第六十八話 逆転した世界
「よし! これだけあれば2、3日分の食料代くらいにはなるだろう」
襲ってくる魔物を手当たり次第狩ったおかげで素材はたんまり、さっさと帰って換金だ。
♢
「悪いがうちじゃ引き取れないな」
村で唯一の店に来て素材を見せたらこの対応。
「何でですかっ! ちゃんと見てくださいよ! ほらコレなんて上等な牙ですよ、加工すればなんか良いものになるんじゃないですか?」
店主のオヤジの目の前に突き出しもう一度考えてもらう様に訴え出たがオヤジの厳つい顔はさらに皺を増す。
引き下がろうとしない俺が面倒で仕方ないというのが表情に出てる。
「牙なんて大して使い道がないんだよ、それにコレもコレもっ」
オヤジは俺の努力の結晶を雑に扱う。
それなりに強力な魔物から得た素材だというのに見る目のないオヤジだ。
「もういい! 別の所に行く」
もっとちゃんと物の価値がわかる奴が居るはずだ。
手当たり次第声をかけていれば誰か欲しいという人に出会うだろう、という俺の考えをオヤジがしっかり邪魔をする。
「どこへ行ったって無駄だぞ、誰もそんな物欲しいと思わん」
「親切にどうも、でもまだ分からないでしょ」
少し不機嫌に受け答えしてしまったが構わないだろう、人の頑張りをゴミみたいに扱ってくれたんだから。
そもそもオヤジは少しも意に介していない、それよりも何故か変な物にでも遭遇したかのような感じだ。
「あんた何も知らないのか?」
「何を?」
「いまの状況だよ」
「状況?」
そういえばなんか村全体活気を失っているみたいだった。
目に入るのは暗い顔をした人たちばかり、聞こえてくるのはこの先を憂う嘆きの声。
納得いった。
俺を助けてくれた人の話も合わせて考えると恐らく近くで魔族が暴れているとかで普段の仕入れのルートが使えず別の方法で仕入れを行うも追加で費用がかかりそのせいで商品の値上げにつながり村全体で生活が厳しくなっている、そういうことだろう。
この村の人は皆経済的に苦しくて素材なんかにお金を回す余裕が無いんだろう。
買うなら食料とか生活必需品が優先でこんな若造が売る素材になんか見向きもしないということか。
ならばお金に余裕がありそうな人を見つけるとするか。
その魔族を懲らしめるのはたんまり集めた素材をどうにかして身軽になってからにしよう。
「成る程、じゃあこの近くでこれを買ってくれそうな人知りませんか?」
オヤジは口を半開きにして唖然としている、そして次にやれやれと言った表情で顔を左右に振る。
「あんたよっぽど田舎の出身か? いいか教えてやる、誰の所に行ったって売れやしないんだよ。そういう武器に加工できそうな物のやり取りは見つかればえらい事になる、最悪殺されるんだからな」
何それ知らないんだけど。
ってかそれなら本当にここどこだよ!? 俺がこれまで行った場所とは法律的なものが違うってこれもう別の国的な場所なんじゃ・・・。
冗談だろ、遠く離れた場所にいて手っ取り早くお金を稼ぐ手段も無い、そうなると馬車も利用できない。
何処ぞに魔獣討伐依頼のお便りでも貼り出していたらそれをこなしてお金を稼ぐがそんなものも無い。
出来ることは店を回ってバイトとして雇ってもらうほかないが・・・それは最終手段だ。
全く変なルール作りやがって。
「武器に加工できそうなものって随分ざっくりしてるしそれで死刑なんて、そんなとんでもない決まりなのに誰も反発しないんですか?」
こういう時こそ民衆は声を上げるべきだ。
「反発なんかしようものならそれこそ殺されるぞ」
あーそういうタイプか。
クソ野郎の独裁的なのを想像したがオヤジの口から語られたのは俺の予想とは違った。
「魔族は血も涙も無い、自分たちの都合の良い制度を作り上げて人間からひたすら奪い尽くす。王都が魔族に落とされて以来どこもこんな感じだよ、あんたの所はそうじゃなかっただけ幸運だと思った方がいい。こんな所にいるより故郷に帰る方がいいと思うぞ」
「えっ!? ちょっと待ってください! もしかしてその決まりって魔族が決めてそれに人間が従ってるんですか?」
「ああ、腹立たしいことにな」
てっきり俺は魔族が以前よりも頻繁に姿をあらわすようになり人間界で悪さをするようになったんだと思っていたが事態はさらに深刻だった。
今や魔族の下に人間がいる。
「・・・・あの、聞きたいんですけどハルピュイアって街知ってます?」
「ああ、確かその街が一番初めに魔族の攻撃を受けて酷い有り様だって聞いたが知り合いでもいるのか?」
「・・はい、おそらく」
「そ、そうか、だがまあ悲観する事もねぇと思うぞ。何人も死人が出てるなんて話は聞かねえし」
オヤジなりに気を使ってくれたのだろうが俺の心は穏やかではいられない。
俺の心臓によって強化された魔族が人を虐げている、しかもみんながいる場所だ。
師匠から不死を引き継いでまで戻って来たのは取り返す為、自分のせいで死者が出るのはさすがに堪える。後ついでにあの悪魔の思惑をぶち壊して人を馬鹿にしたあいつの顔を焦りで満たしてやるというのもある。