第九十三話 救出
ティオが手にするナイフの刃から滴り落ちる血液、自分で自分を殺そうとした彼女が流したものではなかった。
「馬鹿な事するな」
優しく声をかける。
「カンザキ、さん・・・」
運良く最悪の結果は阻止出来た。
本当に危なかった、あと少し遅れていたらこんな風に血を流すのはティオになっていた。
今流れるのはナイフの刃を思いっきり掴んだ俺の手から流れるもの。
「ティオ、会えて良かった」
笑顔を見せるとティオはまるで信じられないものでも見たかの様に目を丸くする。
「どう、して?」
死んだはずなのにどうして? そう思うのが当たり前か。だが今はゆっくり説明している場合じゃない。
「てっきり粉々になったと思ったのだけど一体どうやって生き延びたのかしら?」
いつもの調子に戻った魔族は手をパチパチと打って馬鹿にする様な薄ら笑いを浮かべる。
「・・・・」
答える代わりに呼び出した魔剣を向けてやる。
「おお怖い、そんなに睨まないでよ、落ち着いて話し合いましょうよ。あの場所から抜け出して来た人間はあなたが初めてだから私あなたに興味が出ちゃった」
「お前と話し合いなんて出来るか」
「人間と魔族の違いはあれど話は通じるんだからまずは話し合いで解決しようとするのが賢い選択だと思うけど?」
「お前の話なんて聞きたくもない」
「そう、でも一つだけ聞かせて、私を見逃すつもりはあるのか無いのか?」
「無い」
「そんな・・・」
ガックリと肩を落とす。
魔族である以上は普通の人間よりは優れているのだろう、だがこいつの得意とするのは人や道具を使ったやり方。
話し合いを提案したりあの落ち込みようを見る限りこの部屋に罠の類はないのかもしれない。
ここで勝負をつけてしまえばと斬り込もうと決めたちょうどその時の事、その魔族は凄まじい速さで逃げ出した。
「私がわざわざ人間の相手なんてするとでも思ったお馬鹿さん!」
そんな言葉を吐き捨て一気に離れて行く。
すぐにでも追いかけたいがティオを一人にしておきたくもなくそっちは後回しにする
改めてしっかりと様子を確認するとだいぶ衰弱しているのが分かる。一人で歩くのも辛そうなので肩を貸してまずは安全な場所に連れて行こうとしたのだがティオがそれを断った、そして事情を話してくれた。
どうやら姉も捕まっているらしくそれを人質にされ作りたくもない道具の作成を強制されていたようだ。
「助けなきゃ」
弱々しくも強い想いがこもっている。それよりもまずはティオ自身の事を考えて、なんてとても言えない。
一人先に逃げるなんて考えに無いらしい。
それに姉がいる場所まで案内できると言うので結局「分かった、一緒に行こう」とティオの気持ちを優先する。
ティオの案内には迷いがない、完璧に道のりを把握しているようだがその理由は何度もあの魔族に連れられ通ったかららしい。
姉の所まで連れて行かれ生きている証明と共に衰弱していく様子を見せられ生殺与奪は向こうにあるとティオに教え込ませてちゃんと働かせる為なんだろうな。
ティオの手前冷静さを装いながらも確かな殺意が湧き上がっていた。