第八十二話 裏切り
「ここか」
深い深い森の中、生い茂った草木が日の光を遮ってしまうような日陰者にはうってつけともいえる場所にいくつかテントが張られ周辺には結構な数の男達が地面で寝息を立てている。
早朝だからと言えども自分達がやってる事を考えれば無警戒過ぎる気がするがこちらとしては都合が良い。
さっそく潜入し攫われた人達の救出を始めた。
物音立てずにテントの一つ一つを確認していく、だがおかしい事に全部回り終えても助けるべき人達が見つからない。
どうなってる!? 外にもそれらしい人はいなかった、ひょっとして別の場所に移されたのか? だとすれば少々厄介だ。
少し脅してあっさり教えてくれれば楽なのだがそう上手くも行かないだろう、声を荒げての脅迫なんて慣れてないし。
ただ相手は人攫い、死なない程度に痛めつけるくらいは構わないだろうから言葉でダメなら最終的にはそう言う方法も覚悟しておくべきかもしれない。
「何してる?」
後ろで声がした。
見つかったと分かった瞬間即座に魔剣を呼び出しそいつの喉元に突きつけたのだが顔を見てお互い似たような反応を取る。
「「あっ!!」」
驚きの声、だってこんな偶然があるとは思っていなかった。
「あなたはっ!」
「お前っ!」
それはつい最近、地獄のような場所から一緒に脱出した男の人。
魔族の館から脱獄し途中で別れたがこの人も無事逃げきれていたようだ。
「まさかこんな場所でまたお前に会うとはな。つーか、お前やっぱり普通じゃないみたいだな」
突如現れ向けられた魔剣に目を向けながらそう言った。
慌てて消すも変な空気に包まれる。
「別に悪い意味で言ったんじゃねぇよ。そのおかげで生き延びておまけに大勢救うなんて事も成し遂げたんだ。あんな別れ方をしたまま死なれちゃ胸糞悪かったし生きてて良かった」
「正直一回は死ぬかと思いましたけど意外といけたので・・・って━━━━━」
こんな和んでいる場合ではない、すぐそこに人攫いの集団がいるのだ。
「今はゆっくり話してる場合じゃないんです、あそこにいる奴ら見えますか?」
「ああ見えるが」
「あいつらは魔族と繋がって人攫いをする悪人達です。普通であれば所持する事を許されない武器を全員が装備している、それが証拠です。分かりますか?」
「確かに装備してるが━━━━━━」
「攫われた人に危害が及ばないよう気付かれないように助け出そうとしたんですけどどうやらここにはいないみたいです、こうなったら力尽くで吐かせるしか」
「で、どうするんだ?」
「一人だけ生かして後は全員殺してでも・・・」
「成る程な」
この人も分かってくれたみたいだ。相手が人間であれ人助けの為に血を流すのは仕方のない事、悪事に手を染める方が悪いんだから。
「ええ、だから協力してあいつらを殺しましょう」
「いや、協力は出来ない」
そんな言葉と同時にキツイ一撃が俺の頬に叩き込まれた。
殴り飛ばされ意識も虚になりながらも「どうして?」とようよう声を絞り出し聞いて返ってきた答えに耳を疑った。
「仲間を殺させる訳にはいかないからな」
この人もまた人攫いの一員だったようだ。
裏切られた思いに憤りながらも殴られ朦朧とする状態ではどうしようもなく、近寄る男にもう一度殴られて意識は完全に途絶えた。