代理出産が広がったので、女性の恋愛市場価値が激減した
あたしはある独身女性だ。
これまで仕事一筋に生きてきた。
しかし、もうアラサーである。
このままじゃヤバいと、一念発起して結婚相談所に行くことにした。
途中で幼なじみのバカに「え?そんな所に登録すんの?無理じゃね?」って笑われたので、一発みぞに入れといた。
そして、いよいよあたしの番になるのだが、何か男の人が多いなここ。女性が私しかいないし。
どうぞ、と呼ばれたので部屋に入るとそこにはにこやかな女性が迎えてくれた。
彼女に促されて椅子に座り机を挟んで。向かいあう。
「この度は本社サービスをご利用頂きありがとうございます」
彼女が簡単に自己紹介を済ませると世間話もそこそこに本題に入っていく。
「パートナー紹介の件を承っておりますが、間違いないありませんでしょうか?」
彼女の問に、イエスと答えると具体的な要求を告げていく。
彼女がこちらの質問を一通り聞き終える。
「えーっと、年収は600万以上、身長180程度、芸能人似のイケメンで年齢30歳未満。
以下の通りでよろしいでしょうか?」
まあ、少し控えめだから簡単に条件に当てはまる人がいるだろう。
「では、こちらの方とセッティングさせて頂きますね」
パソコンのモニターに写し出されたのは、アクション俳優似のイケメンだった。
年収800万で身長182,学歴も慶応でまずまず。一流商社に勤めるエリートサラリーマンだ。
思ったより簡単に相手が見つかった。これなら簡単に事が進むかな。
「では、待ち人数は103番目となります。その時にまたご連絡いたしましたので」
って、おい。
「え、103番目って…」
「それまでに御成婚される場合もございますので」
「そ、そんなに待つんですか!?」
「これでも少ない方ですよ、きょうび」
「ほ、他の人はいないんですか!?」
「いらっしゃる事にはいらっしゃいますが…」
次の相手も80人待ち。
「そんなに待たないといけないんですか…」
待っているだけで一年くらいかかりそうである。
「あの、もうちょい早い人は…」
「待ち人数の少ない方だとこちらの方がいらっしゃいますが…」
そういった相手の待ち人数は7人。
これまでに較べると確かに少ない。しかし、肝心のスペックが。
年収400年齢42身長170高卒。
「こんなので7人待ちなんて…」
思わずため息が漏れる。
もっと簡単に出きると思っていたのに…。
「あの、何でこんなに厳しいんですか?」
思わず聞いてしまう。すると、彼女は少し困った笑顔で、
「数年前と比べて男性のご登録者様が激減したのです」
「数年前って…。
そんなに減ったんですか?」
「ええ…。
以前からセクハラ問題やフェミニストの方の声が大きくなってきて厳しくなっていたのですが…。
それに加えてネットなどで代理出産が盛り上がって…」
「…何で代理出産とそれが関係あるんです?」
「ですから、費用を用いても結局、結婚どころかデートも出来ない。
なら、最初からそんな事に費用を使うよりも代理出産を選ばれる男性が増えておりまして…」
「…ええ。
でも、どうせそんなのはハゲでデブでヒキオタで、女と目を奪われた合わせた事もないこどおじなんでしょ?」
「いえ、最近は富裕層の方やエリートの方も引き合いが増えています。
何でも女性関係で揉めたくないらしくて…」
思わずため息をつく。
「以前はお客様のいう、いわゆる低スペックの男性の方にも引き合いがあったのですが、今はさっぱり。
なので、少なくなった男性登録者を女性登録者が奪いあっている状態です。
しかし、それでも女性登録者の方は以前の女性優位時代の事を忘れられず、折角の出会いを台無しにして、見果てぬ高スペックの男性登録者様に殺到しているという状況なのです。
それを見て、ますます男性登録者様が減り、女性登録者様の御成婚の機会が奪われている、という状況なのです」
彼女はそこまで言うと一息つき、
「即ち、今や女性の恋愛市場価値は激減したのです。
代理出産に敗北したのです」
「じゃあ、あの外で待っていた男の人達って、」
「大半が代理出産に対するお客様方です」
そこまで聞いて頭の中がクラクラしてきた。
「そんな事、テレビや情報紙にも載ってなかったのに…」
「もし載っていたら、この程度の惨状では済まないと思いますが」
甘かった。如何にも甘かった。
こんなにも男性の結婚離れ、代理出産引きが強いとは思わなんだ。
「これも、男性憎悪者のフェミニストの方々の活動の成果なのですね…」
そういうと、彼女はフッと寂しげに笑った。
「ですが、お客様はまだお若く、此度のわたくしめの言葉にも耳を傾けて頂けたご様子。
ですから、当方おすすめのこの方となセッティングは如何でしょうか?」
そうしてモニターに写し出されたのは、良く見知ったあの顔だった。
「よう、今お帰りか?」
帰り道、良く見知ったバカに出会う。
「あー、その調子じゃ上手くいかなかったか?まあ、しゃーないわな」
ははは、と輕口を叩いてくる。
こんな奴でも15人待ちとは、世も末である。
「…ねえ、アンタ結婚に興味あんの?」
ふと聞いてみる。
「んー?どうだろ」
「…だったらさ、あたしなんて、どうかな?」
「…へ?」
「だから、あたしが結婚したいっていったら」
「…誰と」
「え、いや、例えばよ例えば!
仮にアンタがあたしと結婚するとしたら」
「無理」
「…へ?」
「だから、無理。
だってお前、すぐ殴るし狂暴だし」
…こいつ、あたしの事をそういう風に見てたのか。
「それにさ、結婚しても離婚とかしたら大変だろ?
だから、俺も代理出産とか頼もうかなーって」
ぐわぁ……。男性の結婚離れ、代理出産が目の前に。
「そんじゃな、遅くなんなよー」
そう言ってとっとと帰って行きやがった、あのクソバカは。
…まさか、女性の恋愛市場価値激減をこの身でかまされるとは思いもしなかった…。
はあ、とため息をつくと、
「ーもし、お客様」
「うわぁっ、てさっきの相談員さん?」
「先程からお客様のお姿を拝見させて頂いていたのですがー」
人の恥部を覗くな恥ずかしい。
「お客様、あの方がお好きなのですね」
その指摘に、ぐっと押し黙ってしまうが、
「そうですよ、あたしはあいつの事が好きです」
「なら、今日のご相談も?」
「…ひょっとしたら、アイツの気を引きたかったのかもしれません」
そう、あたしはあの馬鹿の事が好きである。今日の事もアイツの気を引きたかっただけなのかもしれない。
ー以前、あいつに告白された事がある。
その時は何とも思ってなかった。
その後もなんどかしてくれた。しかし、気がどうにも向かなかった。断ってしまった。
親にも言われたし、向こうの親にも勧められた。しかし、その度にはぐらかし、そのうち何も言われなくなった。
その後、ふとした時に助けてくれた。嬉しかった。心に残った。そして初めてこいつへの思いに気づいた。
「けど、その時には既に時遅し、ですか」
「人の回想に急に入ってきないでください」
「でも、あの方がお好きなのでしょう?」
そう言われて口ごもる。
確かにあいつの事は好きだ。しかし、相手にその気がない。おまけに代理出産希望。
「でしたら、わたくしにお任せ下さいっ」
彼女が急に声をあげる。
「結婚とは一人で出きるものでも二人だけでも出来るものではありません。
周りの協力あってはじめて成立するのです」
確かに、あたし一人の力では無理。
「わたくしも一応、プロと自認しておりますっ。
是非ともご卒業下さいっ!
お安くしておきます!」
金とんのかよ。
て、まあ、このままじゃどうしようもない。ここは一つ彼女の力を借りる事にしよう。
「それではこれからお願いしますね」
「はい、是非ともお客様のご要望に添えるよう尽力いたしますね!」
こうして、あたしの新たな戦いが始まった。
しかし、それにしても。
「代理出産、か」
これまでモテないと男をバカにしていたのも今はさっぱり昔、最早、時代は変わったことを気づかされた。
これからもあたし達女性婚活者は女性優位だと思い上がって活動力していくのか?
そんな不安を抱えながらも、新たな一歩を踏み出した。
終