第九十一話 爆散の後
第二ステージへの入口とでも言うように扉が一つ待ち構えている。
たとえどんな恐ろしい罠が待っていようと逃げるわけにはいかない、ここから抜け出すには先に進む以外の選択肢なんて俺には無い。
「待ってろよ、こんな場所すぐに突破してお前の所に辿り着いてやる」
声が聞こえているかは分からないが一応宣言しておく。
どうせ不可能と嘲笑っている顔が容易に想像できるがそれで良い、その余裕の表情をぶち壊す瞬間を楽しみにして俺は臆せず前に進める。
というわけで扉を開いて一歩二歩、そして三歩目足元から光が漏れ出して直後・・・爆発した。
♢
「まあ、人間なんてこんなものよね」
効果範囲に侵入すると自動で作動する魔法式を記述した不可視の符、それが先程爆散した人間が踏み入れた部屋には仕掛けられていた。
牢から自力で出て来たからそれなりに期待していたのだが結果は残念なものに終わりため息と共に観察を終えた。
残された汚い死体の処理はいつものように人間に押し付ける事にしその魔族は押し掛けてきた人間を落とした穴の先にある扉を開け階段を下っていくとそこにはさらに扉が。
奇妙なのはドアノブが付いていないところだがそこを訪れた魔族にとっては承知の上、そんな風に仕掛けを施したのは自身であり開け方も知っている。
難なく封印を解き開かれた扉の中は物で溢れかえった物置の様な部屋、その一角で何かが蠢く音がした。
「次の道具は完成した?」
音の方向にそう声をかけると息を呑み怯えたような弱々しい声で返事が返ってくる。
「まだ・・・です」
返事の内容は魔族にとって求めていたものとは違っていたのか不満そうに息を吐く。
「そう・・なかなか作業が捗らないみたいね。いいわ、焦らなくてもいいから前よりももっと刺激的な物を作ってちょうだい、私はまた遊んで待ってるから」
やけに強調した遊んでという言葉、おそらくその意味は人間が思うものとはかけ離れている。
それを知っているのか「やめてください!」と必死の叫びを上げ阻止しようとするのは幼くも見える少女。
「これを・・・」
と突き出した震える小さな手の上には赤黒い不気味な光を放つ球体。
魔族はそれが何なのか知りはしないが身に感じる凶々しさからこれが最高傑作であると分かった。
「良い感じにただならぬ雰囲気を放ってるけどこれはどういうものなのかしら?」
「言われた通りのものです。簡単には死に追いやらずじわじわと苦しめてから死に至らしめる毒のような魔法を辺りに撒き散らすもの、起動と停止の方法は私しか知りません」
「それを教えるつもりは今は無いってわけね」
「ええ、捕らえられてる人全員の解放が条件です」
「だから私が満足する出来だったらすぐにでも解放してあげるって毎回同じ事を言わせないで欲しいのだけど」
「いつもそう言って結局誰も解放してくれないじゃないですかっ!」
「私の満足する出来じゃなかったもの、矢の雨を降らしたり爆発させたりでイマイチ面白味がないのよね。さっきの人間だってこんな風にあっさり死んじゃったもの」
魔族が前に出した手のひらの上、そこに光と共に浮かび上がってきたのは数分前の観察の記録、一人の男が爆散するまでの過程の映像。
その映像を見せられた少女は目を大きく見開き、それから力なくその場にへたり込む。
「う、そ・・」
自分の作ったもので人が死んだという現実だけでも相当なものだがその犠牲になったのが自分の知人によく似ていた事もさらなる追い討ちをかけた。