第七十話 オヤジに見送られての出発
様子を見て来るくらいとは思ったが安請け合いをしていざ場所を聞いてみたら遥か遠くなんてなったらちょっと困る。
とにかく場所を聞いてみよう。
「娘さんは今どちらに?」
「お前さんがこれから向かう場所だよ」
「それって魔法道具職人がいるっていう・・」
「そう、そこだ」
だったらお安い御用じゃないか。
サッと行ってパッと見つけてサクッと道具で戻って来る、簡単だ。
「分かりました引き受けます、それで、場所は?」
「ちょっと待っとれ」
そう言ってオヤジはいそいそと店の奥へと消えていく。
それからちょっとして戻って来たオヤジの手には丸められた紙のような物が握られている。
そいつを広げるとそれがなんなのかすぐに分かった。
「地図ですか?」
「ああ」
「これで場所を教えようとしてくれてます?」
「ああそうだ」
困惑した。
だってこれ言わば大陸地図みたいなもんだ、俺が求めている情報教えるったってこれじゃ無理じゃね?
「もっと詳しいのがないとこれじゃさすがに分かりませんよ」
当然の如く意見するとオヤジは待っていましたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべ「やはり知らんかったか、では見ておれ」と人差し指で軽く地図に触れる、すると描かれていた絵が変化し別のものに、さっきより詳細に描かれたものに変わった。
「あ、変わった」
一応驚いてはいるのだがオヤジが期待する様な驚きっぷりとは違ったみたいだ。
「なんだその反応は? こいつは結構な貴重品だぞ、この性能を見てその程度の驚きしか見せんとはふざけた奴め」
俺が飛び上がって驚くと思っていたのだろうか?
しかし生憎その手の機能に似た物を知っている、俺の元いた世界では当たり前の様に思っていたが当たり前の事が当たり前でなくなって人は初めて当たり前の偉大さを知る。
当たり前の事って本当は当たり前じゃないんだな・・・・。
名言の様な一文を閃いてしまったがこれは今はどうでもいい事。
口をとんがらせるオヤジに「驚きすぎると逆に」的な誤魔化しをして取り敢えずオヤジの気分も元に戻った。
「いいか、ここが今いるこの村でお前さんの目的地がここだ。この地図を貸してやるからちゃんと確認しながら進むんだぞ、いいな?」
「分かりましたけど・・なんか書く物ないんですか?」
「書く物?」
「ええ、一応目印に」
「お前さん、儂が言ったことをもう忘れたのか?」
「言ったこと?」
何かメモの取り方なんて言ってたか? 指でなぞると文字が書けるみたいな。
そんなこと聞いた記憶はないので首を傾げて答える。
「これは貴重品だと言っただろう、落書きなどもってのほかだ馬鹿者が!」
怒られたので逃げる様に出発の用意を始めすぐに完了。
「それでは行ってきます」
オヤジに別れを告げて早速出発というところで止められた。
「何が“行ってきます”だ馬鹿タレ! 水も食料も持たず準備完了などとふざけるのも大概にせい!」
また怒られた、が今回はこっちにも仕方ない事情というものがあるので「でも」と口答えしようとするとオヤジの怒声にかき消された。
「黙れ黙れ、全く。ちょっと来い」
言われるがままついて行き再びオヤジの店の中。
数十分後。
そこには見違えるほど準備万端の俺が。
水と食料とその他を背中に背負った大きな鞄に詰め込んでいる。
全部オヤジから支給されたものだ。
「良いんですか、こんなに?」
さすがに気が引ける。
他人にここまでの事を簡単にできる程大金持ちではないだろう、どちらかと言えば生活も苦しそうにも見えた。
これは貰いすぎだ。
「構わん、適当な装備で送り出して途中で死なれてはそっちの方が困る。お前さんには貴重な地図を持たせてあるんだ、それにしっかりと頼み事をこなして欲しいしな」
「店長・・・」
「リーベル、そいつが俺の名だ若造」
「ユウタ、それが俺の名前です」
互いに名乗り合いガッチリ握手を交わして今度こそ本当に出発した。
必ず戻って来ると約束して。