ファザコン全開!
昨日降った雪はまだ薄っすら積もっていた。今朝は清々しい晴天に恵まれ絶好のお出かけ日和だ。
…ふぅー
昨夜は王子様の夢を見てうなされて目が覚めてしまいました……。夢の中まで出てくるなんて……寝る前に話題にしたせいかしら?
まだ雪が積もっているところもあるので、暖かくしてお出かけくださいませとマリさんが張り切って外出の準備をしてくれる。
「……ふむ、ロゼレッタ様、かわいいですわ!こんな感じで如何でしょう?」
支度を終え、鏡の前に立たせてくれる。
白金のロングヘアは緩く三編みにし、ドレスと同じ淡いピンク色のリボンを飾ってもらった。動き易いように膝下丈のワンピースを着せてもらった。う〜ん可愛い!天使が鏡に映ってる!
厚手のコートにマフラー、手袋、帽子、ムートンブーツの防寒仕様で玄関ホールに向うとそこには既にお父様のお姿が!!
朝からキラッキラッの麗しきお父様!眩しいですわ!!
お父様が私に気付くと笑顔で両手を広げて、さぁおいでとかがんでくれる。
お待たせしましたお父様!と抱きつくとそのままフワリと抱き上げられて歩き出す。
玄関の扉を執事が開け、そのまま馬車まで運ばれそうになる。
えっ?お外でも…まさか抱っこのまま…??
「お出掛けですもの、自分で歩きますわ」少し照れ笑いをしながらお父様から降りて……抱っこの代わり手を繋ぐ。
ロゼはもうお姉さんになったんだねとお父様が少し残念そうに笑う。
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屋敷から馬車で1時間程で、街の入口に到着した。
街の中心はお祭りのため、大変な賑わいらしく、馬車はここで降りて街の中心まで歩く。
アンジェとして19年生きていた人生でもお祭りに行くことはなかった。
少々浮かれつつ、露店を眺めていると、周りからの視線をひしひしと感じる!
あ〜いけませんわ!やはり麗しいお父様のお姿は目立ってしまう!
遠巻きながら御婦人達が集まってくる。
何てことでしょう!
大人なのに誘拐されそう?男性なのに触られそう?
……これはいけませんわ……
人混みから麗しのお父様を遠ざけなければ……
「お父様!あそこのお店を見てみたいわ」
お父様と繋いだ手を引っ張り、こっちこっち~と無邪気な振りをして周囲の人達から引き離す。
そうして、遠くに見える一軒のお店を指さすと……
「え…ロゼ?君は本当にあの店に入りたいの?」
お父様は、ちょっと不思議そうに私を見つめた。
えぇ、驚きますわよね?
私達の視線の先には9歳のレディには無縁の武器屋がある。
「……騎士様に憧れているのですわ。こういうお店はお父様としか入れないから」
「そうか……あの武器屋は王都にも顧客を抱えるほどの腕の良い職人がいる評判のお店なんだよ。」
ロゼは騎士に憧れていたっけ?いつの間に?…お父様が不思議そうに小さく呟く。
私達は、露店から少し離れたところにある武器屋を目指して歩く。
武器に興味はないけれど、ここなら御婦人達は入りにくいはず……
武器屋は、大通りからは少し奥まった場所にあるものの三階建ての店でかなり目立つ建物だ。
ちょうど店から出て来たフードを被った一人の騎士が此方へ近づいてくる。
背が高くて、優雅な動作……、つい見惚れてしまう。
そんな私の視線に気付いたのか、こちらに視線を向けた……
「ミシェル?…」
名前を呼ばれたお父様は、はっとした様子で騎士に歩みよる。
え?お知り合いですか?……
「ランスか!元気そうだな!」
ランスと呼ばれた青年は、フードを目深に被っていたが、下から見上げたロゼレッタからは顔がしっかり見えていた。
まだ年若いと思われる青年だが、年齢を推測するのが困難な程に美しい人だった。
黒髪に深海のような深みのあるブルーの瞳。彫刻のように整った神秘的な顔貌……まさに傾国の美人とはこのことかと見惚れてしまう。
隣りに並ぶお父様だってとんでもない美青年なのに、この青年には性別を超越した神秘的な美しさが漂っていた。
親しげに挨拶を交わした後、お父様は申し訳無さそうに青年を見つめる。
「長く王都を不在にしてすまなかったな。」
「いや、気にするな。……ロゼレッタ嬢が回復して良かった。」
ランスと呼ばれた青年は、私の事を知っている様だ。
かといって、ロゼレッタとは親しげに声をかけるわけでもないけれど……。
「…ありがとう。もう少し領地で、ロゼを静養させてから、王都に帰りたいんだ。」
お父様は私の髪を優しく撫でる。
そうだ。つい半月前にお父様は最愛のお母様を亡くしたばかりだ。
更に同じ時期に一人娘のロゼレッタまでも流行り病やら階段からの転落騒ぎで生死を彷徨ったんだから、そりゃ王都に戻る間もないでしょう。
うぅ、なんて可哀想なお父様!愛する家族を次々に失う運命だなんて!!
ぐすん…本物のロゼレッタの分まで私がお父様のお側におりますわ!!
「おい……ロゼレッタ嬢が泣いている……」
ランス様が私を見て戸惑う……。
いきなり泣き出す情緒不安定な9歳児!と思われたでしょうが、違いますわよ!
お父様のために生きる決意を固めたところですわ!
お読み頂きましてありがとうございます!