第九十話 罠、そして罠
進んで行った先に扉を見つけたので音を立てないよう注意しながら中を確認、奴の後ろ姿と陽気な鼻歌が聞こえてくる、こうして今牢を出た奴に狙われているなんて思ってもいないのだろう。
このまま背後から忍び寄り剣で脅して捕まってる人を全て解放させる、その後でどうするかはこいつの出方次第、最悪殺す覚悟も決めて部屋の中に一歩足を踏み入れる。
「馬鹿な子」
鼻歌が止み先ほどの様子からは想像も出来ない暗く冷たい声、気付かれたと分かった時には俺の足元の床が消え出来た穴に落とされた。
それなりの深さがあったがその程度、どうやら殺すのが目的の罠ではないらしい。
「わざわざ牢屋を抜け出してまであたしに会いに来るなんて、そんなに恋しかった?」
「んなわけあるか! 俺を良いように使ってくれたお礼をしに来ただけだ」
「あら怖い、でもよく確認しようともせず信じたあなたが悪いんじゃない?」
「ふざけんな、こっちはもう気付いてるんだよ。問題なのはお前に連れて行かれた店に充満していた変な匂いのせいだってな!」
「あら鋭い。あれね、あなたが探してる魔法道具が作れる子にお願いして作ってもらったの。よく出来てたでしょ?」
「なん、だと?」
「会いたいならそこを抜け出してくる事ね」
行き先を示すように目の前の扉が開く。
「ちなみにその先は罠だらけ、一人も生きて出てこられた人間はいない、もしそれでも進むのなら気を付ける事ね」
「忠告どうも」
「気にしないで、序盤であっさり死なれたら私が困るからしてるだけだもの。せっかく用意した罠の大半が作動する前にみんな死んじゃってまだ試せてないからちゃんと動くか見てみたいの、だから頑張って長生きしてね」
「ああ期待に応えてやるさ、長生きには自信があるんでね」
「ふふふ、強がっちゃって。そういう子が最後にあげる悲鳴と命乞いの声こそ美しい、たっぷりと堪能させてもらうから」
♢
狭く長い通路、奥まではっきりと見通せない暗さでそれらしい物も見当たらない。
さっきの言葉は怖がらせる為の嘘だったりするのかも性格悪そうだしなんて思った矢先、頭上から光の矢が大量に降り注いだ。
どうにか身体に命中しそうなのは全部弾き事なきを得たのだがいきなり殺意が高すぎる! こんなの大抵の人間は死ぬに決まってる。
「やるじゃない! 正直冴えない顔してるからここであっさり死んじゃうと思ってたけどわざわざ戻って来るだけあってそれなりに腕に自信はあるみたいね」
「怖気付いたか? 捕まえた人をみんな解放し二度と悪さをしないなら一発ぶん殴るだけで許してやってもいいぞ」
「その程度の罠を生き延びただけなのに威勢がいいこと、言っておくけどこの後用意してるのはさらに危険度が高いものばかり、調子に乗ってたら次で死んじゃうかもね」
おいおい、これより危険度が高いってもう全く思い付かないのだが。
転がってくる鉄球とか振り子刃とかトゲの落とし穴とか俺が思う罠の上級と同等もしくはそれ以上の罠が一発目に、これは先が思いやられる。