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10話

 

 ネチ


 ネチャ、


 ネチャ、


「はぁ・・・はぁ・・・・・はぁ」


 その音と共に噛み殺したような小倉さんの吐息が重なる。どことなく彼女の顔は赤く染まっている。


 白くねっとりとした軟膏。それが痛めた足首に塗り込まれている。


「この軟膏は特別製でしてね。怪我によく効くんですよヒヒヒ」


「本当に本当なんですよね?信じていいんですよね?」


「足首を少しだけ動かしてみればわかりますよ。ヒヒ、本当かどうかはねウヒヒヒ」


 恐る恐る小倉さんは痛めた足首を少しだけ動かしてみる。


「あっ」


「どうですか?」


 不思議だった。町田の言う通り痛みが和らいでいた。これなら時間はかかるかもしれないがもしかしたら自分一人でも帰れるかもしれない。そうお思えるほどだった。


「さっきより痛みが引いてきた気がします。本当だったんですね。ありがとうございます町田さん」


 確かに痛みは和らいでいるように思う、しかしどうにも視線が気になって仕方がない。町田まちだ 公太こうたと名乗った男の視線、それが自分の胸に注がれている気がしていた。


 麻里の胸はGカップありこれが男たちの視線を集めているのは知っていた。だから被害妄想なのだろうか。こんなに親切にしてくれている人に対してそんなことを思うのは人として間違っているという考えもあった。



 ギー!



 汗が噴き出した。


 現れたのはモンスター。


 この状況のせいで警戒を怠っていた。体勢は腰を下ろした状態。


 一角ウサギだ。


 見た目はカワイイが性格は狂暴で、人間を見ると強烈な体当たりをしてくる魔物。その肉は食用として好まれていて麻里も好物だ。しかし今となっては自分を怪我させた元凶であるので、会いたい相手ではない。


「っ!」


 ヒュ


 バン!


 しゃがみ込んでいた小倉さんが驚きの声を掻き消しとっさに立ち上がろうとする前に町田は動いていた。


 立ち上がることもなく地面に置いていたバールを振り下ろすと、一瞬にして一角ウサギを討伐してしまった。その威力は凄まじく、一角ウサギの体を叩き潰してなお威力は衰えず、硬い地面にめり込んでいる。


 町田の表情にはモンスターに対する恐怖も突然現れた敵に対する動揺も見られない。彼は警戒を怠っていなかったようだ。軟膏を塗る行為に熱中しているように見えたがそれは間違った考えのようだ。


 なんという早業だろう。町田がモンスターを倒すのを見るのは二度目だがその戦闘能力は本物だ。


 ハンターランク最下層のFに位置する麻里には町田が操るバールの動きを目でとらえる事すら難しい。スケベ親父そのものの見た目にしか注目していなかったが戦闘能力は紛れもなく本物だ。


「さあ、とっとと地上に向かいましょう。あまりグズグズしていると夜になりますからねッヒヒ」


「はい大丈夫です!お願いします」


 麻里の耳には「俺は夜になると性欲が抑えられなくなってしまうんだ」と言っているように聞こえた。


 地上がとても恋しかった。



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