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第5話


 月末の金曜日に、うちの学校では毎月面談が行われる。


「今月の成績を発表する。それぞれ、軽い面談を行うからな」


 担任がそういうが、クラスメートたちは軽い調子だった。

 ……毎月行われるこの成績発表。


 これは内申点に近いものだ。……内申書を調べたことがあるものならわかるが、それをかいつまんで現時点での俺に対して評価するようなものだ。


 月に一度、学校側……担任はあなたをこのような生徒と見ています。

 向上心があるのなら、改善しましょう、といった具合だ。


「……はい」


 俺は渡された成績表を見て、小さくため息をついた。


 その成績には、もちろん学力などの記載もあるが、少し特殊だ。

 俺は渡された成績表と、担任からの一言と書かれた紙を見た。


 長谷部一輝 2年4組 学籍番号 020128

 部活動 無所属

 学力95点 判断力30点 身体能力50点 社交性10点


 担任からの一言

 学力に関しては申し分ありませんが、その他の面でやる気を感じられません。特に人付き合いにおいては、アルバイト以外ではないため、今後のことを考えるのならば周りに馴染む努力をしたほうが良いと考えられます。


 ずばっとはっきりとした評価だった。

 ……まさにその通りだと思う。

 俺に与えられた評価に、俺自身納得している。


「長谷部、アルバイトのほうはどうなんだ? うまくいっているのか?」


 担任の武蔵先生がその強面とともに聞いてきた。

 ここが特別教室でなければ、たばこでも吸っていそうなほど、彼からはたばこの臭いがした。


「えーと……とりあえずは」

「そうか。まあ、周りに馴染むのは難しいと思う。学校がすべてじゃないんだからな、学校以外でよい関係を作れればいい」

「は、はい」

「何か今困っていることはあるのか?」

「……いや、特にはないです」

「そうか。何かあれば、言ってくれればいい。それじゃあ、次の……あー、八雲を呼んできてくれ」

「わ、わかりました……ありがとうございました」


 この成績表を意識し、さらに向上しようという生徒もいるのは確かだ。

 俺もその一人だ。

 担任に、「もっと社交性をあげないと、大学推薦とかの部分で他の高校に負ける可能性がある」、と言われてしまってからは必死だ。


 自分の状況を知れる、というのはやる気がある人にとっては、ありがたいのかもしれない。


 ……ただ、この最後に次の人を呼びに行くというシステムは本当にやめてほしい。

 俺が八雲に声をかけるとか、普通に犯罪だから……。


 俺が教室に戻ると、八雲は友人と楽しそうに話していた。

 ……うわ、これに割り込んで声かけるとか……。

 空気読めない奴と思われるな、絶対……。


 それでも担任に頼まれたんだから仕方ないと割り切っていくしかない。


「や、八雲……次、だって」

「ん? あんがとね」


 八雲は席を立ち、教室を出ていく。残っていた女子たちがじっとこっちを見てくる。

 い、いや……仕方ないだろ。話を邪魔したのは悪いが、時間なんだから!


 本当にこのクラスは最悪だ。

 俺は小さく息を吐きながら、今日がアルバイトの日だったことを思い出していた。

 ……まったく、バカなことをしてしまったと思う。

 

 進級してすぐにあった面談で、武蔵先生に宣言してしまったのだ。

 社交性をあげるために、『アルバイトを始めます!』、と。


 武蔵先生も驚いていたようだが、いくつか知り合いがトップに立っている個人経営店を紹介してくれた。

 そのうちの一つにアルバイトが決まり……今日がその日なのだが――あまり乗り気はしない。

 だって、そこにいる後輩の女子が……滅茶苦茶俺をいじめてくるからだ。

 

 

 〇



 あーしは長谷部一輝くんを見ていた。

 ……間違いない、と思う。

 あの眼鏡をはずした姿……昨日助けてくれた男性とそっくりだ。


 ただ、いくつかの疑問は残っていた。

 ……なぜ、なぜ、名乗りでない!

 昨日もそうだけど、助けてすぐに立ち去ってしまった。


 ……てっきり、あーしに興味をもってもらうために助けに来たのだと思った。

 だって、普通……他人というのはあんな状況で危険を冒してまで助けになんて来ない。

 そうなると……一つの疑問が浮かぶ。


 ……あれ、長谷部くんのそっくりさんだったのではないだろうか? と。

 実はすべてあーしの勘違いだったのでは? ……それならば、名乗り出ないことにも疑問はなかった。


 一緒にいた比奈に昨日助けてくれた人について覚えているか聞いたけど、泣いていてそれどころじゃなかったと言っていた。

 ……だから、あーしは長谷部くんを徹底的に調べることにした。

 彼が本当に、助けてくれた男子なのかどうかをだ。


 まず、長谷部くんの後をつける。

 これはストーカーではない。あくまで、あーしは長谷部くんにお礼を伝えるために、つけているに過ぎない。


 あーしが真っ先に考えたのは、長谷部くんに瓜二つの双子がいるかもしれないということだ。

 教室での長谷部くんと、助けてくれたときの長谷部くんはまるで別人のようだった。

 無機質な瞳で、チンピラたちをぼこぼこに殴る姿……かっこよかった。

 

 いや、今はそんな感想などどうでもいいのだ。

 あーしは今日も長谷部くんのあとを追っていた。

 ただ、彼はいつもすぐに姿を消してしまう。

 後を追うのは中々に苦労した。


 ……けど、毎日そうやって後を追うことで、あーしは長谷部くんを知ることができた。

 彼には妹がいるが、瓜二つの双子はいないということ。

 つまり、あーしたちを助けてくれたのは、まぎれもない長谷部くんだったということだった。


「真理ー、今日は帰りどうする?」


 比奈が声をかけてきた。

 最近、あーしたちはクラスの男子と絡むことがほとんどない。

 クラスの男子の多くは北崎を中心にして、あーしと絡んでいたからだ。

 

 その北崎とあーしの仲が険悪になったからだ。

 

「どうする? 駅前でも行く?」

「……い、いや……今は、行きたくないかな……」

「冗談冗談。それじゃあ、帰りにカフェでも行かない?」


 笑いながら、あーしは鞄を持ち、比奈たちとともに教室を出る。

 ……ここ最近、長谷部くんをつけて分かったこと。

 ――長谷部くんは、近くのカフェでアルバイトをしていることだ。


「あっ、いいね。あのパンケーキがおいしいお店だね!」

「そうそう、いこいこ」


 あーしは長谷部くんに会うため、比奈たちとともにそのカフェへと向かうことにした。


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