第七十三話 投獄から脱獄までの時間一日足らず
カビ臭く薄暗い場所、目が覚めた俺がいるのはそんな牢屋の中。
鉄格子の隙間から見える限り外には誰も居ない、だが中には俺と同じ様に捕まったであろう人間が何人もいる。
そのほとんど全てがやつれた表情をしてとても重苦しい空気感、とても話しかけられる感じじゃなく居心地がとても悪い。
あたふたしていると「あんた名前は?」と声をかけられる、その声のする先には若い男の姿があった。
一目見た印象でその男を表すなら怖い系イケメンか・・・・はっきり言って好かんタイプだ。
こういう人に声をかけられるとどうしてもおどおどとしてしまう。
「あ、え、自分はユウタって言います」
「そうか、それでお前はどうして捕まった?」
「反乱軍と間違われて・・」
「何だ違うのか」
あからさまにがっかりされてなんか申し訳ない気持ちに、別に俺は何も悪くないけど。
必要の無い罪悪感に苛まれているとその男はがっかりの理由を勝手に話し始めた。
「久しぶりに若い男が来たからもしやと思ったが・・・いや、この際一般人でも構わないか」
一人でなんかぶつくさ言ってると思ったら急にこっちにやって来て俺の首に腕を回すと端っこへと連れて行かれる。俺の元いた世界でこうなれば財布の中身が消えて無くなる可能性のある恐怖の瞬間。
だがしかし今の俺は何も持っていない、着の身着のままなのは見ればわかるので違うだろう。
端っこまで来て近くに誰もいない事を確かめる様に周りを見てからヒソヒソと耳元で囁く。
「ここから出るのに協力しろ」
この男は俺に脱獄を手伝わせるつもりらしい。
ここが普通の警察署で俺が罪を犯した結果この場にいるなら模範囚として刑に服すが俺を捕まえてくれた男、あんな奴がいる時点でまともじゃない。
「構いませんけど、なんで自分だけ? ここにいる人全員で協力したらいいのでは?」
そう聞くと男は首を振る。
「駄目だ、よく見てみろ。こいつらが外に出たところで逃げ切れると思うか?」
確かにもう走る気力もなさそうというか完全に諦めを感じる。
まるで死ぬのを待ってるみたいだ。
「こいつらは置いていく、俺が出られればそれでいい」
少し気が引けるがあんまり大勢での脱獄は目立つ、その方が良いのかもしれない。
相手の実力が判明しないうちは俺も下手なことはしたく無い、あの大男かなりのやり手に見えたし相手にするなら完全な状態で挑みたい。
「分かりました、でもどうやって出るんですか?」
「鍵を開けて出るんだよ」
男は服の中に仕込んでいたであろう細長い針金の様なものを取り出した。
♢
深夜、全員が寝静まったのを確認してから行動を起こす。
男は器用に格子の隙間から手を出して数分程かちゃかちゃと何かをして本当に開けてしまった。
「やりましたね」
「気を抜くな、ここからが正念場だ」
そろりと牢を出て物音を立てない様に慎重に行動する。
「誰も居ない、なんか静かすぎて逆に不気味ですね」
「こんなもんだろ。あいつら魔族は俺たち人間なんて完全に下に見てる、牢に見張りがないのもちゃんと身体検査しないのも舐め腐ってるからだ、そのおかげで出られたんだがあいつらにとっては脱獄なんて大した事ないんだろうよ、逃げたところで代わりを捕まえてくれば良いくらいに思ってるんだろ。あいつらにとって俺らは魔獣のエサでしかないんだから」
そう言えば俺もエサとして連れてこられた。
「どこもこんな状況になってるんですか?」
「知らないのか?」
驚いた様に聞かれたので嘘でごまかす。
「ええ、山奥にずっと引きこもって最近出てきたので」と世間知らずの隠者を装うと「なるほど」と納得し教えてくれた。
今置かれている人間の状況を。