第七十一話 旅立ちの夜はいつだって・・・
荒野を行く、ひたすらに荒野を行く。
出会うのは魔獣だけという過酷な旅路。
この辺はこれが普通なのかそれとも魔族の侵攻によって変わってしまったのか、おそらくは前者だろう。
本来ここを行き交っていたであろう馬車の残骸が散見し中には色んな道具がそのまま放置されている。
そして遺体もそのまま。
魔族か人間かはたまた魔獣かに襲われたのだろう。
元々安全だから使われていた道も世の中の状況の変化によって治安が維持できなくなり使われなくなったというところだろう。
ちゃんと埋葬してあげるのが良いというのは分かっていながらも俺にはその陰惨な光景を長く見続けていられるほどの精神力は無く目を背け足早に通り過ぎる事にした。
逃げるように歩き続けているといつ間にか日も暮れていたのでそろそろ足を止めて適当な場所で野宿。
師匠から受け継いだ火の魔法で灯りを灯しオヤジに頂いた食料を頂く。
質素ではあるが人の優しさを感じる心温まる食事に満足してやる事もないので寝るとする。
ガサガサ
物音で目が覚めた。
以前寝込みを襲われ学んだ俺は熟睡しないよう心に決めたのだがそんな熟練の兵士みたいな真似簡単に出来るはずもなく疲れて寝ればもう熟睡。
すっかり魔物に囲まれたところでようやく目を覚ますという有様。
その数およそ十数匹、やかましくワンワン吠える犬科の魔獣は吠えるだけで一向に襲って来ようとはしない。
理由はすぐに分かる、そいつらはそう教え込まれているからだろう。
「ほう、こりゃ面白い物を見つけちまった」
このやたらデカい剣を肩に乗せニヤニヤと近寄って来る男に。
「まだ反乱軍の生き残りがいたのか」
反乱軍? 俺は別に何かに対して反乱した記憶は無い、勘違いをしているようなので訂正しておこう。
「人違いでは? 自分反乱とかしてませんから」
すると男は持っている剣を威圧のつもりか激しく地面に叩きつけ衝撃で土を撒き散らす。
土をかけられ迷惑だ、なんて悠長に言ってる場合ではない。そんな事より気にすべき点はこいつの馬鹿力だ。
片手で軽々馬鹿デカい剣を振るう、どう考えたって常人ならざる行いに俺も寝起きのだらしない目を擦って気を引き締める。
「俺様に口答えとはな。よしじゃあお前は死刑だ」
えっ? え・・・ちょっ・・ええ〜!?
あまりにも横暴すぎる判決に俺もさすがに黙ってはいない。
「いきなりおかしいでしょ!」
「おかしくない。人間風情が俺を不快にした、だから死刑だ」
「何であんたを不快にしただけで死刑なんだよ!?」
「何故だと? 俺様への逆らいはギルアルド様への反逆も同じ、黙って言いなりにならないようなふざけた奴は全て反乱軍として扱う、つまり死刑だ」
誰だよそいつ!?
意味不明な事だらけだが一つ分かった。
こいつはおそらく魔族だろう、身体から放たれる魔力の質が普通の人間とは違っている。
魔力体になったせいかなんとなくそういう違いを肌で感じるのだ。
それは普通の人間の魔力をそよ風のようなものと例えるならこいつの身体から発せられるのはムワッとする気持ちの悪い熱波の様なもの。
「そうやって今までも人間を殺したのか?」
「ああ、だが別に意味なく殺すわけじゃない。殺した後はちゃんと魔物共の餌にして少しも粗末にする事なく有効活用してやるんだ。まあ、必要以上に殺しすぎて無駄にしちまった人間もいるが大半はちゃんと消費してやってる」
ここに来るまでに見た遺体は殺しすぎた事による余りという事だろう。
こいつらの行いは人間が別の生き物にしている事とさして違わず俺の立場でどうこう言う資格は無い。
「大人しく餌になるってんならこの場では殺さずに持ち帰ってやるよ、生きたまま与えた方が新鮮で喜ぶしな。だが、少しでも抵抗するならここで生きたまま解体処理する、どうする?」
どっちも死ぬしかない選択肢だ。
俺が出した決断は・・・・。