第八十九話 全く期待されていない
またしても肩に担がれ運ばれる。
一体何が待ち受けるのか分からないし気を引き締める必要があるな。周辺の様子を伺うためにも薄く目を開くが起きている事を気付かれたくもないのであくまで最低限、僅かな範囲しか視認出来ないがこれはなかなか・・・酷いな。
以前俺が捕らえられた時に入れられたのとは全く違う、あっちは屋敷についでに造られた牢屋みたいなものだったがここは言うなれば監獄だ、捕らえておくことが目的の建物といった感じに牢屋が並んでいるし微妙に人らしき影も見えるが動きが無い、衰弱しているのかあるいはすでに手遅れなのか・・・。
「新しいお友達よ、仲良くしてあげてね」
いきなり訳のわからない事を言ったかと思うとガチャンとおそらく鍵を開ける音と鉄を引きずるような音、そして次の瞬間俺を放り投げるとしっかり施錠して気配は消えたので目を開ける。
薄暗くカビ臭い、とにかく長く居たい場所では無いが敵の数も分からないうちに下手には動けないので同じく捕らえられている人から情報収集と思ったのだがちょっと難しいかもしれない。
新しく人が来たのなら何かしら反応があっても良いはずなのに全くの無反応、壁に寄りかかったり床に寝そべったりでこっちを見ようともしない。
嫌な予感を胸に抱きながらも近寄りそっと肩を叩いて話しかけてみる。
「あの、すいません・・」
返事はない・・・いやまさかそんな! 残酷な現実を受け入れ難くもう一度、生きていてくれと祈りながら声をかける。
「すいません、起きてください!」
「・・・・」
返事がない、ただの屍のようだ。
ゲームで馴染みのある状況、しかし現実になると笑ってはいられない重みが━━━━
「何だ一体?」
「生きてる?」
「ああ、一応な」
ちゃんと返事がある、屍じゃなかった。
「良かった! 助けに来ました」
暗く沈んだ表情をしているので少しでも元気付けようとしたのだがその人は少しも表情を変えない。
「助け? 俺には捕まってるようにしか見えんが?」
・・・それもそうか、身に付けていたもの、俺が常に身に付けている師匠の刀はおそらく町長のところだろう。あれは好きに呼び出せないので今はどうしようもないがもう一本はもはや身体の一部のようなもので奪われることはない。何も持たずに牢にぶち込まれて来た奴ではないと証明する為にここで出して見せたのだが「それで?」とずいぶん反応が薄い。
「それでって、これでただ捕まってるわけじゃないって分かったでしょう?」
「そんな剣が一本あったところで何になる? 助けって言うなら騎士隊でも引き連れて来てから言え。たかが人間一人が武器を持ったからってどうにかなる相手じゃないだろ魔族は」
「やってみないと分かりませんよ?」
「分かるさ」
「・・とにかく俺はここを出てあの魔族を倒そうと思います、でもその前に情報が欲しいんです。敵は一体どれくらいの数なのか分かりますか?」
「一匹だろうな、お前をここに放り込んだ奴しか俺は見たことがない」
「ありがとうございます」
感謝を告げて手にした魔剣で鉄格子をぶった斬り外に出る、そしてそのままあいつの気配が消えた方へと向かう。