第八十五話 蘇り
長い眠りから覚めたような感覚。
死んで生き返る瞬間はいつも夢と現実が曖昧になる。夢から目を覚ましたのか目を覚ましたという夢の中にいるのか混乱する。
死んだのに生きているのがあまりに俺の常識からかけ離れていてまだいまいち受け入れられてないのかもしれない。
まあこんなのが普通だと感じる様になってしまったら命に対する認識が自分に対しても周りに対しても狂ってしまいそうではある。
いつの間にやら元通りになった頭を数回揺らしちゃんとくっついていることを確認、周りにも人はいないみたいだしさっさと離れよう。俺を殺した一団に出くわしても面倒だし。
立ち上がりいざ出発という時に目が合ってしまった。
「なっ・・・お前、どうして!?」
最後まで俺を庇ってくれていた男の人が一人でまるで幽霊でも見るかの如く目を剥いて立ち尽くすしている。
「えーと・・これはですね・・・」
咄嗟の言い訳も出てこない。
なんと間の悪い事だろう、これであの人の目にも俺は敵として映るのか。
「お前、魔族だったのか?」
問いかけるその目は真っ直ぐこちらを見ている、そこには適当な嘘は通用しない力強さがあるように感じてしまう。
まあ俺としてもあそこまで信用してくれた人に嘘を吐くのも心が引けるので頭がおかしいと思われる事を承知で事実を話した。因みに異世界人というのは伏せた、ありえない要素を詰め込み過ぎても混乱させるだけだろうし。
「━━━━━━っという経緯でこうなったわけです。信じては貰えないでしょうがこれが嘘偽りの無い事実です」
「・・・・ちょっと待て、整理する。お前は魔族に心臓を抉り取られて死んだが何かすごい奴から不死の力を授かり指南を受け最後には消滅させて深淵とかいう場所から出てきて今は自分の心臓を奪い返そうとしているというわけだな」
自分で聞いてもとんでも要素が盛り沢山だと感じる内容だ、ここにさらに異世界と邪女神も加わってくるともう完全に理解不能な与太話にしか聞こえくなってしまっていただろう。
「ええまあ」
眉間にシワを寄せ頭を掻いている、理解が追いつかないのだろう。
「普通に考えれば信じられん話だな」
「ですよね・・・」
「だが俺は信じる」
「本当、ですか?」
「ああ、理由を聞かれても俺の直感としか答えられないがな、お前は悪い奴に見えないと判断した自分を信じる。もし間違っていてお前に殺される事になっても自分の心に従った結果だ後悔はない」
人間離れした異常性しか見せられず敵じゃないという証拠を何一つ示せていないのに信じてくれた。
なんだか涙が出そうだ、元の世界にいた時こんなに俺なんかを信用してくれる人がいただろうか、いいや居なかった。なんかこっちの世界に来て出会いに恵まれている気がする。
「ありがとう、ございます」
若干震えている情けない声だがしっかり感謝を伝える。
「礼なんて必要ねえさ、俺は俺のしたい様にしてるだけだ。というわけで暫く一緒に行動しないか? 俺の判断が間違っていなかったとこの目でしっかり確認する為に」
「それはとってもありがたい話なんですけど良いんですか? さっきのお仲間の事とか・・」
俺一人では魔法の知識なんてほとんど無いせいで今回みたいに知らず知らずのうちに敵の術中に嵌っている事もあるかも知れない、仲間がいてくれた方が心強い。
「ああ、ちょうど手を切ってきたところだしな」
「もしかしてさっきの事が原因で?」
「というより積み重ねだな。俺があそこに入ったのは人を助けるためだ、だがあそこは微妙に違ってたんだよな。最終的には魔族を倒して人をこの苦境から解放するのが目標らしいがそれ以外見えてないって感じなんだよなぁ。自分達の益にならなさそうなら平気で人を見捨てるし」
こんな世の中、余裕がないのだろう。大きな目的を成す為小を切り捨てるのは仕方のない事だと思うがどうしても非情に見えてしまう。
「間違っちゃいないのかも知れないがどうしても納得できなくてな、それに逆らって一人でどうにかしようとしたらお前も知ってる通り力及ばず捕まったというわけだ。だがお前は実力もある様だし益にならない人助けもするみたいだからな、俺の理想そのものだ」
あの牢獄での事か、あれは人助けではあるが無益かと言えば違う。こんな世の中にした元凶が俺にある以上あれは罪滅ぼしという罪悪感を緩和する益が発生している。
「苦しんでいる人がいたら出来るだけ助けたいと思ってますけど・・・自分の人助けはあなたとは違って自分のためにしてるだけで褒められるものじゃありません」
それを伝えると男は首を傾げる。
「何言ってる? 人助けなんて大体が自分の為にするもんだろう。俺だって人を助けて良いことしたなって気分に浸りたいからしてるだけだしな。つまりは自分の為だ、お前と違いねえよ」
考え過ぎだと肩を叩かれ笑い飛ばされる、そのおかげで少し気が楽になった。
今後も人助けをするなら仲間はいた方がより効率的にそして安全に出来るはず。
「じゃあお願いします、力を貸して下さい!」
「おうよっ!」
頼もしい仲間を得たところでまずすべき事は決まっている。
「一度伝えたかもですが改めて、自分の名前はユウタです、よろしくお願いします」
自己紹介をして手を差し出す。
「俺はアレウスってんだ、よろしくな!」
がっちりと握手を交わし仲間としての一歩を踏み出してすぐアレウスが足を止める。
「ところでこれからどうするつもりなんだ?」
おっと! そういえば言い忘れていた。
「これからバラックという街に行こうかと思ってます」
「ああ、あの街か。立ち寄った事はあるが正直あそこはお勧めしないぞ。街の人間全員が疎ましそうに見てくるし店に寄ってもなんかさっさとどっか行ってくれ見たいな感じだしよ」
「ええ知ってます、自分も一度立ち寄りましたから。会う人全てに何故だか嫌われてる中一人だけとても親切にしてくれてそれが嬉しかったからその人は良い人だとすっかり思い込んでました」
「何かされたのか?」
「その人なんですよ、あなた達の事を人攫いの悪人だと教えてきたのは」
「何っ!? って事はそいつがお前を利用して俺達を殺そうとしてきたってわけか」
「はい、おそらく」
「成る程な、じゃあさっさと行ってとっちめてやるか」
目的地を定め歩き始める。