1話
西暦2XXX年 日本国 XX県 XX市 ----ー
女。
女が歩いている。
青い空。
途切れ途切れに薄く広がる白い雲。
力強く輝く太陽、そして僅かな風。
歩いている一人の女。
「おわ!超ド級のいい女がきたぞ!!」
「マジじゃねえか!しかもすげえ巨乳だぜ!!」
低俗である。
下世話である。
男たちの感情のこもった力強い声。それはこの最高の天気には全く相応しくない。
遠くに見える一人の女。
男たちの目線の先には一人の女がいた。
男達から女まではまだ30mは離れている。だいぶ距離がある。しかし彼らにはその女が一体どういう種類に位置する女なのかがはっきりと分かってしまっていた。
「ちょっと待て、俺のオッパイスカウターで計測する」
「あんないい女もハンターなのか」
「ピピピピピピピーGカップ、Gカップであります軍曹殿!!」
「すげー!どエロ乳神様だ!」
「エロ戦闘力530,000であります」
「すぐさま確保しろー!三等兵」
「いや、俺、三等兵!?ランク低すぎるでしょ」
つまりその女、稀にみる美女でありそして、スタイル抜群なのである。つまりは、いい女。最上級の女だ。
それは事実。事実である。しかしそこには距離という壁があった。遠距離からでも正確に嗅ぎ分けることが出来た男達。彼らには千の拍手が与えられるべきである。そして男の中の男、否、漢であると称賛されるべきであろう。
タッ、タッ、
「声を落とせ、近づいてきたぞ」
そう、その女は男たちの方へと向い、歩いていた。
彼女は目的を持ち、意思を持って、男たちの方へと歩いてきている。そして男達もまた意思をもってその場所にいる。
タッ、タッ、タッ、
「ふおー!スゲーぜ」
足音が聞こえるほどに段々と近づいて来ると、男たちの声も彼女に聞こえないように段々と小さくなっていく。男達にも常識があり、そして、愛する妻も子もいる身なのだ。
男達の興奮は距離が近くなってくるにしたがってより一層高まっていく。声を押さえなければいけないという状況が、彼らの興奮をより高めているのかもしれない。
美女。美女なのだ。
近づいてくるにしたがってハッキリとしてくる女の姿。その姿、想像していた以上の美女。彼らにとって今まで見た女の中で最も美しい女だった。
そしてむしゃぶりつきたくなるような極上のスタイル。なにしろGカップなのだ。Gカップ。Gカップ。Gカップ。
彼らは仕事中であるがゆえにどうにか興奮を抑えることが出来ていた。そうでなければ目の前の女、否、美女、否、獲物、極上の得物を捕らえるべく、全力を以て狩りに望んでいただろう。
確かに彼らには妻も子もいる。
一家の大黒柱だ。
それは紛れもない事実である。
しかし今、愛する妻、そして愛する子の存在。それは木星まで放り投げてしまっていて頭の中には微塵も残ってはいない。
もし、仮に、狩りが成功したならば、女と親しくなることが出来たのなら、妻帯者であることを隠すであろう。独身だと嘘をつくだろう。仕事があると家族に嘘をついて彼女に会うであろう。
なぜそんなことを?
そんな無粋な質問をする人間もいるかもしれない。
そんな馬鹿な真似をするべきではない。
怒る人間がいるかもしれない。
最低。
悲しむ人間がいるかもしれない。
漢であるから。
それこそが漢の真の姿であるのだから。
それが全て。
全てなのだ。
タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、
男たちの秘めたる思いを知る由もなく歩く美女。
彼女が歩みの先に目指す場所。それは都会のブティックや美味しいパンケーキを出す店ではない。そして好きな男と会うためでもない。
なにせ周囲には森と岩山があるだけの場所であり、コンビニに行くには相当な距離がある。だから一般人の姿を見るのは稀な場所なのだ。ここに来るのはある特定の人間だけ。ある目的を持った人間だけ。
そんな場所に女はいる。
歩いている。
その目には強い意志が宿っている。まさに目的を持ちこの場所に赴いた人間の目だった。
一瞬だけ強く吹いた風。
それが女の髪を揺らした。




