第1話
高校デビューに失敗した俺は、今日も教室で一人だった。
ソシャゲのスタミナも使い終わり、やることを失った俺は次の授業の予習がてら、教科書を眺めていた。
そんな時だった。クラスで目立つグループに所属する北崎が、バシバシと隣の男の肩を叩いた。
「……おい、あいつまた勉強してるぜ」
にやっと、北崎が笑った気がした。
……北崎と俺は別に親しくない。ただ、一年のときも同じクラスだったから俺も知っていた。
「ガリ勉ぼっちって言われるだけはあるよな」
「前に、テスト返却されたときに見たけどよ。あいつあんだけ勉強して俺より点数低かったんだからな」
「マジかよ北崎? 遊びまくっているお前よりもバカってあいつ地頭本当に悪いんだなっ」
「それで友達も一人もいないんだぜ? マジ受けるよな」
ゲラゲラと笑う北崎を含めたグループ。
人の悪口を言うのに盛り上がっている。
北崎と一緒にいた女子たちも同じように笑ってこちらを見ていた。
……ああ、最悪なクラスだ。
ぼっちなのは別にいいが、人をいじめて楽しんでいるような奴と一緒なのがマジで辛い。
それを見て、楽しそうに笑っているクラスメートたちにもうんざりだ。
……本当に世の中最悪だ。信用できるのは自分だけだ。
笑い声なんて気にせず、俺は教科書に視線を戻した。
高校生にもなればいじめなんてないだろうと思っていたが、そんなことは決してない。
結局、見た目的変化が現れても人間的な部分は変わらない。
そもそも、動物にもいじめというのは存在する。
結局種として落ちこぼれているものは、それを理由としていじめの対象にされることが多いのだ。
……まあ、人間の場合、優秀な人間に対しても嫉妬していじめる者は多いが。
俺は小さく息を吐きながら、北崎を思い出す。
……俺が北崎に目をつけられたのは、たぶん入学式初日のときに北崎に声をかけたからだ。
高校生になって浮かれていた俺は、高校デビュー……とはいかなくとも、少なくていい、彼女も別にできなくていい……それでも友人くらいは作りたいと思った。
だから、近くの席だった北崎に声をかけたのだ。
そしたら北崎は……俺を睨んでこう言った。
『陰キャオタクが話しかけんな。殺すぞ』
周りに聞こえないよう、脅すようにだ。
……いや殺すぞって、本当にそんなことやるのかどうか気になったが激しく拒絶されているのは分かった。
実際北崎は、クラスの上位カーストに所属し、俺なんかとは住む世界がまるで違う。
……だからまあ、そういわれるのも仕方ない。
俺はすっかり人に怯えてしまい、ぼっちを貫くことを決意した。
そこで俺と北崎の関係は終わるのかと思ったが、違った。
北崎は話題に困ると俺のことを言うようになった。
ぼっち、オタク、陰キャ、眼鏡……そんな言葉を並べ、俺を馬鹿にする。それが友人たちの間でも受けるようで、たびたび話題になるのだ。
どんな世界にもいじめはある。たまたまその標的に俺がされただけだ。
今のところ、実害は特にない。だから俺も我慢すればいいと思った。
……後二年。二年辛抱すれば、高校卒業だ。
大学生にもなれば、さすがに今よりはまともになるだろう。
まともになるよな? なってください。