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第七十九話 心晴れない救い

馬車に揺られて数日、おそらくこっちら辺だろうという方向にひたすら突き進んでいるとなんと奇跡的に町を発見した。

町の名はギルアルド王国・・・・掲げられた旗にでかでかと見せつけるように書かれている。

数日前に倒した奴の名前がそのまま入った残念な名前だ。

自分の町だと広く周りに知らしめたかったんだろうな、自己顕示欲の塊みたいな奴だったし。

ともあれあんな奴が関与した町なら人間は虐げられ酷い生活を余儀なくされているのだろうな、血気盛んな魔族もいるかもだし注意して進むとする。


町の中を歩いて回った。

人間ばかりで魔族の姿は見当たらない、町の名前からして人間よりも魔族の方が多いと思ったが違うらしい。

しかしやたらと視線を感じる、どこか怯えたような目でこちらの様子を気にしている、それに・・・。

一通り歩き回って情報収集の為に人が集まっていそうな酒場に足を踏み入れる。


「いらっしゃいませ」


入ってすぐ随分と目のやり場に困る大胆な服装の女性達に迎えられた。

やたらと身体を密着させて男の扱いに慣れているみたいだがここで俺は理解してしまった、この町の役割を。

この女性達の笑顔の裏に隠された本当の思いは今まさに俺の腕を掴む震える手が物語っている。


「自分は魔族じゃありません、無理してそんな事しなくて良いです」


「えっ!?」


驚いて離れた女性達、無理して作っていた笑顔も消えて次に見せたのは俺を憐れむような眼差し。


「そんな、また・・・」


また、とはどういう事か分からないので置いておいて町を見回っての俺の考えが正しいのか確認する。


「この町には女性しかいないんですか?」


かなり歩き回ったが男には誰にも出会わなかった、そんなのどう考えたって普通じゃない。


「ええ、ギルアルド様の命令で男の人たちは全員別の場所に移されました。別の仕事があるとの事で連れて行かれたのですがもうずっと戻ってません」


「そう・・ですか」


町の男全員となるとそれなりの数にはなりそうだ。

あの屋敷で見かけた雑に放置された人骨の山が作れそうなくらいにはいたんだろう。

餌の残りだったらしいがあまりに胸糞悪くて不愉快にさせられそんな時に殺そうと斬りかかってくるもんだから容赦無く返り討ちにしてしまうほど気分を悪くさせられたことを思い出す。

可能性の話でしかないがあの時見たのはもしかしたらこの町の男達なのかもしれない。


「ここで働き続けていれば無事に再会できると言われ従っているんです、というよりそうする他ないんです。魔族以外の者が一度足を踏み入れるともう出る事はできないような魔法が施されています、だからあなたも囚われの身、やがてやってくる魔族に捕まりどこかに連れていかれる」


「多分大丈夫だと思いますよ」


元凶を倒したのだから解けているはずと考え町の入り口まで向かい外へと足を踏み出す。

すると何も起こらないまま外へと出ることが出来た。


「ギルアルドって奴は倒しましたから、もう自由です」


一人の女性が恐る恐る外へと足を踏み出し町から解放された。その後に続いて続々と壁一枚程度のほんの僅かな距離を進めたことに涙する。

支配から抜け出せた喜びを噛み締めていた。

予期せぬ回り道だったが結果的には良かった、ついでに此処が目的の町なのかも確認。町の名前が書いてあったであろう場所は塗りつぶされ馬鹿みたいな名前が掲げられていたので分からなかったのだ。


「この町の本来の名はバラックで間違い無いですよね?」


それが俺の目指すべき町の名。


「いえ、違います」


「・・・えっ!?」


「ここはバラックではありません、その町はここをさらに西へと向かった場所にある町です」


「・・・なるほど」


違ったらしいがまあ良いや。

確実に近づいてはいるだろうしまた馬車を走らせるだけだ。

詳しい行き方を知っている人物に教えてもらい出発する事にした俺を大勢で見送ってくれる。


「これからどうするんです?」


ふと彼女達の今後が気になった。

町に縛られる事は無くなった今どうするのか? 元凶とそれに付随する魔族達はあらかた居なくなった今それなりに危険は無くなっただろうがあくまでそれなりにだ、完全には脅威は無くなっていない。

どうにかしてあげたいが俺にもやる事がある、ここにずっと居続けることもできない。

そんな俺の迷いを見抜いたかのように一人の女性が言う。


「私達は大丈夫ですから行ってください、それなりに魔法の心得はあります。魔族には通じなくとも外の魔獣程度であればどうにでもなりますしギルアルドが倒されたのなら連れていかれた方達も私の父も帰ってくるでしょうからどうかお気になさらず」


「・・・・・そうですか」


何も言えなかった。

まだ分からない、きっと生きているとその子ではなく自分に言い聞かせる、でないとその純粋な笑顔に心が焼かれてしまいそうで俺は逃げた。

死んでいるかもと告げる勇気が俺にないせいで彼女達は生きていると信じて待ち続けるのだろう。

そんな罪悪感もありせめてもの罪滅ぼしにと馬車を譲ってまた一人歩き始める。



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