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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

炎獄に消える氷雪

氷像はいい。その瞬間を閉じ込める芸術性が特に好き。醜悪な人間でも、凍らせると『刹那の美』を彩る作品になる。

僕は目の前を見渡した。

風に吹かれて氷の結晶が日光を反射して、すぐに溶けていく。レンガ造りの街道は倒壊した家屋の瓦礫に呑まれている。街の象徴であろう鐘塔だけは元の形を保ったままだ。

コツン、コツン。

吐息は冷気で白い。進むたびに、足元から軽い音がする。僕は自らが作り上げた銀色の空間に満足した。

直前まで生活を営んでいた人々が、僕に背を向けて走り出した人々がそこにいる。恐怖を浮かべるもの、何が起き分からず呆けた顔の者、さまざまだった。

美しい。だけれど、この世界はとても短命だからこそ心に残るものだ。

氷像の一体に手を触れる。氷に亀裂が入ってバラバラに崩れた。血の一滴も残さず凍えた体は、人が生きていたという事実すら塵になった。

ああ、生き物はこんなにも脆い。

「全て凍ってしまえばいいのに」

呟いた想いは衣擦れの音にかき消された。

「団長、殲滅完了しました」

「そう。じゃあ撤収して」

僕は濃紺のマントを翻して静謐な凍土の世界から去った。

今回はこの街を隠れ蓑にした反政権の奴らを退治する指令だ。本来は魔術師が出るまでもないこの騒動、首魁が隣国の人間だったことで僕が赴くことになった。面倒この上ない。

馬車の移動は代り映えのしない草原と、同じ色をした街を見続けるだけで退屈だ。

「団長、一つよろしいでしょうか」

「何?」

頬杖をついていると、向かいの部下が声をかけてきた。

最近異動してきた彼は無表情だ。名前は確か、何だったけ。スヴェ……あとで調べるか。

「あの街の住民を粛正したのは、何か思惑があってのことでしょうか」

「単純に反乱分子を支援していたから」

禍根を残せば、それは大きな復讐の芽となって大樹となる。僕は身をもって知っているから、残らず殺しつくした。

部下はそれ以上語り掛けてこなかった。沈黙が続いてもどうでもいい。その伏せた顔がどういった感情を隠しているのか、僕は推察する気はない。

ただ、どうしようもなくこの男の空気は鬱陶しい。

王宮へ帰還すると、僕は謁見の間へ足を運んだ。

国家のために尽くしたという建前、どうしても見世物になる必要がある。赤い絨毯の先には玉座が設えてあった。そこには玉座の主がいた。絨毯の左右には大臣たちが控えている。好奇心と、嫉妬と、侮蔑の視線。おおよそ僕に対しては非好意的な彼らは、感情を隠そうともしない。僕にとっては特に問題ではないから無視をしている。

玉座の元へたどり着くと、僕は跪いた。

「魔術師団長、レイリス。ただ今帰還いたしました」

「此度はご苦労であった」

「お褒めに与かり恐悦の至極です」

「よいよい。面を上げよ。そなたの功労、余に聞かせよ」

平伏を解いて陛下を見つめた。

60歳を超える陛下は実年齢に反して非常に若々しい青年の姿をしている。切りそろえられた黒髪や皺のない肌。灰色の瞳だけがその姿に反して老獪な光を宿している。

奇妙なことに、一人だけ時間に逆行している陛下を不審に思う人間はこの広間にはいない。僕以外には年相応に見えるのだろうか。答え合わせはできないままだろう。一切する気もないけれど。

陛下の望み通り、僕は語って聞かせた。あの美しい死の世界を。

向かい合わせになっている近衛兵は顔をわずかにしかめている。彼は限りある美を理解できない感性の持ち主なのだろう。その目には恐怖と嫌悪が浮かんでいる。

その点、陛下は隠すのは上手い。本当は何を考えているのやらだ。

「ほう、さぞ愉快な光景であっただろうな。褒美を与えねばな……そうだ、最近罷免した伯爵の領地があっただろう」

声音だけは、心底感心したように陛下は言った。

「恐れながら陛下。彼の地はすでに我が領地として賜りました」

大臣の誰かが口を挟んだ。

陛下は声の主に目をやって、「それは困ったことだ」と思案顔になった。

「しかし。褒美をやらぬわけにはいかぬな」

「御身に仕えることが我が至上の喜びにございます」

「……さて、ではいかようにするか。ああ、ならば我が印を授けるか」

「陛下その者は」

周囲の気配がにわかに騒々しくなる。

「他に下賜するものがあれば別だが。異論がなければ、後ほど使者を遣わせる」

大臣たちは押し黙った。他に代案が思いつかないらしい。

「はっ。仰せのままに」

「では謁見後に」

陛下が奥に下がると、謁見は終了した。

大臣たちが退出する間、刺すような視線にさらされた。もう慣れたその視線をやり過ごして、僕は控えの間に向かった。

控えていた近衛が僕を案内する。別室に連れられた先は陛下の私室だ。

印を賜るとは、陛下の寵愛を賜る、ということの隠語だ。まあ、臣民にはたしか功績をたたえる勲章を授与することだと説明していたっけ。

大臣たちは……理解しているか半々だった。どちらにしろ憂鬱だ。

近衛が部屋の外に出ると、僕は防音の為に風の魔術を使った。

見慣れた調度品に囲まれて陛下は椅子でくつろいでいた。豪奢な外套はソファに無造作に置かれている。ベストを着崩してとてもリラックスしている。

机の上には葡萄酒の酒瓶が一本。既に封がきられてグラスに注がれていた。

僕は無言でそのまま向かいの椅子に座った。

「お酒はいらない」

ワインを氷漬けにして処分し、代わりに中身を水に移し替えた。陛下は……ジークは肩をすくめて自分の杯を煽った。

「残念。せっかく開けた高級品だったんだけどねぇ」

「魔力が乱れるから飲まない」

さして残念がる様子もなく、ジークは自分のペースで酒を消費していく。人目がないところでは割と普通だ。偉ぶらないというか。謁見時の威圧的な態度は演技だと言っていたことがある。

それに、お茶目が過ぎる。

「さて、ではお前をかわいがるか?」

「気持ち悪い」

「ふふ、少しでも乗ってくれれば楽しいのに」

ジークは酒気を帯びた目で瓶に手を伸ばした。

ほら、これだ。完全に飲みすぎて絡み酒になっている。ちびちびとしばらく無言でいたが、話が始まらないから僕は火ぶたを切った。

「大臣、罷免しないの?」

謁見の間で口を挟んだ男の顔を思い浮かべて口を湿らせた。

「珍しいな、レイリス」

「別に」

言葉少なに僕は答えた。自分で思っている以上に、僕はこの男の肩を持っているみたいだ。

「あれはあれで使い勝手いいからねぇ」

くすくす、とジークはグラスを回した。手入れされた指は剣を取ることはない。彼が武器とするものは、もっと強くて残酷なものだ。

「ようやく計画の駒がそろった」

「そう。おめでとう」

僕はその時、それだけ浮かんだ。彼の悲願は達成されるのだろう。僕とジークのこの関係をどう表現すればいいのか、実は僕もよく分かっていない。

僕がおぼろげに覚えている彼との出会いの記憶は、牢屋の中だ。それから数十年過ぎたけれど、本当に長かった。

「ふふ、じゃあ、さっさと済ませるか」

渋々と僕はローブの腰ひもを少しだけ緩めて上半身をはだけさせた。自分でもちょっと病的と思う白さの肌に、骨が浮き出て余計に不健康な見た目だ。

そして、胸の部分に刻印が赤い傷跡としてはっきりと浮かんでいる。

机に行儀よく置かれたナイフを手に取って、ジークは自分の手首を傷つけた。杯には彼の血がたまっていく。

そこに、細い針を浸して、僕の心臓の辺りでそれを滑らせた。すでに刻み込まれている赤い線に沿って、曲線を描いて。

隷属印と呼ばれるそれは僕のにじみ出る血と、彼の流した血で禍々しく濡れている。

魔力の循環が狂って気持ち悪くなる。

「辛い?」

「これが平気に見えるなら、いよいよ耄碌したんじゃないの」

この印を初めて彫られた時はとても屈辱的だったけれど……いや、今でも割とむかついている。彼が主導権を握るという意味で。

「っ」

じくじくしてきた傷にさらに痛みを上書きされて、唇を噛んだ。ジークは少しずつ切り付けていく。短時間で終わらせてほしい。

描き終わったから、僕は自分の杯の水を飲みほした。汗がたくさん出てすごく熱い。のどもカラカラだ。

ジークは自らの手に着いた血を舐めとった。若干、おいしそうにしている気がして僕は目をそらした。疲労とかでついに壊れたのだろうか。人の血を飲んで喜ぶなんて、変態だ。

ジークは首を傾げた。少しの間に、僕が言わんとすることに行きついたらしい。とても苦い顔をして首を振った。

「あー、ホラ、血には魔力が含まれているだろう。もったいないじゃないか」

つまりは食料扱い。それはそれで変態だ。

僕は手渡された布を傷口に当てながら無言で目を閉じた。吐きそうだ。

ジークと個人的に仲がいいとは知られているけれども、公的な場で僕を優遇したのはこれが初めてだ。非難の口実になる。

げんなりしているところで、ジークの声が聞こえる。

「今でもあの時の気持ちのままか?」

「なに?」

「決意は、揺らがないのか?」

冷淡な声音の彼は、どんな本心を抱えているのか僕には分からない。

ただ、言わんとすることは伝わったから答えた。

「僕は前しか見ないよ」

彼が問うたのは初めて隷属印を受け入れた時のことだろう。それなら、気持ちは変わらない。ジークにも伝わったのか、それ以上はこの話をしなかった。

「そうか。もう少しだ。しばらく休むといい」

闇の中の優しい声音と、その中に少しだけ悲しみが混じっていることには気づかない振りをした。



僕は、ジークの部屋から出て自分の居住する宿舎に足を向けた。扉番は誤解しているようだった。まぁ、僕の様子で判断したらそうなるだろう。ぐったりして熱で顔が少し赤いからね。その想像ごと氷塊にしたいけれど、我慢した。

ふらふらしながら歩いていると、廊下の曲がり角で人にぶつかった。

「これは失礼しました。魔術師団長殿」

額を抑えて僕を見上げたのは、エリザベート隊長だった。新設された王太子妃の親衛隊に配属の彼女は、人好きのする笑顔だ。

秀麗な美貌をもつ彼女の瞳には僕が映っていた。気は強いが面倒見のいい女性、と聞いている。僕とは職務が違うから滅多に会話しないけれどね。

「何か急ぎ?」

「はい、王太子妃様よりお呼びがかかりまして」

「そう、邪魔してごめんね」

道を開けると、僅かにエリザベート隊長は目を見開いた。そのまま笑顔でお礼を言って去っていった。

彼女の後姿を一瞥して、僕は歩き出した。

綺麗な女性だけれど、何か物足りなさを感じた。

翌日、執務室に顔を出すと部下たちが一斉に僕を見てすぐに仕事に戻った。一部、顔を赤らめている奴がいるから、昨日のジークのことを誤解されているのだろう。

訂正したい。でも、僕の隷属印や『計画』のことは大っぴらにしたくはない。勘違いさせておく方が色々と楽だ。

「団長、お加減はいかがですか?」

「なにが」

「その、宿舎に戻られるときに具合が悪そうにされていたと聞きまして……」

お茶を差し出す部下はどこか気まずそうにしている。

「僕は何も聞かなかった、君のひとり言だよね」

「は、はい」

とりあえずこの話題は釈明が難しいので触れてほしくない。

「それで、首謀者は口を割ったの?」

僕が仕事の話をすると、それまでのぎくしゃくした空気が緊張感のこもったものになった。隣国と手を組んだ黒幕がどこかにいるはず。その情報を得るためにわざわざ生け捕りにした。

「自決を試みたそうです。未然に防ぎましたが、これ以上は難しいかと」

「そう、じゃあ処分しないと。後で行くから、他の仕事調整しておいて。皆も、自分の仕事に戻って」

こちらを気にしている部下たちに釘をさして、僕は仕事を始める。退屈な書類整理だけど、今日の僕は肉体労働には耐えられる気がしない。

全て済ませて首謀者の元に向かった。お供にスヴェなんたらを引き連れる。

石造りの建物の地下牢は湿気が含まれて薄暗い。檻の中には痛めつけられた男が手枷で縛られていた。

自害防止用の隷属印が手に見えた。ただの墨で描かれたそれは、数日間だけの効力しかない。

「起きろ」

部下が男を蹴りつけると、男は薄く目を開け、僕を見つけると体を激しく揺らした。

「コキュートス」

その強い憎悪の瞳を僕はただ見下ろした。怒りで濁っているその瞳は、何度も見たことのあるものだった。

「仇討ちかな」

男は自分の手首が摩擦で切れているのには気づいていない。泥で汚れた顔が歪んで、一層哀れだ。

「復讐のためなら馬鹿げているよ」

あえて挑発する言葉を投げると、男は舌を噛み切ろうと口を開ける。しかし、その口を閉じることはできない。隷属印が彼の行動を縛っているからだ。

「無駄に人を巻き込んで終わり。君の大切な人もね。今、君の家族を捕縛しに向かっている。彼らを拷問して情報を聞き出すから、君は気にせずに眠ればいい」

「嘘だ!」

そう、この男の言う通り、僕の言葉は嘘だ。まあ、ただの嘘にはしない。少なくとも、家族がいなければこんな反応しないだろう。表向きの身分から、少なくとも交友関係は割り出せる。後は調査を諜報部に任せればいい。僕の仕事はもう終わりだ。

「君には覚悟が足りなかった、それだけ」

僕は彼の口を氷漬けにして塞いだ。

窒息して首を掻きむしる彼が赤黒くなって動かなくなった後、僕は男だったものを放置して地上に出る。

顔が青白くなった部下は出入り口を凝視している。

「ねぇ、君」

「何でしょうか」

「君には、大切な人はいる?」

僕は彼の顔を覗き込んだ。

部下はこわばった顔のまま後ずさった。気づかれてないと慢心していたらしい。

「あの男も愚かだね。失うことを考えたら復讐はできないのに」

「それでも必要だったのでは」

「……僕はね、スヴェン。君のような考えの人間が一番嫌い。恐れるなら初めからやらなければいいんだ。帰り道は、ないんだから」

彼は僕の部署向きの人間ではない。

それでも、彼が配属を望んだ理由が気になって調べていた。

僕は僕のために、敵を排除する。

「言い訳は、地獄から聞かせてね」

彼が悲鳴を上げる前に、僕は彼を地中に引きずり込んだ。悲鳴がわりの骨が砕ける音を聞きながら、ため息をついた。

ネズミはもはや中枢に深く入り込んでいる。陛下は放っておけといったけれど、僕は要らない駒はなるべく捨てたい。いちいち識別すると大変だけれど、炙り出しできそうなところから排除しよう。

他の部下には彼が内通者だったと伝え、僕は淡々と一日の仕事を終えた。冷え切った雰囲気はなかなかに心地いい。

詳細を副官経由で将軍に話したら参謀が事情聴取に来たのは些細なこと。僕は他の組織とは折り合いが悪いから。それにしても、あと数日か。僕は少しだけ待ち遠しくてベッドに横になった。

その日は面白い夢を見た。

それは、僕が赴いた少数民族の集落の夢だった。

氷漬けにした集落の中で、人々を鎖でつないでいた。特殊な力を持つ人間だということで僕が担当することになった。

恨みがましい目で見つめる彼らを見つめ返した。慣れたそのまなざしに僕は何も思うことはない。

憎悪、恨み、恐れ。どれも同じ色をしている。僕の心には何一つ響かないもの。そう思った時だった。

ゾク、と背中に刃物を当てられたような感覚がした。

辺りを見回すと、茂みの向こうに一対の瞳があった。高温の炎を宿したような、そんな激情に彩られた瞳だった。

すぐに、部下に追わせるよう指示をしたけれども、そのまま行方知れずになり、焼けただれた何かになって戻ってきた。

ああ、これは僕と同類の存在だ。そう直感して僕は少しだけ嬉しくなった。そんな思い出だった。

あの存在は今頃どうしているだろうか。朝日に起こされて僕は感傷に浸った。



楽しみを待つ時間って、長いようで短い。

数日後の夜明け前、まだ暗い時間帯に俄かに騒がしくなった。

ああ、始まった。僕は侵入者を氷漬けにして、謁見の間に急ぐ。磨き上げられた城内で、数名は血だまりを作って伏していた。

「魔術師、覚悟しろ!」

後ろから切りかかってくる逆賊を処分し、他にも攻撃する人間は残らず氷像に変えて、強大な扉の前にたどり着いた。

この後の筋書きは分かっている。けれども、本当にそうなるかは、この目で確かめないと。

逡巡して扉を開けはなった。

陛下は、ジークは、一人玉座で笑っていた。彼の目の前には王太子がいた。本当の首謀者が直々にやってきたようだ。

僕は声を掛けようとして止まった。

横から刃が煌めいた。とっさによけると、感情のない瞳を向けられた。

エリザベート隊長だった。

青年はジークに「父上」と呼び掛けていた。

「貴方には退位していただく。多くの民の血を流した、その罪をあがなって」

王太子は何かつらつらと言葉を並べていた。エリザベート隊長は剣戟を僕に浴びせる。魔術でどうにか切っ先を交わしているけれど、僕は本業じゃないからいくつもの切り傷を作った。

「革命のつもりか、王太子。ならば無駄だ。お前はやがて自らの過ちに気づくだけだ」

ジークは王太子に諭していた。うん、僕もそう思う。だけれど、王太子はそれを悪あがきと解釈したらしい。

「諦めてください、貴方の命はここでついえるのです。せめて私が介添人になりましょう」

自分は心底正しいことをしていると疑わない表情をしているのだろう。僕には見えないけれど。

ジークは子育てを失敗している。ただ、わざとなのか天然だったのか、知る由はない。

しみじみとしていると、王太子は突然僕のことを口にした。

「魔術師団長も、貴方と同伴していただきます」

寵愛されているなんて噂があったんだから当然か。

思考の海に沈みかけると、猛烈な痛みと熱さにやられた。

ああ、腕を持っていかれた。隊長に致命傷を負わされたようだ。体力のない僕では初めから見えていた結果だけれど。

倒れこむ僕に、隊長が刃を向ける。

覗き込んだ目は、静かに炎が燃えているようだった。とても高熱で、キラキラしている。

僕は、喉のつかえがとれたように納得した。

あの時見つけた炎はこれだったとわかった。灼熱の炎で身を焦がす彼女は数倍美しい。触れれば全てを焼き尽くして、きっと灰しか残さない、純粋な復讐の炎。昔に出会ったあの瞳があった。

僕はこの瞳を待っていたんだ。

「きれい」

僕の呟きが聞こえたかは分からない。最期の意識は、彼女の一太刀によって途切れた。ようやく僕は眠りにつける。看取られるのが同志の彼女でよかった、そう満足した。

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