街のヒール(悪党)をヒール(物理)する
俺とラァムが声のする方に目を向ける。
すると雑木林からへらへらと笑いながら、大人の男が四人現れた。
その態度からは明確な悪意が見てとれる。
「野盗……じゃないよな。俺達が冒険者なのを知ってるってことは、あんたらも冒険者か? ギルドでは見かけなかったが」
「そうだよぉ? 先輩冒険者だよ新人くぅん」
察しはついていたが、あえて訊ねた。
「……何の用だ?」
「いやねぇ? 初めてのクエストをこなして来たんだろぉ? クエストには危険がつきものなんだが、いまいちその辺りをわかってなさそうな面をしてるからさぁ? 先輩として指導をしなくっちゃなぁと思ってさぁ?」
やはり、新人潰しで間違いないようだ。
エナスカのギルドは国営のため報酬が比較的余所よりも高い。
登録者が増えることで受注可能なクエストが減ることを嫌い、こういうことをやるような輩も居るのだろう。
ここで、これまで黙っていたラァムが口を開いた。
「……四人ですか」
「んん? 四人じゃ物足りないかいお嬢ちゃぁん? お盛んだねぇ?」
「いいえ、過剰な戦力です。一人でも充分、彼を倒せるでしょう」
「ちょっ!? なんで俺だけ!?」
ゲスびた声で荒くれが笑う。
「ひゃっひゃっひゃ! 坊ちゃんだけじゃなくてお嬢ちゃんにも痛い目を見て貰うに決まってるだろぉ?」
「……ならば四人程度では到底足りないと思い知ることになるでしょう」
「ヒーラーごときに何ができるっていうんだぁ?」
「あなた方はヒールがなんたるかを理解できていないようですね。ならば体でわかって貰いましょう」
「きゃーっ!? 回復されちゃうわぁっ!?」
「ガハハ!」と、荒くれ達は笑い転げた。
「大抵がまともな攻撃手段も持ってねぇヒール係なんか恐くねぇんだよぉ? てめぇをヒールすることになるだろうぜぇ? アヒャヒャ!」
「笑っていられるのも今の内です」
一切臆することなく、ラァムが荒くれ達に向かって突進する。
「速いっ!?」
すぐにナイフ、マチェーテ、ハンドアックスをそれぞれ構えた荒くれ達が、返り討ちにしようと逆に仕掛けた。
しかしラァムは――。
「遅いですね」
難無くそれらの斬撃を回避。
そして「ヒール!」と唱える――と同時に荒くれの一人を殴り飛ばした。
ガッ!
「ヒール!」
胴回し回転蹴りが、また一人の荒くれの側頭部に直撃。
ゴッ!
人形のように吹き飛んでいく。
「ヒール!」
ボゴォッ!
「グェェェッ!?」
三人目はみぞおちに猛烈なアッパーを貰い、胃の内容物を吐き出し、そこへ顔から突っ込んでいった。
この惨劇を見た荒くれ最後の一人、リーダー格の男は言う。
「――ってどこがヒールだよぉ!? ヒールって言いながらむしろ殴って怪我させてんじゃねぇかぁ!?」
「クズを倒し、世の平和と民度を治癒しているのですが?」
「そんな――オゴォッ!?」
「ヒール!」
「殴ってから……唱えるパターン……」
バタリと、最後の一人も土を噛んだ。
こうしてあっけなく、ラァムはたった一人で四人もの荒くれ先輩冒険者を撃退してしまう。
それも一人につきたったの一撃でだ。
ステータスが高いことはわかってたけど、ここまで強かったのか……。
「ヒールってすげぇ……とはならないからな!? ただのパワーのゴリ押しだし! むしろやり過ぎてお前がヒール(悪役)に見えてきたよラァム……」
「なんでですか、治安を回復したのに」
「でもステータスだけで言えばB級冒険者ってだけはあるな……。さすがの実力だよ」
「それほどでもありませんよ。この程度でしたらオムレツ分の腹ごなしにもなりません」
「そ、そうか……。本当に強いんだな……」
同時に俺はこうも思った。
……情けないな、女の子のラァムに助けられてばかりで……。