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「僕の頭が、おかしくなったと思うかい? もしそうなら、これから僕が言うことで、ますますそう思われるかもしれない。だが、これは事実なんだ。紛れもない本当のことなんだよ!」
「………」
「僕が混乱していると妻の口が、また開いた。3回目の『こんばんは』を言ったんだ。その声は…中年の男性のものだった」
中島は、そう言った後で、私の顔をまじまじと見つめた。
自分の話に対する私の反応が気になったのだろう。
私は何の反応も示さなかった。
中島は少し安心したようだった。
そして、話を続けた。
「妻は自分の口ひとつ…当たり前だが口ひとつを使って…少女と中年男性との3人で会話を始めた。やはり、前日の老齢の女性のときと同じ、世間話がほとんどだったが、所々でよく分からない言葉が入った。『マドボーテ』だの『ヘッケルガー』だの…全く意味は分からないのだけど…」
中島がチラリと私を見た。
私は中島に微笑みかけた。
彼の不安を取り除いてやるためと、この話の結末のめどが、だいたい、ついてきたのと両方だった。
中島は私の笑顔に勇気づけられたのか、自分も笑顔になった。
「ひとつの口の3人の会話が終わると、妻は立ち上がった。僕は慌てて寝室に戻った。そしてその後は前日と同じになった。妻は変わらず魅力的な妻だった。僕は日々、ますます彼女に惹かれ、新しい発見をし、無限に虜になっていくのだよ。夜は妻を抱き、深夜に妻は寝室を抜け出し、僕はその後をつけ、妻は自分の口を使って、どこに居るのかも分からない複数の人々と言葉を交わし、お互いに気遣いあっていた。妻と話す相手は、ときには十数人に及ぶこともあった」




