第七十八話 英雄爆誕?
「おいおい、こりゃどういう事だ?」
驚きを露わにするのは一人の男、全身武装した仲間を多く引き連れているその男は囚われていた牢屋からどうにか逃げ果せた人物。
無事仲間の元まで辿り着いた男はそこで見聞きした状況の悲惨さを訴える事で危険だと渋る仲間を説得して自身が捕らえられていた場所まで再び戻ってきた。
同じく捕まっていた人間を救う為だったのだが遅かったようだ。
「俺たちの出番はなかったみたいだな」
仲間の一人に声をかけられ「ああ」と返す、そこにもう囚われている人間はいないようだった。
悲惨な有り様、大きな戦の後を思わせる乱雑に転がる死体の数々。
その中でちゃんと息をしているのは不思議な事に囚われていた人間の方だった。
「何があった!? どうしてここの魔族は死んでいる? まさかお前達が殺したなんて事ないよな?」
牢で怯えるしかしていなかった奴らにこんな力があるとは到底思えない、となると他の者達の介入があったのだろうが魔族以外の死体は見当たらない。
魔族相手に一人の犠牲も出さずに勝利するなんて考えにくい。個々の力は向こうのほうが上、故に数を揃えて挑むのだがそうなれば確実と言って良いほどに犠牲が出てしまう。
「俺達じゃない、助けられて出てきたらこの有り様だった。多分あいつがやったんだ」
「あいつって誰だ!? そいつらはどれくらいの人数だ?」」
「一人だ、あんたもそいつの助けで先に逃げられたんだろ?」
「俺は新入りと一緒に逃げて誰にも助けられちゃいない」
「何言ってんだ? その新入りに助けられたんだろ、俺たちもお前も」
「なにっ!?」
何かの間違いだとしか思えなかった、男の記憶にあるその人物はとてもじゃないがこんな事ができるようには思えなかった。
どちらかと言えば頼りなさのある普通の若者。
「そいつは今どこにいる?」
「後で助けが来るって言い残して行っちまったよ、なんとも行くところがあるらしい」
これだけのことを成しておいて随分とあっさりとしている。
魔族の死体の中にはこの辺り一帯を統治しているギルアルドのものも、完全武装した人間が数十人で挑んでも返り討ちにあうような強敵もまとめて殺されている。
「何者だよあいつは」
呟いて笑いが漏れる。
あの時一人残ったのもこれが目的だったのだろう、捕まったのもそもそも中に潜り込むためにわざと。
この荒んだ世の中で突然現れ破格の力を振るい人を助ける、そんな存在がどう呼ばれるか誰だって知っている。
「英雄・・・」
可能性に過ぎないかもしれないが男の胸には少しだけ希望の光が灯った。
♢
「はぁ、随分と周り道してしまったな」
地図も失い記憶だけを頼りに進むほかなくなったが得たものもある。
それは馬車、荷物を取りに戻った瞬間多くの魔族が命を狙ってきたので返り討ちにしているといつの間にか全滅させていたようで持ち主も居なくなったしこっちは地図を奪われた代わりとして拝借してきた。
それにしたって魔族はなんて血気盛んなんだ、話を聞こうともしてくれずに殺せ殺せと迫ってくる。
同じ魔族でもあの姫様とは大違いだ、まあ、あの姫様は姫様でちょっとアレなんだが。
全部の魔族がああではなければ良いのだが。
心配を胸に目的の場所を目指す。