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クソザコスライム級冒険者

 昔から見る夢がある。

 それは美しい女の人から、名前を呼ばれるというものだ。

 ただしその人の頭には、二本の角が生えていた。

 彼女はとてもいとおしそうに囁く。

「リオ……ルト……」

 その全てが聞こえる訳ではない。

 それに俺の名でも無いが、夢の中では自分のものとして自然と受け入れていた。

 懐かしさと、温かさと、親しみすらも感じてしまう。

 俺も彼女の名を呼ぶ。

「××××××」



「おーい坊主、そろそろ起きろー」

「ん、んん……。あれ? ここは? ……あ、そうか」

 旅の途中出会った優しい商人のおじさんの荷馬車に、好意で乗せて貰ってたんだっけ。

 揺れが心地よくて、いつの間にか荷物と共にウトウトしてしまっていたようだ。

 おじさんはなおも馭者台から語りかけてきた。

「ほれ、寝ぼけてねぇで見てみろ。目的地に到着したぞ」

「おお! これが……」

「ありがとうございました」と礼を言い、俺は堪らずに駆け出していく。

 イド王都エナスカ。

 イド城の城門前噴水へ続く五本の大通りの一つに、そのギルドはあった。

 中に酒場も入った、立派な石造りの建物。

 ギルドで冒険者登録が可能となる十六歳になったばかりの俺、レット・ハンドーは故郷から遙々、最高の冒険者になるという希望を抱きここまでやってきたのだ。

 ここから冒険が始まるんだ……。

 意を決し、入り口の扉をおもむろに押し開く。

「うわぁ……」

 照明が灯りながらも、日中だというのにどこか薄暗い室内。

 昼から酒を飲む、猿の獣人らしき中年冒険者。

 部屋の隅に佇む、妖しくも美しいライラック色の髪がミステリアスな美人冒険者。

 クエスト掲示板を食い入るように眺める、白い犬獣人の少女。

 そして綺麗な受付嬢。

 ここには俺が憧れ、思い描いてきたギルドの全てがあった。

 口元が弛みそうになるのとワクワクをどうにか抑えながら受付に向かう。

 するとにこりと笑みを浮かべながら、受付嬢が話し掛けてきた。

「ようこそエナスカのギルドへ。本日はどのようなご用でしょうか?」

「あの……冒険者になりたくて来ました!」

「かしこまりました。冒険者にはランクがありますが、一番下のFランクへの登録でよろしいですね?」

「えっ、いや」

「どうかされましたか?」

「クワイ地方を通ってからここへ来る道中、山のカルデラ湖に巣くっていたドラゴンを倒したんですけど、それでもFランクからでないといけませんか? ドラゴンって結構高ランクだと思うんですけど……」

 ……なぜだろうか。

 そう伝えると、受付嬢がみるみる怪訝な表情を浮かべる。

「……あの山頂湖辺りに居るドラゴンといえば、かの悪名高い死の呪いをもたらすカースドラゴンだけです。まずソロでは倒せないでしょう。それにカースドラゴンを倒せば、その者は呪いで死ぬはずですし……」

「えっ」

 ここで明確に受付嬢の態度が変わった。

「はああああ」

 いやそんなでかい溜息つかなくても……。

「稀に居るんですよねぇ。最初からかましてくる困った方が……」

「い、いやいや、嘘じゃないですよ!? 細かいドラゴンの種類とかはわからないけど本当に倒したんですって!?」

「ではそれが嘘ではないことを証明するためにも、次はステータスを見せて貰いましょうか。はいこちらの水晶玉に手を置いて下さい」

 おざなり感を隠すことなく水晶を差し出す受付嬢。

 俺はムッとしながらもこれで実力を証明できるならと、言われた通りに手を置いた。

 すると水晶玉の中にルーン文字が現れ、それを見た受付嬢が驚きから声を荒らげる。

「こ、これはっ!? こんな数値、見たことがありませんっ!」

 俺は「ふふん」と鼻息も荒く、得意気に言ってやった。

「だから言っじゃないですか。……びっくりしました?」

「え、ええ、驚きました……。これはドラゴンどころか……」

「うんうん」

「スライム……いえ、ミミズも倒せるかわからないほど弱いですね……」

「えっ」

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