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受付嬢に憧れていた、そんな時期もありました

……そんなバカな。

 あまりにもあまりにもな事態を前に俺の思考は停止し、フリーズしてしまった。

 そして受付嬢との間に微妙な空気が流れる。

 だがそこは彼女もプロ。

 次の瞬間には何事も無かったかのよう、一枚の紙を取り出しながら業務を再開した。

「それではこちらの用紙の種族欄にご自身の種族を書いて下さい。ペンはそちらです」

「わかりました。……人と」

「申し訳ありませんが、書き直して下さい」

「えっなんで? あっ、人間って書かなきゃダメでした?」

「クソザコゴブリンの間違いですよね?」

「人間だって失礼だな!? 見たらわかるでしょ!? ってかクソザコってなんですか!? 重ねて失礼だなこの受付嬢!」

「失礼しました。ザコ過ぎて同じ人間だと思われたくなかったもので」

「なんなんだこの人……」

 どうしよう、なんか色々思ってたのと違う……。

 むしろ全部違う……。

 怒りを通り越し、もうなんか悲しくなってきた……。

 俺の憧れは、冒険が始まる前から終わりを告げそうになる。

 もはや隠そうともせず、こちらを舐めきった態度で受付嬢は続けた。

「ではこちらの氏名の欄に――」

「はいはい、名前を書けばいいんですね。レット・ハンドーと」

「ミドルネームをお書き下さい」

「ねーよ!? なぜミドルネーム!? 誰しもが持ってる訳じゃないでしょ!?」

「はあ……ミドルネームも無いとは下等な」

「ギルドへ冒険者登録に来るようなヤツは大抵持ってないでしょ!?」

「……では最後にロール欄をお書き下さい」

「無視かよ……。まあいいや、剣士……と」

「はい、登録完了しました」

「なんだ、ちゃんとやることやってくれて――」

 そう思ったのも束の間。

 受付嬢が告げる。

「これであなたは今から私の奴隷です」

「奴隷契約の登録をした覚えはないが!? ――いやよく見たらちっちゃく奴隷契約書って書いてあるのな!? ちゃんと冒険者登録をしろ!」

「チッ」

「舌打ち!?」

「……元気に突っ込むザコですね」

「心の声の方が漏れ出てますよ!?」

「漏れているのではなく、わざと出しているのです。本当の声です」

「余計に質が悪い!?」

 心底嫌そうに、今度こそ受付嬢が言った。

「では改めまして……。おめでとうございます、これでGランク冒険者への登録が完了しました。ただ今からあなたは……立派……なギルドの冒険者です」

「なんで立派のところだけ小声なんですか!? ってうかちょっと待って下さい! ランクはFまでしかないんじゃないの!? Gなんて初耳なんですが!?」

「……失礼しました。Fランクに収まりきらないほど弱いとはいえ、Gなんてランクありませんでしたね。ですがこの機会に新設することを、国に嘆願してみます」

「それはもう勝手にして下さいよ!?……あとパーティを組みたいんですけど、マッチングとかもやってますか? それと、自分でギルドに居る冒険者に声をかけてもいいですか?」

「マッチングもやっておりますしご自身で冒険者を誘うことも問題ありませんが、レットさんの場合どちらもお薦めしませんね」

「はあ? どうしてそんなことを受付嬢のあなたに言われなきゃならないんですか。なんのためにギルドに来てると思ってるんですか。ソロでやれってことですか?」

「落ち着いて下さい、ちゃんと理由はあります。まず一つは今このギルドのまともな冒険者の多くが出払っていること。……魔王復活の兆候によりモンスターが活性化していることはご存じですか?」

「まあ、ここまで来る間に聞いたことくらいは。物騒ですよね」

「ええ、本当に物騒な世の中です。最近ではミズラ教の大聖堂が王牙(オーガ)達の襲撃を受け、その後大聖女レイン様までもが行方不明になったとか」

 ミズラ教とはこの世界最大の信者数を誇る、昼神アメンテラースを最高神と崇める宗教である。

 そんなミズラ教に数百年ぶりの大聖女が現れたと巷で話題になっていたことならば俺も知っていたが、この話は知らなかった。

「へえ、ミズラ教の大聖女が行方不明って話は初耳ですね」

「とにかくです。このモンスターの活性化に伴い、長期に渡る割りのいい大規模クエストの募集があったばかりで、皆ギルドから出払ってしまったんですよ」

「なるほど」

「そして理由の二つ目として、あなたが弱すぎることが挙げられます」

「やっぱりディスりたいだけでしょ!?」

「聞いて下さい。あなたのようなザコと望んでパーティを組みたがる冒険者が居ると思いますか? もし居るのならあり得ない程の善人か、あなたをモンスターの注意(ヘイト)を引きつける係やポーター代わりにしたり、重労働をさせたり、そうでなくとも悪いことに利用しようとする、まともではない者でしょう」

「言い方!?」

「あなたが悪人と善人、そのどちらと一緒になる確率が高いかは、ザコでもバカでない限りはわかりますよね? わかったのでしたら、大人しく一人でもこなせるクエストを探すことですね」

「……よくわかりました。じゃあ早速クエストを受けたいんですけど、どうすれば?」

「クエスト掲示板はそちらにありますが見えないのですか? 眼医者の案内は職務に含まれていないのですが」

「見えるって!? じゃあ勝手に掲示板見ますよ!」

「ご自身のランクに見合ったクエストを受注することができます。クエストを受ける際はこちらで申告をお願いしますね。……もっとも、あなたに見合ったクソザコクエストなど存在しませんが」

「最後の最後まで失礼だな……子供だと思って……!?」

「子供ではなく、ザコだから舐めているのです」

「今のは一人言だから!? もう黙ってて下さいよ!」

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