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祇園の雪と夏雪葛(なつゆきかずら)  作者: カズ ナガサワ
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第一話 縦の糸の縁

第一話 縦糸の縁


《京都河原町の路地》

〜〜男性靴の音(不規則にゆっくり歩く)〜〜


・ナレーション

 『はると』は、京都を出張で訪れていた。

 相手企業との商談が早く終わったので、河原町あたりを散策してから、前から行きたいと思っていたところに、足を運ぶつもりだった。

 ところが、本社との連絡で自分の携帯を使い過ぎて、電源が切れかかっていることを、気付いていなかったのである。

 そこに偶然、稽古帰りの芸鼓『結芽乃ゆめの』が通りかかった。



はると「あっ!さっき検索した地図が出てこない。やばい…、皆んな同じ街並みに見える。まいったな!

すみません、道に迷ったみたいで、川はどっちですか?」

結芽乃「かわは、右行けば全部かわですよって、どちらにいかはるんどすか?」

はると「あっ、いえ、時間ができたので、この辺りを散策してまして。予約していたお店の名前を思い出せなくなって!」

結芽乃「それやったら、お店の名前を調べたら、よろしおすえ!」

はると「そうですね。でも、店の名前が間違っているかもしれませんし、川沿いにあるらしいので!」

結芽乃「ほな、あそこを右、突き当りを左、直ぐの角を、ずっと右に行かはったら、土手が見えますよって!」

はると「ありがとうございます!」

結芽乃「変わったお人やな、自分の携帯みよったら分かるやろぅに??」


《土手の手前》

〜〜男性の靴音(歩きから駆け足に)〜〜


はると「あった!、よかった〜。あの店だ…写真と同じ入口、なんとか間に合った!……あの〜、、すみませーん!」

若女将「はーい、おいでやす!」




《店の裏手》

〜〜裏戸を開ける音〜〜


結芽乃「ごめんやす。結芽乃どす。」

若女将「あー、ゆめちゃん、急にごめんね!」

結芽乃「いいえ!ちょうどお稽古の合い間どすよって!」

若女将「ありがとう。お客様は、うちのお母さんの知り合い、言いますよって、お断りせんで、何とか出来んかとおもたんよ。間に合ってよかったわ~」

結芽乃「ほな、さっそく!」

若女将「雪葛ゆきかずらにお通ししてます。なんでも、ここも、お茶屋も初めてって言われてましてな!」

結芽乃「そうどすか!」


《店の中》

〜〜ゆっくり階段を上がる音〜〜


結芽乃「きゃっ!!……」

はると「すっ、すみません。誰か上がって来たかと思って!」

結芽乃「いきなり、ふすまから人が出てきはって、どない、されましたんえ?」

はると「携帯の充電器を、借りようかと…!」

結芽乃「あっ、さっきの方!」

はると「あー、先ほどの芸鼓さん!」

結芽乃「そうどしたんか(笑)、偶然やけど、まさか、どすな。携帯が使えんかったんどすね!」

はると「えっ、ええ!そうなんです。やっぱり、変なやつだと思いましたか?」

結芽乃「しょうじき言うたら、そのとおりどす。でも、ほんまに焦らはりましたやろ(笑)」

はると「はい!予約の時間に間に合わないかと思って。お店の名前もうる覚えでしたし。それに無理に予約をお願いしたもので、もう…はい!」

結芽乃「あっ、携帯は何をつこてはりますのんか?」

はると「アンドロイドです。これなんですが!」

結芽乃「あれ、うちのと同じどすな。下に置いてますよって、よかったら充電器!」

はると「あっ、助かります!」



《雪葛の間》

〜〜襖を閉める音〜〜


結芽乃「ほな、あらためまして、結芽乃と申します。どうぞ、ごひいきにお願いいたします。」

はると「長崎はると、と申します。こちらこそ宜しくお願い致します。それに充電器も!」

結芽乃「かましまへん!、ご縁あって充電器をお貸しできますよって!、京都へは、何度かおこしにならはりましたんどすか?」

はると「いえ、2回目ですが、その内の1回は中学の修学旅行です。」

結芽乃「そうではりましたか〜、ほな、今回はお休みを取られて?」

はると「いえ、出張でこちらに。でも先方さんに直ぐに契約書にサインしていただいて、今日の視察がキャンセルになりました。その結果を上に伝えたら、お手柄ついでに、観光でもして来いとかで!」

結芽乃「そうどしたか。御社の上の方も、いきなはからいどすなぁー」

はると「ええ、まあ!」

結芽乃「ご商談成立、おめでとうございます。なにかお口にされはりますか?お飲物でも、、」

はると「あっ、僕はお酒が飲めないんです!」

結芽乃「そうどしたか。ほな、お食事は?」

はると「いえ、あなたをお呼びするだけで、僕は十分です。あっ、またこんな言い方すると、変なやつだと思われますね!」

結芽乃「ほんまどすな(笑)、どうか緊張されておられますのんやったら、ゆっくり、コーヒーでもいかがどすか?、こちらのお姉さんのコーヒーは、おいしおすえ!」

はると「じゃあ、お願いします。」



《コーヒーが来て》

ふすまを開けて、コーヒーを置く音〜


はると「一人分しかない!」

結芽乃「はい、一人分どすえ!」

はると「あなたの分を、頼めばよかったな!」

結芽乃「かましまへんよって!ほな、お歌でもうたいましょうか?」

はると「あっ、はい!お願いします。」


〜〜祇園小唄〜〜

結芽乃「お粗末さまどした。」


はると「素敵です!、ほんと、引き込まれますね!」

結芽乃「おおきに!」

はると「やっぱり、思い切って来てよかった!」

結芽乃「うちも正直、若い方がお一人で、おこしにならはりましたやろ。どうおもてなししたらええかと、そな思てましたんどす!」

はると「そうですよね。解ります。実は、僕の父はここの女将さんと知り合いでして、同郷のよしみで何度か、こちらにお邪魔じゃましてるみたいで!」

結芽乃「もしや、新潟の長岡であらはりますのんか!」

はると「はい、そうです。どうして!?」

結芽乃「うちも、長岡どす。実は、ここのお母さん、いえ、女将さんとうちの母親は姉妹きょうだいどして、ご縁あって、うちがお仕事させていただいておりますのんえ!」

はると「もしかして、小栗さん、ですか?」

結芽乃「はい、そうどす!」

はると「じゃあ、うちの父と結芽乃さんのお母様とは、中学の同級生ですか!…ええぇ、こんなことってあるんですね!」

結芽乃「ほんまどすなー。うちの母は、二人姉妹の妹でしたが、長岡の家を継いだんどす。伯母おばは、いつもすまない言うてましたわ!なんやら、当時、母に好きな人がおりましたんどすって。あっ、すみませんどした。お座敷いうのんを、すっかり忘れてました!」

はると「それ、たぶん、うちの父のことだと思います。前に父から、初恋の人のことを、小栗さんのお母様のお名前を、チラッと聞いたことがあります。東京の仕事を選ぶか、長岡の彼女のことを選ぶか、かなり迷ってたみたいですね!」

結芽乃「うちの母親は、そのことは言ってませんでしたが、この前急に電話が掛かって来て、長々と恋愛話しを聞かされましたんどす。素敵な純愛ドラマみたいどしたえ!(笑)」

はると「ほんとですか?これって、偶然ですかね?あなたと、こんなふうに出会うなんて!」

結芽乃「お父様は、お元気どすか?」

はると「ええ、まあーなんとか!」

結芽乃「長岡のうちの母親は、仕事の関係で一度体調を崩しとって、元気ありませんよって、ときどき私と伯母おばが長岡に帰ります。いまは、伯母おばがむこうに行っとります!」

はると「父は本当に、お母様のことが好きだったみたいで、初恋は結ばれないから思い続けるとか。ついには、お前の初恋の話をしろとか言ってました!」

結芽乃「ほんまどすか?今度、長岡に帰ったら母に言っておきます。少しは元気戻ると思ういますよって!」

はると「そうして下さい。お願いします!」

結芽乃「こちらこそ、よろしゅうに!」

はると「僕は、前は父のことがあまり好きになれなかったんです。仕事も趣味も何でも人一倍できて、拘って、ガツガツやってる父のことが!、ところが恋愛話しになると、小栗さんとの思い出ばっかり繰り返して!」

結芽乃「うちの母は、確か会社勤めをしとった頃に、東京で働いてるはずの方が、仕事を休んで何度も会いに来られた言うて、自慢じまんしてましたんえ!」

はると「あっ、さっきから気になってたんですが、結芽乃さんの髪飾り?!」

結芽乃「これどすか?、これは夏雪葛なつゆきかずらいいます!小枝に雪が付いたみたいでしゃろ。でも、この花の咲く時季は冬と違います。あら、ここの床の間に、本物が生けてありますがな!」

はると「綺麗な白だ!、この部屋の名前と、生け花を掛けてもてなすなんて、粋な心遣いだなー!僕も今度、父の田舎に行ってみます。できれば雪の時季にでも!」

結芽乃「でも…、雪と、夏雪葛なつゆきかずらは!」

はると「そろそろ時間ですね。ほんと、たのしかった!、、充電器ありがとうございました。」

結芽乃「うちこそ、おおきに!」


〜〜ふすまを開け、二人が階段を降りる音〜〜



《店の玄関》

若女将「お車が、お待ちしております!」

はると「結芽乃さん。あっいえ、小栗さん。雪と夏雪葛は会えるでしょうか?」

結芽乃「会えたら、ほんまによろしおすな!うちも長岡に帰りとうなりましたわ!」

はると「はい、、それじゃ、また!」

結芽乃「お気をつけて!」



〜〜タクシーのドアが閉まり、車が出る音〜〜


若女将「ゆめちゃん、ごめんね!コーヒー、二つにすればよかったわー。なんやら、たのしそうで、知り合いの方とお話ししてるみたいで、じゃませんようにと思てたら、一つにしてしもて、気づかんかったわ!」

結芽乃「そやね!うちもおつとめ言うのんを忘れてました。不思議な人やわ。こちらさんに来る前に、途中で道きかれて!」

若女将「偶然おうたん?、ほんまに?!」

結芽乃「それも、あの方の携帯が電池切れて、ここの名前も行き方も、分からんようになっておられたらしいんどす!」

若女将「なんやら、二人がもし途中で会わんかったら、ゆめちゃんと、こんな話ししてませんな!」

結芽乃「それも、あのお方のお父様と、長岡のうちの母親は、初恋の相手やった言うて。そんな話し、ある意味、羨ましすぎて!」

若女将「ゆめちゃんも、そこそこ色白で美人やから、期待できるんやない?!」

結芽乃「もう、冗談いわんといてよ!」

若女将「あの方、よく見ると、なかなかのイケメンやし、ここのお店に来られたんは、なんかの縁があるんと思うてな!」

結芽乃「ほな、そろそろ戻るわ。お母さんから連絡あったら、長崎さんの息子さんとお相手したと。あっ、お姉さん、どうせイケメンやったて、言うんでしょう!」

若女将「そうそう。あんたも、おきばりや!」



・ナレーション

 暫くして店に、はるとからお礼の手紙が届いた。

その中に、結芽乃への感謝の気持ちと、ついつい話しに夢中になり、雪葛の部屋から川の景色を見忘れたので、今度は是非一緒に見たいと添えてあった。



〜〜おわり〜〜


     作者 Kazu. Nagasawa

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