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第48話 古きよき親友

 轟音。ウエストタワーが一瞬揺れた。


 激しい戦いが起きているであろう階を目指した。エレベーターは停電で完全に止まり薄暗い非常光だけが廊下を照らす。道中にいくつもの生きたまま凍らされた執行シャ警察ルフの彫像があった。


 ウォータージェットではアークとは相性が悪すぎる。構えたノズルの先から発射したであろう水が自らに降りかかった姿でみな凍死している。アークは文字通り手段を選ばなかったわけだ。階段は真っ暗だったので随分時間がかかった。


 アンヌ・フローラの寝室のあった同じ九十階だ。こっちには何があるというのか。倒すべき敵もいないはずだ。だが、この凄まじい発砲音から誰かと戦闘しているのは明らかだ。


 大きな会場に出た。宴会場のようになっている。転がったテーブルやいすは見渡す限り蜂の巣だ。それに加え、氷の柱や壁が入り混じる。


 信じ難いことに、アークとイザークが戦っている。


 イザークは片手にマシンガンを持って撃ちまくる。よく見ると、片足は引きずり、右腕はなくなっていた。骨ではなく金属と配線が見えている。どういうことだ。一方のアークはかすり傷を負い白衣が少し汚れた程度なのだ。全て氷の壁を作り防ぐとすかさず溶解して氷の氷柱を手のひらから出現させてイザークを撃っている。


「そこをどけダン!」


 イザークが怒鳴る。アークがてっきり襲ってくるのかと思ったが、車いすとは思えない速度と跳躍で俺のすぐ目の前に飛び出てきたのは、車いすの少女だった。


 異常なモーター音。ブロンドの巻き毛に、見覚えのある赤いドレス。あのレースの日に観客席でマルコが見かけた車椅子の少女だ。


 目を剥いたように微笑み、金属でできた歯がノコギリのように動いている。口が裂けて人間の頭など簡単に食いちぎれるほど開かれる。シンクロで飛んだ。だが、少女の目の瞳孔がグリグリと回転し、狙いを定めるカメラのように異常な速さで動く。


 俺のシンクロ先はイザークとアークの間の小さなテーブルの陰。そこに来ることが分かっていたのか、少女の口からあろうことか金属の歯が飛んでくる。テーブルは粉々に粉砕した。


 仕方なくアークのところに逃げた。アークには無下にされると思ったのだが、この状況はアークにも好ましくないらしく、氷の盾の内側に入れてくれた。


「め、珍しいこともあるもんだな」


「後で皆殺しにするつもりだったけどね」


「俺も入ってるのか。今来たばっかりだぞ」


 少女は俺を仕留め損ねたことで、開いていた口を閉じて、元の人形のような美しさに戻った。


「何なんだあいつ。それにイザークのあの姿」


「彼女はアンヌ・フローラの片割れ。フローラだよ」アークがさらりと告げる。


 まさか本当に最高司令官総長アンヌ・フローラはアンヌとフローラという二人の人間によって成り立っていた人物だというのか。


 フローラは、スカートを手で払って、はしたないまねしちゃったとおどけてつぶやいた。


「あんたさっきも会ったわね? よくもアンヌを殺してくれたわね」


「さっきの別人みたいなアンヌ・フローラ。やっぱりアンヌの方を操っていたのはお前なのか」


「操ってるって人聞き悪いわ。あたしたちはシンクロしてるの」


 シンクロが、人と人同士でできるものなのか?


 アークは、やれやれと言った表情で俺の方を向いた。


「彼女はUコードシステムそのものとシンクロしてるんだよ。君はシステムを破壊しても意味がなかったからここに来たんでしょ? フローラとアンヌがシステムそのものだったんだから。破壊を手伝ってよ」


 だからさっきイザークはイーブン越しに執拗なまでにアンヌ・フローラ殺害の指示を出したのか。


「つまりあのロボットみたいなガキを殺さないとUコードシステムは破壊したことにならないのかよ」


 少女はケタケタと高笑いした。


「あら、あんた、本当のこと言ってあげなさいよ。破壊するのはあたしだけじゃ足りないでしょ?」


 一瞬アークの顔色が灰色に沈んで見えた。口は結ばれてしまった。


「ほら、見せてあげる。私たちは今日三人でシンクロすることに成功してるのよ。アンヌと私と、そこのニノン・ドレイシーと」


 ドーム型の天井に吊り下げられていたのは、人の入る大きさの鳥かごに入れられたニノンだった。いつもの無表情でこちらを見下ろしている。


「どういうことだよ」


 フローラは勝ち誇ったようにまた甲高い声で笑った。


「Uコードシステムを終わらせるにはニノンも殺さないとね? アーク・ドレイシーはそんなの許すはずないわよね?」


「そんなことができるっていうのか?」答えを求めてアークに訴えた。アークの口から回答が得られたのは本人も悔しい思いをしているからかもしれない。


「Uコードシステムは元々、人と人を繋ぐシステム。そこにシンクロ能力者が関わることで、彼女はUコードシステムと一体化しただけでなく、システムを通して他人とも繋がることができるんだ。Uコードシステムは命を制御するシステムだからね。ニノンは誘拐された時点で体内にナノマシンが注入されてる。その目的がアンヌ、フローラ、ニノンの三人でUコードシステムのバックアップを取り合うことだったんだよ」


 じゃあ本当にニノンを殺さないと終わらないっていうのか? それじゃあ完全に行き詰まりではないか。俺はニノンを殺すことなんてできるわけない。だからイザークとアークが戦っていたのか。


 イザークはきっとニノンのことより革命の成功を優先する。そのためにはニノンだって殺すという選択を取るに違いない。くそ、俺がニノンやアークのことを詳しく話して、もっと理解してもらっておけば。


「ダン! 何やってる。俺たちは革命グループだろう。やるべきことをやれ。マルコのためにも!」


「お前はニノンのこと何も知らないだろ」


「いや、彼は知ってる」


 固く閉ざしていたアークの口が重たそうに開き、気鬱な表情でイザークを見つめる。そこに眠っているものを探しているようだ。


「彼は古き良き親友。ユーゴ・ラバールだから」


 ユーゴ? 


 あの、二百年前アークがまだ世界を氷に導いてない旧世界でいっしょに早若病の研究をしていたっていう。そしてシンクロ能力の研究者であり、Uコードシステムの前身を築いたという。


 そんなばかなことがあってたまるか? ってことは今のイザークは二百歳以上。いやいや、でも待て。あの腕は明らかにロボット。製造が禁止されていなくなったはずの、人間そっくりのロボット。ロボット狩り時代に人そっくりなタイプは強制解体されたはずだ。


「イザーク説明しろよ」


 イザークは悪びれた様子もなくしごく当然のように言った。


「イザーク・ヴァイグルは偽名だ」


 上層階を憎んでいたイザーク。いっしょに革命を成功させようと、何度も励ましてくれたイザーク。一体何を信じればいいんだ。


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