第七十四話 真夜中の逃避行
ある日突如として軍隊を編成して押し寄せてきた魔族、ここ数年はずっと影を潜めていた事もあって若干の対応の遅れもあったにせよそれほど危機感は抱いていなかった。
いくら魔族が強いと言っても数の面では人間の方が圧倒的に上回りこの時だって焦るほどじゃないというくらいの数の集まりでしかなかった。しかしそんな余裕は一瞬にして消え去った。
兵士達は手始めに遠距離からの弓と魔法による迎撃で敵の数を少しでも減らす予定だったが放った矢も魔法も全部不可思議な力に無力化された。
それならばと白兵戦を仕掛けるも全く歯が立たず一時間もしないうちにその街の兵士は全滅、以降そこの住民は魔族の支配下に置かれ奴隷の様な扱いを受けている。
今はどこも大体そんな感じなんだそうだ。
「そんな・・・」
思った以上に酷い状況に言葉を失った。
「でも、ここに比べりゃまだマシだ。この辺りを支配してる奴は適当な理由をつけては人を捕まえ飼ってる魔獣の食料にしてる、俺が捕まってる間にも何人か牢から出され連れて行かれたが戻って来たのはけたたましい悲鳴だけ、そいつは帰って来なかった」
言葉が出ない。
そんな事が日常的に起きているなんて・・・。
「そう暗い顔すんな、こんなクソみたいな状況を変えるために反乱軍がいるんだ。いつまでも奴らの自由になんかさせねぇよ」
言葉に意志の強さを感じる、俺がこっちに戻って来て会った人はほとんどこの現状に絶望しているのか一様に活力を失っている様子だったがこの男は違っていた。
この抑圧された今に怒りを持って生きているという印象を受けた。
ひょっとしてと思い聞いてみる。
「もしかしてあなたはその━━━━━」
「━━━━ああ、反乱軍の一員さ。情けない事に捕まっちまったがな」
♢
慎重に敵地を進む俺たちは今問題にぶち当たっていた。
堅牢な門が行手をさえぎっていたのだ。
「どうします?」
男に聞いてみるも彼もまた困った顔をしている。
「参ったな・・・鍵がないと開けられないか」
押しても引いてもびくともしない。
周りを取り囲む塀も高く何か道具でもなければ乗り越えられなさそう。
「仕方ない、魔法でぶっ壊すか」
牢の中では何らかの仕掛けで使えなかった魔法だが外に出た今は使える。しかし俺もこの男の人も鍵を開けるみたいな都合のいい魔法は使えない模様。
ぶっ壊すという表現から察するにそれなりに荒々しいものなのだろうがここでそんなのを使ったらどうなるかは分かりきっている。
「そんな事したらすぐにバレますよ?」
こんな真夜中の静寂の中この門を破壊する程の魔法を使えば一発で敵が集まってくるだろう。
「ああ、だがそれ以外に方法が無い。これから鍵を探しに行ったってどうせどこかで見つかる可能性の方が高いだろうしな」
「それはそうですけどもう少し━━━━」
他の手立てを考えませんかと言おうとした手前男の人は爆破した。
爆破系統の魔法だろうか凄いうっさい・・・。
「よし、走れ!」
背後から迫る怒号に背中を押されて駆け出した。