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落とし物シリーズ

神様の落とし物

作者: 羽入 満月

 俺は欠伸を噛み殺しながら、参道を歩いていた。

 昨夜は、ゆく年くる年を見ながら、寝てしまったので、昼間に近所の神社に初詣なのだ。

 近所の神社は、本殿と小さな祠などが複数あるが、それほど時間がかかるものでもない。


 帰ったら、酒でも飲みながら、正月番組をみようかな。


 そう思いながら、歩いていると、視界に小学校低学年ぐらいの女の子が「どこにいっちゃったんだろう」と言いながら何かを探している姿が目に入った。


 うん?デジャヴ?なんだか、二週間ほど前にもこんな光景を見た気がするぞ?

 ってか、遭遇率高いな。


 また何か奇怪なものでも探しているのか?


 前回までのあらすじは、水たまりに映った青空に星に仲直りだったな。

 そのまま横を通り抜けようとしたが、気になってしまい足が止まってしまう。


 そう言えば、前このタイミングで女子高生が声を掛けるんだよな。

 今回も来るのか?


「あれ?また探し物をしているの?」

「手伝おうか?」


 よっしゃ。きたっ。


 そう思って見まわすと、出てきたのはショートカットとポニーテールだった。


「あーー。お姉ちゃんたち!!こんにちは!!」

「ふふふ。こんにちは。それと、明けましておめでとうだね。今日は何を探してるの?」


 まさか、とも思ったが地元の神社だしなきにしもあらずだな。

 さて今回は、誰の落とし物だ?

 神さまか?それとも「おとし」つながりで、お年玉か?


 思考に入る俺をよそに、話は進んでいく。


「あのね、あのね。ボールをさがしてるの」


 うん?


「ボール?」

「そう。」

「なぜに?」


 正月にボール。

 意味がわからない。


「お年玉の、たま?とか?」

「ボールペンのボールしゃないよね?」


 ショートカットとポニーテールがこそこそと話す。


「うん。最初から順番に話ができる?」


 がんばれ、ショートカット、詳しく話を聞きだすんだ。


「うんとね。ボールが帰ってこないの。」

「?」

「ボールって言うのは?」

「おじいちゃん!!」


 詳しく話を聞いたら、余計ややこしくなった。


 ボールのおじいさんが帰ってこない。

 意味がわからない。


「おじいさんの名前がボールなのかな?」

「うーん。今回は本当にわからない。」


 ショートカットとポニーテールが困っている。


 どうしたものか…


 そんな大人の空気を読んでか、読んでいないのか、小学生が話を続ける。


「おしょうがつにね、おじいちゃんがかえってくるって。でもでもそれは、ボールで、かみさまがつれてきてくれるはずなのに、きっとおそらをとんでるときにおとしちゃったんだよ。ボール!!」


 んんん?

 それってじいさんの名前がボールというわけではなくて。


「「御霊(みたま) (か) !!!」」


 またもや偶然にも女子高生と声がハモってしまった。

 今回のポニーテールは、「?」を浮かべている。


 そして前回と同じようにポニーテールがこちらを見てきたので、さっと目をそらした。


 うん。参加してなかったな。


 おっほん。


 つまり、小学生は、誰かから正月に死んだじいさんがかえってくると聞いたのだろう。もちろん死んでいるのだから、魂だけで。そのときに疲れたであろう言葉の「御霊」ってのを聞いて「(たま)=ボール」と勘違いしたのだ。


 なるほど。今回の探し物はなかなか難しいぞ。


「どうしよう?」


 ショートカットがポニーテールにざっと説明をして意見を求める。


「ムズくない?」


 さすがに今回は無理だろ。


 すると、


「やえちゃーん!!」


 どこからか女の人が現れた。


「おかぁさん!!」


 どうやら、小学生の保護者らしい。


「もう!勝手にどこ行ってたの!!」

「ごめんなさぁい。」


 しょんぼりする小学生を気の毒に思ったのか、女子高生たちが説明する。


「まぁ!もう、この子ったら……」


 じいさんをボール扱いしたところか、死んだじいさんを探していることに呆れたのか女の人は、笑っていいのか、呆れているのか、困ってしまっている。


「おじいちゃんは、もう見えないの。だけどちゃんといるのよ。」

「みえないのにいるの?」

「そうよ。神様だって見えないけどいるでしょ?」

「そっか。」

「さ、帰るわよ。きっとおじいちゃんも帰ってきているわ。」

「みえないけど?」

「見えないけど。」


 二人はふふふ、と顔を見合わせて笑いあい、手を繋いで帰っていく。


「おねーちゃんたちー。ばいばーーーーーい」


 ちょっと行った所から振り返った小学生が女子高生たちに手を振る。

 女の人も振り返って会釈をする。


「ばいばーい!」


 女子高生たちも手を振り返す。

 小学生は、元気に手を振りながら、去っていく。


 女子高生たちは、「今回は、なかなかの落とし物だったね」「子供の勘違いって難しい」と楽しそうに笑いながら階段を登っていく。


 俺はと言うと…


 正月そうそう疲れたような、呆れたような変な気持ちになりながらも、またあの変わった探し物をする小学生に会えることを期待している自分がいた。


 そうだ。ついでにお願いしておこうかな。


「あの子の探し物が次回からすぐ見つかりますように」


 って。

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