第六十五話 地獄の試練
「げほっげほっ」と吐き出した血が地面を汚す。
「無理、ですって、今の俺には」
「無理では無い、やろうと思えば出来るはずだ!」
そういう精神論とは最も相性が悪い世代、努力、根性が必ず良い結果に繋がるなんて馬鹿らしいと鼻で笑ってしまう年頃。
例に漏れず俺もその一人、つまり俺の出す結論は“出来ないものはどうやっても無理!”という現実的なもの。
頭の中を巡るのは如何にして師匠を止めてまた後日という展開に持って行くか。
「分かりました! なら明日でどうでしょう? 師匠だって初めは乗り気じゃなかったですし俺も勢いに任せて了承してしまったところがありますし・・・ね?」
男が一度決めた事を覆すなと思われるかもしれないが決断しやってみる事で分かることもあるというもの、やっぱり出来ないと思ったら早々に撤退する決断を下すのは恥ずべきことじゃ無い。
愚直に厳しい道を進むのではなく別の道に光明を見出す方が賢く効率的に決まっている。
歴史に名を刻んだものだって時には後退する事もあったが偉業を成し遂げた者は沢山いる、つまり、そういう事さ。
だが師匠は違った。
「却下だ、気が変わってしまった」
深いため息を吐いて心底呆れ果てているかの様な声を出す。
少しだけ怖いと感じてしまう程いつもと違う。
本気なんだなと聞くまでもなく分かる声色。
多分もう何を言っても聞き入れてもらえない気がする。
「もしかして怒ってます?」
「ああ、怒っている」
何故突然そんな風になってしまったのか全く分からない。
俺の弱音なんていつも通りで普段であれば多少呆れられるくらいの筈なのに。
「俺、なんかしました?」
「いや、何もしていないよ」
「だったらどうして?」
「だからだ、自分で決めたかと思えば弱音を吐いて止めようとする。まだ僅かしか手合わせしていないというのに」
二、三度も鮮やかに吹き飛ばされたら普通無理だと思うものなんですけど・・・。
ただ理解した。
要するに根性を見せてみろという事なんだろう、すぐに諦めず何度も立ち向かう姿勢を。
なら仕方ない、柄では無いが師匠が納得するまで泥臭く立ち向かってみせますか。
どうせそのうち終わる、この時の俺はそんな風に甘く考えていた。
数日後・・・。
いや、マジで数日後・・・。
数えるのも嫌になるくらいの敗北を味わって尚終わらない。
途中あんまりにも辛かったので逃亡しようとしたら師匠の投げた小石が弾丸の如し勢いで俺の足を破壊した。
終わりが見えない。だって未だかすりもしていない。
しかし、俺に止めるという選択肢はないらしい。
「さぁ立て」
師匠の言葉にもはや身体は自然とそうする。
抗うだけ無駄だと散々教えられ続けた結果だ。
果てしなく続く地獄の特訓、これは一体いつ終わるのだろう・・・。