人の狂わせ方
初めて書いたものなので大目にみていただければ嬉しいです。
愛されたい、寂しい、心の穴がいつまでも塞がらない人にぜひ見ていただきたい純愛なお話です。
あなたは狂わせたい人はいますか?
「いや、元彼なんてもう好きじゃないよ。」
オーバーリアクションに首を振り、目を大きくして僕を見つめる君。「ほんと?それならよかった。」髪をなでながら僕は君の目を見れなかった。
本当に好きじゃない?だって僕は前の彼女と別れてもう3年になるけど、君はたったの2ヶ月だよ。どうしても心にもやっとしたものを感じる。君に聞きたいことはたくさんあるけど今日も聞けずに、「お腹すいたね。いいとこ見つけといたよ。おしゃれな感じのところだよ。」
助手席にちょこんと座る君は嬉しそうにはにかむ。こんな些細なことで安堵を感じている僕はやはりどこかおかしいのかもしれない。
『今日はありがとう。とても楽しかったよ。来週の土曜日は遊園地にしない?』
『私もとっても楽しかったよ、ありがとう。え!本当!?行きたかったの~!明日からの仕事頑張れる!』
1時間後の君からのメッセージは喜びが溢れててほっとした。僕は着信音を聞くと同時に『僕も頑張れる。楽しみにしてるよ。おやすみ』と指を動かす。
ベッドに沈みながら、君は僕のこと分かっているのかとばかり考えて、意識が遠のく。
「毎日これを続けるのか・・・」
仕事をしていても何度もスマホの画面を見てしまう。僕が8時に送ったおはようメッセージからもう4時間が経とうとしている。もちろん君は寝ているはずがなく、出社しているよね。もうそろそろ昼休憩だからその時に返そうと思ってるのかな。朝が忙しいことは分かってるつもりだけど、おはようの一言ぐらいは返せるはずだろ。君は起きたらSNSをチェックするはずなのにどうして僕のメッセージは返そうとしてくれないんだ。そもそも読んでくれているのかも微妙なところだし。君からのメッセージが返ってくるまでの時間、僕がどんな気持ちで生きていると思っているんだ。
「お願いだ・・・」
「何かあったのか?」
不意に後ろから声がして、振り返ると「いつもお前昼前は落ち着きがなくなるよな。腹減ってる?」
同僚の高橋がからかうように笑っていた。
「あぁ、昼飯なににしようかと思ってたんだ。」
「仕事中だぞ!お前はしょうがない奴だなあ。ちょっと早いけど昼行こうぜ、腹減った」
高橋は吹き出しながら俺を連れ出してくれる。こいつの陽気さに触れている時だけは俺の心は正常になれる。普通の人になれるんだ。
「おい近見、スマホ鳴ってるぞ。」
僕はその声と同時に素早くロックを解除する。僕のケータイは仕事以外は君からしか連絡がない。
やっぱり君からだった。
『おはよう。お仕事頑張ろうね!今日は何時あがれそう?ごはん行こうよ!』
口元が緩んでいたのか、高橋がニヤニヤしていた。
「何だよ、早くいくぞ。トンカツだろ?」
そうだな、と左の口角が上がりっぱなしの高橋は俺の後を小走りでついてくる。
もう返信遅すぎるよ。でもよかった、嫌われてしまったのかと思った。
また僕は安堵を感じてしまった。
いつもの居酒屋。手にはビール。隣に君がいる。この空間のために毎日仕事、頑張れてるんだよ。君は知ってる?君はどうなの?
「おつかれさま!カンパーイ!」
元気にジョッキを挙げる君。乾杯の力が少し強くて、それすら愛おしくて君を感じた気がして喜んでしまう。
「おつかれさま、ごはん適当に頼んどいたよ。今日はどうだった?」
いつもみたいに君は笑顔で今日はねーと話す。君は本当に仕事が好きなんだね。
君の話を聞いているととても心が軽くなる。楽しくなって僕も顔が綻ぶ。でもふと頭に浮かぶのは、君の人生設計に僕は入ってる?
僕はね、君と僕とこども2人。そうだなあ、女の子と男の子一人ずつがいいなあ。それでね、広くて眺めの良いマンションに4人で住むんだ。
でも君の頭の中にこどもはいないような気がする。仕事が好きなんだね。いいよ、僕は本当は君がいればそれだけでいいから。君と僕と2人で毎日過ごしたい、ただそれだけなんだ。
どっちでもいい、だけど答え合わせをしたい。それなのに今日もまた聞けなかった。君の笑顔が消えてしまうかもしれないってだけで、僕はこんなにも臆病なんだよ。
これも君は知らないだろうね。でもそれでもいいよ。隣に君がいてくれる、それだけでいいよ。
答え合わせを焦ってしまった。あんなに聞かずにいた先の話を聞いてしまった、僕のせいだ。
休日、僕の家で君が作ってくれたオムライスを食べた後にテレビをそのままつけっぱなしにしていたのが悪かったのかな。人気俳優と女優の結婚で持ち切りになっていたのは分かっていたのに。しかも僕は完全にきを抜いていて、君に聞いてしまった。
「へえ、この人結婚したんだ。君も結婚したいなって思うの?」
聞き方もよくなかったかもしれないし、もっと自然な結婚トークをしてからにすればよかった。僕は頭が悪い。
君は困ったような、気まずいような顔をしたね。かわいい頬をぽりぽり掻きながら言った。
「今はちょっと・・・考えてないかも。」
今ならわかるよ、君の言葉をちゃんと正しく読み取れる。そうだよね、今すぐは無理だけどこれから考えていけばいいよね。分かってるのに。
でも僕の悪いところが出てしまったんだ。本当に気持ちが悪い。
えっそっか。とか、あ、そうだよね。とかしか言えなかったと思う。だって動揺しすぎていたんだ。でも君はそんな僕にそっと寄り添って手を握った。
優しい。本当に君はどうしてそんなに優しいの。そんなところも大好きなんだ。
なのに僕はその手を振り払って今日は帰ってと言葉を残して寝室にと閉じこもった。完全に頭が真っ白になっていた。
君はきっと悲しい顔をしていたんだろうね。ごめんね、僕はだめなやつだ。
君はごめんね、また連絡するって言って静かに出て行った。
君とは今まで喧嘩なんてしたことなかった。だって僕は君に嫌われないために必死で取り繕っていたし、君は思慮深い人だから喧嘩の種すら無かった。今日はどうしてしまったんだ。
布団を押しのけながら起き上がると、鏡に映った自分が目に入った。なんだか変な感覚だった。ジェットコースターが急降下した時のような肝がヒュッってなる感じがして、現実に引き戻された気がした。
僕は君になんてひどいことをしてしまったんだ。僕のことなんて嫌いになってしまったんじゃないか。焦燥感に頭を支配され、命令に従うがままスマホを手に取った。その手は冷や汗でびしょ濡れだった。
電話のコールが長く感じる。
『もしもし?』
君の優しい声を聞くと涙が溢れてしまって、何度も謝りながら泣きじゃくる僕。
『大丈夫だよ。私こそごめんね、ゆうきくんのことを考えてないような言い方をしてしまったよね。ごめんね。』
『ううん。ごめんね。今どこ?迎えに行くから。』
僕の腕の中にいる君は僕の予想に反して、涙で顔がびしょ濡れだった。
「私、ゆうきくんに嫌われちゃったと思って。ごめん、ごめんね。本当に好きなの。」
抱きしめられているから僕の顔は見えないだろうけど、ひどく驚いた顔をしていたと思うよ。君がそんなことを思ってくれてただなんて。期待してしまっている。もしかして、君も僕と同じように僕がいないと生きていけないのかな、そうなのかな。
「僕が君を嫌いになる訳ないじゃん。僕こそごめん、最低だ。嫌な態度とっちゃった。好きだよ。大好き。」
「よかった・・・。私、もうゆうきくんなしじゃ生きられないの。」
僕を見上げる君はとてもかわいかった。
「起きて、ほらご飯できたよ」
眠そうに目を擦る君は美しい。
「おはよう...ありがとう...」
毎日君とおはようのキスをする。君の顔を誰よりも早く見ることができるなんて幸せすぎる。
あれから君と同じ家に帰れるようになってから僕はいつ死んでもいい。いや、やっぱり君と生きていきたいな。新居はどこにしようか、お互いの職場の間にしようかとか考えるのすら楽しかったね。新居を見に行った時だって、君は独立洗面台が欲しいって言って僕はキッチンの広さにこだわった。同棲するとき恋人は喧嘩になって、最悪別れたりするのに、僕は、君は、互いのこだわりすら愛おしかったね。
君がかわいくいようとしてくれるのはかわいくて、胸が苦しくなって触れたくなる。
「んふふ、今日もご飯おいしい。ありがとう」
笑顔でおいしそうに食べる君。
「どういたしまして。ほら早く食べないと遅れちゃうよ。」
一緒に朝ごはんを食べて家を出てからも途中まで居れるのが幸せすぎてどうにかなってしまいそうだよ。いつまでもこうして過ごせたらな。年内には結婚の予定も立っている。まだこれ以上幸せにさせないでよ。大好きだよ。
もう僕は君なしでは生きられない。
一緒に住むようになってからはテーブルに当たり前のように置いてある。好きな人が作ってくれたごはんってどうしてこんなにおいしいものか。疲れて仕事から帰っても、君がわざわざ先に家にいて出迎えてくれるから帰るのが楽しみになった。それに君は毎日私を起こしてくれるし、毎日好きだよと伝えてくれる。その時の君の顔を君は知らないんだね。
だけど君は本当に自分の意思で私を愛してくれているのかな。もし自分の意思だと君が言い張るのならそれは間違いだよ。きっと知らないだろうね。人間なんて欲しい言葉を掛けられればすぐに深いとこまで沈み込む。馬鹿だな、でも本当に愛おしい。君が馬鹿でよかった。
私と君の出会いは、私が仕事終わりに友達と居酒屋で飲んでいたら偶然、友達が男友達と再会して、一緒にいたのがゆうきくんだったよね。そのまま4人で飲んで連絡先を交換した。ゆうきくんが頬を赤らめながら、でも平静を装って聞いてくれた時、私の心はもうゆうきくんのものになってたよ。
その次の週2人で初デートへ行ったね。とても緊張したのを覚えてる。夏の暑い日だった。私は淡いブルーのトップスに白いスカートで、ゆうきくんは黒のTシャツにジーパンというシンプルなのにかっこよかった。あまり目を見れなかったの知ってた?
小洒落たカフェで私はパンケーキを頼んだら君も同じのって言ったの覚えてる?甘いの好きなんですか?ってテンション上がっちゃて、二人でおしゃべりをしながら食べた甘い味。好きだったなあ。
カフェを出てその時話題だったホラー映画を観に行った。君は洋画が好きだって言ってたから
「邦画だけど大丈夫なんですか?」
「それ観ましょうよ。ポップコーン何味が好きですか?」
「キャラメルですかね・・・好きですか?」
ああ、この人は私を優先してくれるんだって感じて嬉しかった。でも同時に、今までの君を振りかえってこの人は自分の意見を言いづらい人なんだなって思っちゃった。きっと初デートの緊張もあっただろうけど、ゆうきくんは話のリードをして私の好みを聞き出してくれた。そして私の行きたいところに連れてってくれた。私は一生懸命考えて、考えて、考えて、思いついたの。
私から離れられなくなる呪い。
これは私の持論なんだけど、人の顔色をうかがう人ってね、振り回されやすいしなにより依存させやすい。洗脳なんて言わないでよね。君が知ることはこの先もないだろうけど。
今日デートした感じで2人が惹かれあっているのは分かってたから付き合うのは簡単だった。問題は別れが来ないようにする方法だから、依存させてしまえば君から離れることはないって考えたの。いいアイデアだったと思わない?それに、君の話には相槌を打って共感の一言も添えて、君が笑わせてくれようとしてくれた時は満面の笑みで返した。
でもこれだけじゃ足りない。これだけじゃちょっといい風の彼女止まりだ。もし君のタイプの女性が現れたらきっとそっちに行ってしまう。だから君をもっと深く知ろうとした。でも時間は無限じゃないからなるべく早く。友達との付き合い、仕事のこと、今までの彼女、家族の話。軽くした話をパズルのように繋ぎ合わせて君を私の中に具現化していった。君と付き合ってまだ1ヵ月しか経ってなかったから知るには短すぎて大変だったよ。不自然な聞き方をしてしまうと不信感に繋がるじゃない?私は頭が悪いから結構苦しんだんだよ、ゆうきくん。
1ヵ月半ぐらいたったころ、やっと見えてきた。君は人よりも特段愛に飢えている。でもそれを隠して普通ふりを装うのが上手だね。でも家族には末っ子だから愛されてきたって言ってたのにね。何が君をそうさせたのかとても気になるけどこれから少しずつ知ることにしたんだ。安心してね、私は君を理解してあげられる。
そうだなあ、そしたら呪いのテーマは「愛」にしよう。私が誰もあげることのできなかった愛を注いで上げる。君の心を満たしてあげるよ。穴も塞いであげる。私が守ってあげるから。
だから私に依存して。
テーマが決まってからゆうきくんの変化は顕著だった。メッセージの返信をわざと早くしたり遅くしたりした。すごく楽しそうに話をしているときでも、君が他の女の話をすれば冷たい眼差しを向けた。君がうろたえているのがとても可愛かった。でもそんなことをしていたら君は狂った。
私に悟られないよう平静を装っていたつもりだろうけど、分かりやす過ぎるよ。前までしてこなかった電話を週に1回、2回、そして毎日してくるようになった。私が飲み会で遅くなるだろうから今日は電話できないって言ったら君は泣いた。これで狂ってるのを隠せると思っていたんだろうから本当におかしくなっているんだろうね、君。
泣きじゃくりながら「大丈夫、ごめん、泣いちゃってっ。っおやすみ。」なんていう君が愛おしかった。
飲み会は楽しいけど、君がかわいすぎて頭から離れなかったから途中で抜けてしまった。コール音が愛おしい。
『えっ飲み会じゃなかったの?』
まだ君が泣いていたから私は全身が痛くて、
『今から家に行っていい?』
君は玄関で私を強く強く抱きしめて、その力強さが君の寂しさに感じてしまって泣きそうだった。君が泣き止むのはいつだろうか、私はなんて大変なことをしてしまったのかってとても後悔したんだよ。ごめんね。
君と一緒に寝るのがこんなに幸せだったなんて気づくのが遅すぎたよね。君はずっと今までも幸せだと言ってくれていたのに。狂わせたのは私のくせにこれが本当に愛なのかとか、私じゃなくてもいいんじゃないかとか考えてしまう私を良い匂いだと言って後ろから抱きしめてくれる。どうしようもなく愛おしくて、手放したくなくて、胸が張り裂けそうだった。
狂っていたのは最初から私の方だ。でももう戻れないよ。2人ともこのままでいようよ。一生のお願い、私のわがまま聞いて。好きなのお願い。
私を愛していて。
僕と私は本当に幸せなのか、感想をいただけると嬉しいです。