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謝意を示しながら向かいの席に腰を下ろした彼は、私の顔を見て、いくぶん元気を取り戻したらしい。
私のよく知っている、屈託のない笑顔を見せた。
そこからは当たり障りのない会話が、しばらく続いた。
わざとなのか自分の話はせず、彼は私の近況を知りたがり、質問してきた。
私もそれに答え、そこからの流れで「そういえば、あのときも」と学生の頃の昔話に及び、笑い合った。
30分ほど、彼の電話での鬼気迫る様子を忘れてしまうような楽しい雰囲気が続いた。
もしかしたら、このまま、この懐かしい会合は何事もなく終わってしまうのでは、と私が思い始めたところで「実は、とても困ったことが起こっている」
中島が切り出した。
楽しげな様子は消え去り、声は沈み、その両眼は小動物のそれのように、私の顔をオドオドと見つめるのだった。
やれやれ、これはどうやら本腰を入れて応じなければならない。
私は姿勢を正し、極めて深刻な表情をして、彼の怯える視線を受け止めた。
「聞こうじゃないか」
私の答えに中島は、おずおずと話を始めた。
「妻のことなんだが…」
中島の言葉に、私は驚いた。
これほどの大げさな前置きをしておいて出てきた悩みが、奥さんの話とは…いや、私は奥さんを軽視しているわけではない。
もちろん、恐ろしく深刻な状況もあり得るだろう。




