11話
「はっ・・・はっ・・・はっ」
小倉 麻里の荒い息遣いがダンジョンに響く。その体は汗に濡れ服はじっとりと湿っている。
「ヒヒッ、もう少しですよもう少し」
「はっ・・・はっ・・・はっ」
熱い吐息。
揺れるGカップ。
しかもGカップは汗で蒸れてしっとりとしている。
スケベそうな中年男はそんな女の体を遠慮なく触っている。
揺れるGカップ。
痛めた足を地面につかないように町田の肩を借り、一歩一歩進んできた小倉さん。そしてやっとのことで3階層からダンジョンを逆走し1階層の入り口へとたどり着くことが出来た。
並のハンターであれば鼻歌を歌いながらでもできるだろうことだが、Fランクハンターであり、そして足をかばいながらの小倉さんにとっては重労働であり、果てしなく長い道のりだった。
待ちに待ったダンジョンの入り口、太陽の光が近づいてきた。
「どうしました!」
「大丈夫ですか?」
同時に声を上げたのはダンジョンの管理を職務とする二人の男。男達の鋭い嗅覚は、小倉さんの姿を見る前からその存在を知らせた。
男たちは息も絶え絶えな小倉さんを見て慌てて声をかけた。そこには隣で密着し、肩を貸している町田に対する疑いの眼差しも含まれていて、小倉さんの様子次第ではすぐに取り押さえれるような体勢でいる。
「ありがとうございました町田さん」
心の底から感謝を告げた。
今回は本当に命の危険を感じた。そして実感した。ダンジョンは生半可な状態で挑むものではない。そう思った。
「いえいえ大したことはありませんよ」
「今、お礼のお金を」
「いえ結構ですよ。私はこれからすぐにまたダンジョンに入るので」
「えっ」
小倉さんを一瞥もせずにダンジョンへと進んでいった町田。これ以上の厄介ごとは御免といった様相だ。しかし、離れて行くその背中は逞しく戦士さながらの雰囲気を醸し出していた。
小倉さんにとっては果てしなく長い道のりであった。全身汗だくで疲労困憊だった。しかし町田にとっては何でもない事のようだった。
あれが本物のハンターなんだ。
遠ざかっていく町田の背を暫く見て考える。
この足ではダンジョン探査は当分無理だ。
悔しい。
ダンジョンに出没するモンスターの中でも最低ランクに怪我をさせられた。すぐにまたダンジョンに行くなんていうのは、あまりにも馬鹿。それくらいはわかっていた。
わかっていた。
そして思う。
悔しい。
そして今の自分がどうしようもなく情けなかった。
弱い。
自分には戦うだけの力が無い。
たったの3階層。
そして相手は雑魚モンスター。
自分の足で入り口まで戻る。それすらもできなかった。
舐めていたのかもしれない。
私はダンジョンを舐めていたのかもしれない。
いや、舐めていたんだ。
かもしれないじゃない。
認めろ。
私は舐めていたんだ。
ハンターを、モンスターを、命懸けの戦いを。
ハンターになって3週間。今は一番下のFランクハンターだけど、すぐに強くなる。頑張ればきっとできるはず。
Aランクハンターのなかには自分と同じ女性もいる。その事も小倉さんがハンターを志した理由の一つでもある。
だったら自分にもできるはずだ。
そう思ってしまった。
ネットで調べて選んだ防具とゴルフクラブを持ち、ネットでハンターのブログやツイッターを調べているうちに、自分も一端のハンターのつもりでいた。
でもそれは、とんでもない思い違い。
過信。
何の役にも立たない。
装備も、情報も、そして自分自身も。
ダンジョンではあまりにも無力だった。
悔しさに奥歯を噛みしめる。
鼻の奥がツンとして涙が出そうになる。
弱気が押し寄せて来る。
諦めろ。
無理だ。
出来ない。
弱気に染めようとする。
けど・・・
だけど、駄目。
駄目だ。
諦めるという選択肢は無い。
目的がある。
理由がある。
やらなくちゃ駄目なんだ。
目的を呪文のように唱え頭を一杯にして無理やりに弱気を振り払う。
負けちゃだめだ。
どうにか涙を抑えることができていた。
まだ負けてない。
まだ諦めてない。
心は折れていない。
だから泣くわけにはいかなかった。
負けてもいないのに泣くのはおかしいんだから。
●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇
「特に異常無いようですね」
そう言われ右足を地面についてみたのだが医者が言うようになんの以上もなかった。普通に歩くことが出来ていたのだ。腫れあがり動かすだけで激痛が走っていたのが嘘のようだ。
首をひねりながら病院を後にする。
そして思う。
町田 公太というハンターはいったい何者なのであろうかと。
彼について調べてみよう。
そう思った。




