ロゼレッタのお買い物
武器屋に入ると手前にカウンターがあり、店内は意外と狭い。奥には広い工房があるようだ。
カウンターの奥には剣や防具等飾ってあり、基本はオーダーメイドだが、既製品も若干あるらしい。
「女性なら護身用の剣を持つことがあるからね。」
でもロゼはまだ訓練をしていないから、もう少し大きくなったら買いに来よう、と甘やかすようにロゼの髪を撫でる。
「では、体力をつけるためにも体調が戻ったら剣術を習いたいですわ!」
お父様は、少し不思議そうに私を見つめる……
「…ロゼがそうしたいなら……」
あら?……ちょっと以前のロゼとは違い過ぎる発言だったかしら?
……不審がられてはいけない……
でも、私は以前のロゼを知らないからな〜
意外と知らない人の身代わりをするのは大変ですのね?
アンジェだった頃は、私の両親は跡継ぎの弟を可愛がっていたけど、私に無関心だったから……でもミシェルお父様は、本当にロゼを大事に愛して居たんだな〜
ちょっとロゼが羨ましい……でもこれからは私が彼女の分までしっかりお父様を支えていきますわ!
さて、私、侯爵令嬢アンジェだった頃は、護身のための剣術も習っていた。身体を動かすのは好きだったし、中々の腕前だったと自負している。
剣術を習うのは密かな楽しみでもあった。
ロゼとして生きる上でも剣術は役に立つと思う……なので、お父様にお願いしましょう!
「ロゼが剣術に興味があったなんて、意外だな。……騎士に憧れているっていっていたのは…ロゼが騎士になりたいということかい?」
「騎士様への憧れはなんとなくありますが……。騎士に成れるとは思えませんし…でも護身術くらいは身に付けたいですわ。」
勿論、麗しいお父様を守れる位強くはなるつもり!
敵からもご婦人達からも守らなければ!!
お父様は、ロゼがやりたいなら…、怪我には気をつけるようにと言い、剣術の先生も付けてくれることを約束してくれた。
お店から出て再びお祭りの露店を眺めつつ、大通りにあるブティックにやって来た。
小さなお店だが、高級感のある店内には数組の御令嬢達が買い物をしている。
ロゼ達が店内に入ると店員がやってきて、子供服のサンプルがある部屋へ案内された。
「お美しいお嬢様ですわ!」
店員が私を褒めつつ、店長を呼ぶのでソファで待つよう促す。
お父様がありがとうと店員に微笑むとそこに居た店員は顔を赤らめ退室する。
……はぁ〜お父様は誰にでもお優しいし、イケメン過ぎます!
程なくしてお店のマダムが現れた。40半ばの大柄で愛想の良い明るい女性だった。
「まぁまぁ!なんて可憐なお嬢様でしょう!こちらへいらしてください…どんなドレスに致しましょう?!」
こんな美しいお嬢様を着飾れるなんて!と目を見開く。
ちょっと大袈裟なくらい褒められ、ロゼは照れながらも自分の好みを伝える。
「あまり子供っぽい物や派手なデザインのドレスは苦手ですわ。お色は淡い色味が好みです。」
お父様は感心したように頷く。何か言いたげに私を見つめるが、「ロゼの好きなドレスにしよう」とにっこり笑う。
あら?…以前のロゼと趣味が違うとか?……いやいやいや…まさか父親はそこまで…、娘のドレスの趣味までは詳しくないと思ったのですが……油断出来ませんわ?
不審にがられ無いようにしたいけど、自分らしくも生きたいし……
お店のアシスタントのお針子さん達が私の採寸している間、マダムとお父様がデザインやドレスの色、生地等を選んでいくつかサンプルを用意してくれる。
いくつかあるサンプルからデザインを選び、生地やアレンジを加え仕上げて貰う。
シフォン素材のミントグリーンに小花が刺繍された可愛らしい雰囲気のドレスやブルーのシルク地に真珠やレースをあしらった少し大人びたドレスを注文し、後日屋敷へ届けて貰う事になった。
私はお父様にお礼を言うと、このドレスを着てお出かけしよう!と優しく髪を撫でてくれるのだった。
そうして、お買い物を終えてお店を出て広場へ向かう途中、何やら人集りができ小競り合いをしている。
「珍しいな。治安の良い街なのに…」お父様が人集りを避けるように私の手をしっかり握りしめ、足早に通り過ぎる。
そこに若い女性の罵声が聞こえてくる。
「この泥棒ネコ!!さっさと盗んだ物を返しなさい!」
あまりの大声にお父様もチラリと罵声がした方を見遣る。
……泥棒ネコとは……なんだか懐かし……いえ、物騒ですわ!!
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