第七十二話 卑劣
現在縄で縛られて馬車に乗せられている。
ガタガタと揺れる車内、むさい魔族の男達に囲まれて暑苦しいが我慢。
決断を迫られた俺は迷わず生き餌になるのを選んだ。
どうせどっちを選んでも殺されるなら少しでも長生きできる方を選ぶ事にした。
「しかし反乱軍にしては情けない奴だな、戦わずに死ぬ方を選ぶとは」
「だから反乱軍とかじゃないんですって!」
「嘘つけ、武器まで所持して違うわけないだろうが」
俺から取り上げた師匠の刀を手に取り鞘から抜こうとするものだから一応忠告。
「やめといた方がいいですよ」
俺は何ともないが一応は魔の武器、正直なにが起こるか分からない。もし死なれでもしたら俺のせいにされ色々と面倒な事になるのは明白。
しかし俺の忠告も虚しくそいつは抜いた、直後顔が青ざめた。
「っ!?」
何があったか知らないが屈強な大男がずいぶん情けない顔を晒しているのを見る限りそれなりの事があったんだろう。
「おいっ! 何だこれ!?」
額に汗をにじませ聞いてくる。
「さぁ何でしょう? 僕も拾っただけなので詳しくは・・・」
とぼけて知らん振りをすれば反乱軍という疑いも晴れて解放されるなんて事をちょっとだけ期待。
「拾っただけ?」
「はい、なので反乱軍とは全くの無関係なのですよ、だから解放してもらえませんかね?」
「ほう、そうか。ならば解放してやろう」
なんと! 意外な展開。正直話が通じなさそうな脳筋野郎って感じだったからダメ元だったんだが。
「ありがとうございます、じゃあ縄ほどいてもらえます?」
「ほらよ」
ようやく自由の身になったしさっさと戻ろう。元いた場所から大分離れてしまったが仕方ない。
「僕の持ち物も返してもらいたいのですけど・・・」
「ああこれか」
オヤジの地図、食料などなど詰まった大事な物だ失うわけにはいかない。
すんなり返してくれればいいのだがそいつはとんでもない事をしでかした。
荷物を持ち上げて俺に手渡す様に見せかけて燃やした。
「おっと悪い、ごみと間違えて燃やしちまった。そういやこれがお前の荷物だったか悪い悪い」
「なんで・・・」
放心して立ち尽くす俺を見てそいつは楽しそうに笑みを浮かべ次に短剣を俺の太腿に突き刺した。
「解放するわけないだろ、餌の分際でふざけた事を言った罰だ」
解放されると喜ばせてから落とす、人の絶望する瞬間を楽しみたかったのだろう。
その後頭部を殴打され俺の意識は暗転した。