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第六十七話 荒野を行く

形だけでも弔いのつもりで師匠のお墓を建てた。

遺灰も無いただ土の山のてっぺんに石を置いただけの簡素なものだが何も無いよりはいい気がした。

師匠の様な偉大な人には不釣り合い過ぎるかもしれないが勘弁してもらおう。

手を合わせ最後の別れを済ましてその場を後にする。





たった一人でボロボロの家に戻ってしばらく思い出を噛み締めると辛い特訓の日々ばかりが頭の中を駆け巡っていく。

その当時はただただ鬼教官としか思えず何度も不平不満を漏らし逃げ出したが今にして思うと・・・いや、やっぱり鬼教官だ。倫理的にアウトな訓練ばっかりだったし。

でもそこに恨みは微塵も存在しない、寧ろ感謝しかないからだろうかこれからこの場所を出ていくことに寂しさを感じている。


「寂しいなんて言ってたら師匠にしばかれるな」


きっと後ろから「さっさと出て行け!」と蹴り飛ばされて何メートルか宙を舞う。

容易にそんな姿が想像出来て可笑しくなって若干湿っぽくなった心も晴れてきてくれたのでここぞとばかりに旅立ちを決めた。



深淵から魔界、魔界から人間界への行き方は師匠に教えて貰っている。

単に上へ上へと登っていけば良い。

深淵、魔界、人間界は地層のようになっていて深淵の上には魔界が、魔界の上には人間界が存在する。つまり今この深淵の空を覆う闇は魔界の大地、そこに穴を開けて突き進んでいけば魔界に到着する。

問題はその方法だが穴自体は既に出来ているらしい、なのであと考えるべきはどうやって天高くにある穴を抜けるかなのだがそこに関しては師匠が既に解決してくれている。

師匠曰く『ドラゴンがいるだろう』との事。

適当なドラゴンの背中に乗って頭の角を上手い事引っ張って動きを制御して連れて行ってもらうとの事らしいのでやってみたら全然上手くいかず挙げ句の果てには途中で振り落とされて地面に叩きつけられました。

そもそも俺の筋力では角を引っ張ったところでびくともしない、不愉快な気分にさせるだけ。

早々に師匠のやり方に見切りをつけすごく考えました。

そして試行錯誤の末閃いた策は全身にドラゴンの尿を浴び人間の匂いを消してこっそりドラゴンの背中に飛び乗ってそいつが偶然運良く穴を抜けるのを待つというもの。

単なる運任せ、何度も失敗した。

でも俺は師匠に辛抱強く耐え続ける精神力を鍛えられている、そのおかけで数日後なんとか深淵を抜ける事に成功した。


次の魔界から人間界への旅路に関しては思いの外すぐに終了を迎える。

何故ならこちらは人間界へと続く階段が作られていたのでそれを登っていきだけで済んだから。


そうして数々の試練を超えて再び人間界へと舞い戻った。


「眩しい」


陽の光が猛威を振るう。

深淵の明かりといえば師匠がそこらかしらに立てた松明の明かりだけで基本光量が足りて無い。魔界も深淵程ではないが薄暗くそんな場所から出てきた俺にこの光は久しぶり過ぎて目への刺激が強い。しばし時間を掛けて目を慣らしようやく見上げた空からの光、ぽかぽかとする心地よさの懐かしさに涙が出そうになった。



俺は戻ってきたのだ。



・・・・・・それで、此処はどこだろう?

見たことのない景色というか見るもののない景色、眼前にはただただ荒野が広がっていた。

絶望、以前までの俺なら此処で一旦心がへし折れていただろうが今は違う。

何もないなら何か見えるまでひたすらに歩けばいいじゃない。空腹や脱水でも死なないのは確認済み、空腹感は感じるが危険な状態まで陥れば身体が勝手に修復する。体内で水分や栄養といった必要なものを勝手に作り出して普通の状態まで回復してくれるのだ。

ずっと飲まず食わずでも進み続けられるのだから足さえ動かしていればいつか何かしら見えるだろと不死であるが故の無茶が出来る。

というわけで出発。








何度も死にかけてそれでも歩みを止めず進み続けた。

その結果━━━━━━未だ荒野を彷徨っている。


「はぁはぁ・・・」


本当に終わりがあるのだろうか? 変わらぬ景色は延々と同じ場所を回っているみたい、鍛えられた精神力も終わりの見えない絶望によって徐々にする減って当初の余裕も消え去り遂には絶望感に押し潰されようとしていた。


視界が歪む、死にかけの合図だ。

ついでに幻覚も見えてきた。建物とこちらに向かってくる人影、俺の理想とする光景がグニャグニャに歪みながらも死ぬ間際の優しい幻覚として現れた。

求める様に手を伸ばした瞬間、限界を迎え倒れ込む。

喉もカラカラ、お腹も空いてもう疲れた、回復するのを待ってからあの建物の所まで行こうと目を閉じた。








目覚める。

問題なく動けるくらいには回復しているがおかしなことが一つ。

天井が見える。

確か俺が倒れたのは土の上、憎々しい晴天の空が視界一杯に見える自然の中だったはず。

それが今いるのはテントの中のようだ。

キャンプで使う様な三角形の形、だが俺が立っても頭三つ分くらいの余裕があるくらい高さがあり四畳ほどの幅もあって窮屈感はない、そして此処で誰かが生活していると見受けられる物が色々と置かれている。

そんな風に状況確認をしていると外から声が。


「いつまでもは置いておけん、動けるようになればすぐに出て行ってもらう」


「でもまだ子供なのよ」


「それでもだ。余裕が無いのは知ってるだろう?」


「それはそうかもしれないけど・・・」


「他人の事よりもまずは自分達のことだ。可哀想かもしれないがそうするしか無い、いいな?」


「・・・ええ」


夫婦だろうか?

言い合ってるみたいだがもしかして俺のせいか?

その時、テントの入り口から女性が現れ目が合った。


「あら? 目を覚ましたのね。良かった」


優しい笑みと声、さっき聞こえてきた声だ。


「あ、はい」


「あなたこの村の側で倒れてたの、かなり酷い状態に見えたんだけど・・・」


俺の回復具合に戸惑っているようだ。まあ普通じゃないし当然の事。


「休ませてもらって良くなったみたいです。ありがとうございました」


「そんな礼なんて、大した事は何もしてあげられてないのに」


「いえいえ、それでも助けてくれたのは事実ですので。お礼に何か出来ることがあればと思ったんですけど、それよりもさっさと出て行ったほうが良いですかね?」


「もしかしてさっきの話を・・・」


「ええ、まぁ」


「ごめんなさい! 嫌な思いをさせてしまって。あの人も本当は助けてあげたいって思ってるはずなの、でもその余裕が無い、だからあんな言い方・・・」


深く頭を下げて謝られても困る、別に悪い事をされたでもなく助けてもらっただけなのだ。


「いえいえ全然気にしてないので大丈夫です! 寧ろ俺の方こそそんな大変な時にお世話になってしまったみたいですいません。もし俺に何か出来ることがあるなら遠慮なく仰ってくれませんか? 助けて貰ってお礼も何もしないっていうのは流石に申し訳ないんで」


恩を受けるだけ受けてあとは知らん振りなんて出来ない。

英雄の後を継ぐ者として困っている人は助けると心に誓ったのだ。


「気持ちだけ頂いておくわ、こればっかりは誰にもどうしようもないから。魔族の相手なんて普通の人に出来っこないもの」


「そう、ですか・・」


命よりも大切な師匠の刀と俺の魔剣、荷物はたったこれだけ。二つを手にしてそそくさと出て行く。

「ありがとうございました」と最後に再び感謝、そうすると助けてくれた女性は申し訳なさそうに「どうか気を付けて」と声を掛けてくれた。




さて、これからどうするか? 村を少し歩いて考える。

お金がないのが一番の問題だ。

道中倒した魔物の素材でも採取しておけば売って金になったかもしれないが持ち運ぶための袋が無く放置してきた結果完全な一文無し。

どうにかなるといっても飲まず食わずはそれなりにキツイのでとりあえずも目的はお金を稼ぐ事。

この村付近の魔物なら素材の持ち運びも苦じゃないし。


「労働に勤しみますか」


俺は村を出る。




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