、どう説明するかを考える。
今回は……、無し。本当の事は言えない。
自身の考えを決定し、意を決して口を開こうとしたアルス。
「今回は……」
するとアイリスが突然。
「無理に言わなくてもいい。会長を動かしてやっと分かった事を知ってたアルス君だもん。何か深い事情があるんだと思う。でもさ、一つだけいい? この先戦争が起こるとして、アルス君はこの先、どうしたいの?」
アルスに待ったをかける。
これからどうする……、か。
この世界がグレシアスの世界だと知ったその日から、自分がこの先どうしたいかなんて決まっている。
あの子が笑ってる未来が見たい……、家族に危機が迫らないようにしたい。
だが、それとは正反対に、ゲーム感覚で一日一日を楽しんでる自分がいるのを自覚するアルス。
前世では青春を捧げたと言っても過言ではないゲーム。
だが、所詮はただのゲームだった。
このゲームをやり込んだからって日常が変わるわけでもない。
ゲームが終われば辛い現実に押し戻されて、行きたくもない学校に行く日々。
家族や友人とも上手くいってなかった俺にとって、現実で生きるのは大変だった。
いや、死にたいと何度も考えた。
そんな時、転生という人生のターニングポイント経て、何もかもが一新した。
親は優しいし、お金にも困っていない。
人間関係だって良好だし、容姿だって良くなった。
他人から見ても勝ち組だと思われる人生を歩き始めた俺だったが、一つだけ変わっていないモノがあった。
それは心だ。
弱っちい俺の心。
傷つき、ボロボロになった俺の心だけは何一つ変わっていなかった。
人間関係に嫌気がさしていた前世とは違い、お父様やお母様。エバン等に囲まれて、充実した生活を送っているはずなのに、心のどこかでは皆を信用しきれない。
もし裏切られたらどうしよう。
本当は俺の事が嫌いなんじゃないか……、俺の弱い心は周囲を信じられないでいる。
「私は……」
言葉に詰まるアルス。
けど俺は……、皆の優しさに触れて、少しずつ心を許す様になっていた。
昔なら人の表情や仕草を見て、機嫌ばかり伺うような奴だったけど、今は面と向かって話せるようになった。
そうだ……。少しずつ変わればいい。
今まで気づかなかった一番大切な事に気が付くアルス。
あっ、そうか。俺は皆のお陰で……
先程まで重かった気持ちが、少しずつ軽くなっていくのを感じた。
アルスは顔を上げ、皆を見渡す。
そうだな……
アルスはここで、ある決心を再びする。
俺は……、この世界で俺に優しくしてくれた人たちを守りたい。
お父様とお母様を。
自分を慕ってくれる部下を。
両親が守ってきたこの領地、そして住民を。
最初に願ったあの思い。
ゲームをやっていた頃に惚れ、俺の心の支えになってくれたあの子を……
どうにかしてあげたいと願っていたあの子の未来を、悲しい未来を変えてあげたい。
だから俺は……
アルスは覚悟を持った目で、もう一度言い直す。
「自分の家族や仲間を、領地を、そして……、とある女性を守りたい。もちろん、アイリスさんもニーナさんも俺にとったら部外者でも何者でもなく、守りたい人に入っていますし、その為にも俺は強くならなくちゃいけない。でも、俺自身が強くなるのには限界があります。なので仲間を、信頼できる仲間を作り、築き上げていかなければならないと思ってます。だから……」
アルスは固い決意を抱き、アイリスやニーナ。そして、エバンへと気持ちを伝える。
「俺に力を貸してくれませんか?」
アルスの本心からの願いだった。
場に静けさが訪れる。
一秒、二秒と時間が過ぎ去る中、その沈黙を破る人物がいた。
「アルス様が私や妹を助けてくれた時から、どこまでも付いていこうと決めました。それが、どれほど険しい道のりであっても、皆がアルス様を裏切っても、私だけはずっとアルス様の味方であろうと。そう決意したのです。だからどうか、私をアルス様の剣や盾として使って下さい」
エバンは立ち上がりながら熱く答える。
その光景を見ていたアイリスが。
「私はね……、初めて君に会った時から、何故か親しみを感じてたんだ。でもさ、私達が会ってからまだ1ヶ月ぐらいだよ? 今日で会うのは2回目だしさ……。でも、君に力を貸すのは悪い気がしない。ううん。今じゃ君に力を貸してあげたいとも思ってる。だから……、何か用があったら力を貸してあげる。あっ、勘違いしないでよ? ちゃんとそれ相応の料金は貰うからね!」
アイリスは少し照れながら、でも自身の思いを答える。
そんなアイリスの発言に驚きを見せるのはニーナであった。
「アイリスちゃんがここまでデレてるの、初めて見た……」
「茶化さないでください!」
顔を真っ赤にして起こるアイリス。
「ふーん。でもそうか……、アイリスちゃんの人を見る目は商会一。うん。お兄ちゃんになら力を貸してあげてもいいのかもね」
そうしてニーナは何処からともなく短刀を取り出し、目にもとまらぬ速さで空を切る。
その光景にアルスとエバンが唖然としていると。
「これでも私は戦闘じゃ敵なしなんだよ? だから、特別にお兄ちゃんの為に一回だけ。いつ、どんな時でも、私を呼べば助けてあげる。でも、事前に連絡ぐらいは頂戴ね?」
ニーナの顔は笑っていたが、目は笑っていない。
むしろ、アルスを慎重に吟味していたようで、何かに納得するようにうんうん。と首を小さく振ると、1回だけならと言う約束で力を貸してくれることになった。
「ありがとう。みんな」
アルスは奥底から湧き上がってくるモノに少し驚きながらも、嬉しそうに答える。
それからは連絡方法や、協力の条件を決め、王都の内部情報をもう一度、皆で整理し終えると。
「じゃあ、今日はこれぐらいかな。また何かあったら連絡するよ」
アイリスはそう言いながら、アルスへ重たそうな小袋を手渡す。
これは……硬貨袋?
かなり重量がある。
アルスはその袋を受け取り、中身を確認する。
「これは……っっ! 聖金貨……、ですか?」
袋を開けると中には、信じられない量の聖金貨が詰まっており、驚きのあまり落としそうになる。
「そうだよ。アルス君の提供してくれた情報にはそれぐらいの価値がある。あっ、中身は聖金貨25枚ね」
アルスは中身の枚数を聞いてさらに驚きそうになる。
聖金貨25枚!?
まてよ……、聖金貨1枚が大金貨10枚。
大金貨1枚は金貨100枚だから……、総額、金貨25000枚!?
はははっ……、ぶっ飛んだ量だな。
アルスは驚きを通り越して呆れてしまう。
「流石アルス様です!」
そんなアルスを横目に、目をキラキラさせながら言葉をかけるエバン。
むしろこれまで以上に尊敬した眼差しである。
「大袈裟だよ……」
エバンの言葉でアルスは落ち着きを取り戻し、もう一度聖金貨へと目を向ける。そして、聖金貨の枚数をちゃんと数え、枚数があることを確認する。
「ちゃんと25枚あったよね? 今日は伝えたいこともすべてアルス君に伝えたし、情報料も払ったから、これでお開きにしようか」
「そうですね。今日は有意義な時間を過ごせました。もちろん、この聖金貨も有難く使わせていただきます」
「こっちこそ助かったよ。また何かあったら連絡頂戴ね?」
「はい、何かあったらすぐ連絡します」
そのあと、アルス達はアイリス達に再度お礼を言い、ゼンブルグ商会を後にする。
そして、大金の入った袋をエバンに託し、屋敷へと帰っていったのだった。
お読みいただきありがとうございました。
この話が面白いと思ったら、高評価等をしていただけると嬉しいです。
では、また次回お会いしましょう。




