第七十六話 おや? おやおや?
大男以外の魔族は全員ニヤニヤと笑って俺の横を通り過ぎて行く、どちらが勝つか分かりきっていて手を出すまでもないのでもう一人の逃亡者の方に向かったのだろう。
随分と舐められたものだが助かった、これならば勝ち目はある・・・・・過程はどうあれ最終的に生きてる方が勝ちなんですよ、俺が力及ばず一回負けたとしてもね。
不死を利用した戦法、一度殺され終わったと思い油断し背中を見せた相手に襲いかかる卑怯なやり方。
だがこの世界の住人でもなく現代を生きていた若者に戦う者の矜持などあるはずもなく勝てば良いとしか思いません、なによりも命優先で動かさせてもらいます。
「言っとくが簡単には殺さないぞ、俺は人間の苦しむ顔が大好きだからな」
今更宣言されなくても見てれば大体わかる、なかなか殺されないのはちょっと面倒だがいずれ機会はやってくる、その時を待てばいいだけの事。
「気が合うな、俺もお前の苦しむ顔が楽しみで仕方ない」
挑発してみる、するとすぐさま大男は顔を紅潮。
人間の俺に馬鹿にされたのがよっぽど気に食わないのかキレた。
「ぶち殺す」と低く怒りの籠った宣言をしてから猛然と突出して剣を振り下ろす。
反射的に横に避けて当たりはしなかったが今の一撃を食らっていたら間違いなく身体が真っ二つに引き裂かれ即死、ついさっきの自分の発言はどうした?と怒り狂うあの顔の男に言ってやっても無意味だろう。
師匠は例え身体が真っ二つなっても更には粉微塵になったとしてもそのうち勝手に修復されると言っていたがさすがにそういうのは治るから痛くないから大丈夫とは言えない、俺の心は鋼では出来ていないのだ、譲歩出来たとしても縦ではなく横の真っ二つまでだろう。
精神的ダメージを懸念し全力で回避する。
当然それが出来ない相手なら腹を括るざるを得ないのだが意外と・・・。
「クソがっ! 避けてんじゃねぇよ」
喚き散らす大男。いやいや避けるでしょ普通、だって避けられるんだから。
大男が振り回す剣は何度も空を切り、その度に俺と大男の表情は取り替えたかのように先程とは逆転していく。
「はぁはぁ、ちょこまかと、鬱陶しい・・」
肩で息する大男、あれだけ出鱈目に振り回していればそうなるだろうさ。
自分の得物じゃないせいもあるのだろうが雑な事して外すたびにイライラを募らせて。
ただ、そうでなくてもこの程度の剣筋なら当たる事は無かったと思う。
何もかもが師匠より遥かに劣る。
そこで俺もひょっとしたらと思い始めた。
これ、勝てんじゃね!?